第21話 貴族からの依頼
助けた少女から誕生日に料理をして欲しいという依頼を受けた。
屋台の片づけが終わってすぐに、わたし達はハンナさんの所へ向かう。
今日はフェニックスを肩に乗せていて、ソラと九尾は外で待つということだった。
「ハンナさん」
「ピー」
「あ、ちょうどいい所に、あなたに調理の依頼が来ているわよ。フェニックスもこんにちは」
「ピー!」
ハンナさんは律儀にフェニックスにもあいさつをする。
わたしは話を戻すために聞く。
「依頼はどういうものですか?」
「依頼主はヴェスカー男爵様、日時は3日後で食べる人数は10人。達成報酬は5万ゴールド。食材費はあちら持ち、先に準備はしておくけれど、高価すぎなければ食材を追加しても問題なし。ただ、ミノタウロスの肉を使った料理を作ってほしい。あと、エビフライもたくさん作ってほしい。という内容ね」
「これは……とてもいい仕事のように聞こえますが……」
「ピー!」
わたしが毎日稼ぐよりも実入りはいい。
わたしも毎日これ以上の売り上げを出しているけれど、材料費や滞在している宿代等を引いたら結構寂しくなるのだ。
正直美味しい話すぎて裏がありそう、ということの方を心配した方がいいかもしれない。
「問題はないと思う。この貴族様は下級貴族……だけれど、過去にやった依頼も問題なかった。素行調査は流石にできないけど、噂では真面目でいい人だそうよ。家族への愛が少し重たい……という話が聞こえてくるくらいかしら」
「ならお受けします。ただ、お聞きしたいことがありまして」
「なに?」
「なぜミノタウロスの肉を使わなければならないのですか?」
別に問題がある訳ではないのだけれど、一応理由くらいは知りたい。
前に出した時はエビフライだけだったので、そちらの理由については納得できるのだけれど。
「ああ、これは貴族としてのプライドね」
「貴族としてのプライド?」
「そう。誕生日を祝うのは貴族くらいだけれど、祝うならちゃんとした祝いごとにしたい。そして祝うのなら、高価なミノタウロスの肉くらいは使わないと……それは祝ってないんじゃないのか。っていうことになるの」
「なるほど……」
「王族とか高位貴族とかだと馬上戦とかの催しものをして、まるでお祭りみたいにするんだけどね。下級だと懐もそこまで温かくはない。それでもミノタウロスの肉を使って、ちゃんと平民とは違うんですよ。ということを示さないといけない訳よ。大変でしょ」
「ええ」
「ピー」
確かに大変だ。
だけど、それだけ高価なことをするのであれば、わたしがしっかりと……いいものにしてあげたい。
お祭りなんてできないけど、そこで出されているような料理くらいは出したいのだ。
「ただ……」
「ただ?」
「ミノタウロスの肉というのは、どこで購入できるのでしょうか?」
「ふふ、ここで扱っているわよ!」
ということだったので、ミノタウロスの肉を購入して帰る。
ただ、目が飛び出そうだった。
ミノタウロスの肉は1キロ3万ゴールドという、もう……確かにこれは平民では食べられないわ……。
と思うような肉だった。
むしろ、これだけの肉を使って、1つ2000ゴールドで出しているあの屋台ランキング1位はどうやっているのか。
独自ルートで安く仕入れているのか気になる。
そんなことを思いながらハンナさんの家に行き、とりあえずということでオーク肉を焼いた物を出す。
みんなが美味しいと食べてくれた後に、わたしは考えながら料理をする。
ミノタウロスの肉を薄く切って焼いて食べたのだけれど、どことなく牛肉に近い感じだろうか。
ただ、普通の牛肉よりも味が濃く、さらに脂身が少ない。
それに、結構塩味がついている。
保存のためにされているのだろうか?
しかもかなり固く、顎が鍛えられていないと少し食べにくい。
「ふむ……ですが、まずはお肉の美味しさを知るためにも、普通のステーキで食べてみましょうか」
ということで、わたしは購入したミノタウロスの肉を、ステーキ肉の大きさで切っていく。
一人200gくらいだろうか。
今回のことを見越して1200g購入してあるので問題ない。
わたしはフライパンを熱して、強火にしてからミノタウロスの脂を敷いてステーキを焼く。
まずは1分間、しっかりと焼き目がつくまで焼き、次は裏返して1分間。
この時は弱火にして、じっくりと中に火を通す。
最後の30秒でバターをかけてコクを出す。
後はフライパンからあげて、オークの胃袋で肉を休ませる。
アルミホイルがあれば良かったのだけれど、ここにはないのでこれで代用だ。
そうして作っていき、人数分が完成する。
「皆さま、ぜひ召し上がってください」
「美味しそうー! すっごいいい香り!」
「ミノタウロスの肉なんてめったに食えるもんじゃねぇからな!」
「美味しそうだニャ!」
「ピー!」
「たまにはいいものだね」
「塩コショウの味付けは自分でお願いしますわ」
「はーい」
ということで、みんながみんな塩コショウを振って、いざ食べ始める。
美味しい。
肉本来の味がとても強く、塩コショウ程度でも十分だ。
むしろ肉の味が強すぎて、わたしがかけた量では足りなかったかもしれない。
かみしめるたびにどこにあったんだと思えるほど肉汁が出てきて、噛むのをやめられない。
「とても……美味しいですわね」
「………………」
「ピー!」
フェニックスは小さく切ったのを丸のみなので、普通に答えてくれる。
他のみんなは、じっと黙って口をもぐもぐとさせていた。
ずっと……みんなずっと噛んでいる。
むしろ噛むのが楽しい肉だったりするのだろうか?
ただ、やはり一度食べた時に思った通りかなり固い。
ああ、だからエビフライを大量に……ということだったのでしょうか。
それなら、あの女の子もミノタウロスの肉が食べられなくてもなんとかなる。
最初に飲み込んだのは、アミアさんだった。
「ああ、そうだろう? 美味いけど、この固さがいいんだ……っていう連中もいるぜ」
「どういうことですの?」
「これだけ固い肉をゆっくり食べるのが優雅な証なんだとか……まぁ、聞いた話だから詳しくはしらねーけど」
「なるほど」
そこに、ようやくハンナさんが肉を飲み込み口を開く。
「あたしもそれ聞いたー。本当かは知らないけどね。でも、貴族には柔らかくする調理法があったりするのかしらね? それとも我慢して食べてるのかは分からないわ。やっぱりカレンのステーキは美味しい。お店で食べた時よりも旨味が多くてずっとかんでいられるもの」
「ありがとうございますわ」
みんなが美味しいと言ってくれるので、このまま出してしまおうか?
そう思ってしまう。
でも、それでは、きっと……あの子は喜んでくれないのではないか。
もちろん、エビフライ等もあれば喜んでくれるとは思う。
けれど、一緒にミノタウロスの肉も食べられれば、より素敵な誕生日になる気がしていた。
なんとか小さな子でも食べられるようにする方法を考えねば。
一応、一つの解法として、ミノタウロスサンドは答えだ。
薄く切り、それを皿の上に並べればいい。
それだけであの子も食べやすくなるだろう。
けれど、自分ができる方法は他にないか。
わたしは考えを巡らせながら食事をする。




