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第20話 勘違い

「すみません。本当にすみませんでした」


 そう言って平謝りしているのは、助けた少女の従者の女性だった。


 ことの発端はこうらしい。

 従者の人は少女を連れて、街中の散策をしていたらしい。

 その時に少女はテンションが上がり前を見ずに走って、老人の腹に頭突きをしてしまったようだ。

 老人はうずくまって動かず、少女は泣き叫んでやばい状況。

 従者の人は慌てて少女にここで待っているように言い、治療のための神官を呼びに行く。

 そうしている間に、わたし達が通りかかり、助けた……という訳だ。

 けれど、従者はそんなこと知らない。

 神官を連れて戻った時にはどこにもいない。

 彼女は少女が連れ去られたと思い込み、警備の人達に話して捜索。

 聞き込みですぐにわたし達がいたレストランに殴りこんできた……。

 という訳なのだが……。


「すみません。すみませんでした……助けていただいた上にお食事まで……早とちりしてしまいました」


「いえいえ、お気になさらず」


 わたしはそう言って彼女を慰める。


 少女は泣き疲れたのか、満腹になったのかフェニックスと一緒に眠っている。


 椅子を並べた上の簡素なものだけれど、どこでも簡単に寝られるのかもしれない。


「いえ……このお礼はいずれ」


「わかりました。どこかでお願いいたしますわ」


 そう言わないと納得しなさそうだったので、わたしはそう答える。


 そうしたら彼女は納得してくれて、少女を背中に背負って帰っていった。


 ということで、色々と話がまとまった頃には、夕方になってしまっていた。


「あら、もうこんな時間ですわ。そろそろ帰りませんと。お爺様、本日はありがとうございましたわ」


「あんた……店で料理を出しているのか?」


 わたしが挨拶をして帰ろうとすると、そう聞いてくる。


「屋台で店を出しておりますわ。よろしければ一度来てくださいな」


「そうか……分かった」


 老人は何か考え込んでいるようだ。

 腰の問題についてでも考えているのだろうか?

 食べたら腰痛がなくなる物がこちらの世界にあればいいのだけれど……。


 もうそろそろ時間なので、家に帰らなければ。

 けれど、けれど……。

 ソラがちょっとさみしそうにしている。


「少し寄りたいところがあるのですが、よろしいですか?」


「……いいニャ」


「もちろんだ」


 ということで、わたしはエレウムさんの所に寄った。


「あら、どうしたの?」


「すみません。ソラに合う油が入ったと聞いて、もう終わってしまっているでしょうか?」


「ふふ、大丈夫よ。入って?」


 彼女はそう言って扉を開けてくれる。


「ありがとうございますわ」


「新しいものだから、使ったら感想を聞かせてね」


 ということで、店の中に入る。


「カレンありがとうニャ! 大好きだニャ!」


「ふふ、あの子をずっと見てくださっていましたし、お礼はしませんと」


「ありがとうだニャ! 毛並みをより良くするから、抱き着いてもいいニャ! 吸うのもギリ許すニャ!」


 猫吸いはちょっとダメだったかもしれない。


 と、考えるわたしのことは気にせず、ソラはエレウムさんと一緒に色々な油について話していた。


「……」


「九尾もどこかにいきたい場所があるのですか?」


「ん? いや……そうだね。そうかもしれない」


「いきたい所なら言ってくださいな。できる限りお力になりますわ」


「うん。そうだね。その時になったら言うよ」


「ええ」


******


 休日の次の日は、前よりもにぎわっていた。


「1日食べなかっただけでもう恋しくなってたぜ」


「ここのがやっぱり一番だよ! 他のじゃ満足できないね!」


「あなたが作る料理が一番美味しいね」


 と、お客様から言われるのはやはりやっていて良かったと感じる。

 ダイレクトに言われるのが、屋台のいい所かもしれない。


 そうして営業をしていると、昨日の老人が店に来る。


「次は各串1本ずつのお客様……あら、あなたは……」


「昨日は助かったぞい。言われた通りすぐに来てやった」


「ありがとうございます。少々お待ちくださいませ」


 わたしはそう返事をしながら手早く揚げていく。

 火が通ったと判断した物からトレーに上げ、油を切っていく。


「手慣れているな」


「それはもう毎日揚げていますからね」


「本当に……料理が好きなのだな」


「? ええ、それは当然ですわ。でなければやっていませんよ」


「そう……だな」


 彼はそう言って手を伸ばそうとするので、わたしはそれを止める。


「お待ちください。あと15秒は待った方が美味しいですわよ」


「……そうか」


 彼は素直に聞いてくれて、きっちり15秒後手を伸ばす。


 わたしはその前にタルタルソースをかけ、彼がそれを食べる。


「美味いな……」


「ありがとうございます。また明日も営業をしていますので、お待ちしております」


「はっは、いいことを言う」


 彼はそれだけ言うと、何か考えごとをしながら帰り道を行く。

 腰はもういいのだろうか……とか、軽く聞けるような雰囲気ではなかった。

 何かあったのだろうか?


 でも、彼がしっかりと料理を食べている瞬間は、わたしが食べている時と同じ雰囲気を感じた。

 美味しい物を食べる、けれど、ちゃんと食べて分析もしているといった感じだろうか。


 そんなことをしていると、かなりの数が売れ一昨日よりも早い時間に売り切れてしまった。


「今日は売り切れニャ! ごめんなさいニャ!」


 ソラの言葉で並んでいた人々は帰っていく。


「なんとか……もうちょっと作りたい所ですわねぇ」


「だけど、売れ残るよりはいいんじゃないのかい? 今日これなかった人は、また明日こそは……ってなるはずだよ」


「それもそうですわねぇ」


 今は揚げ物が人気になっているが、それもいずれ落ち着いてくるかもしれない。

 そうなった時のことを考えたら、とりあえずはこれでいいのかもしれない。


 そうして、わたし達が片づけをしていると、声をかけられる。


「お姉ちゃん! ひさしぶり!」


「この声は……」


 わたしは振り返ると、そこには昨日泣いていた少女と、その従者の女性がいた。


「どうされましたの?」


 わたしは屋台の後片付けを止め、彼女達の方へ向かう。


「お姉ちゃんにね! おねがいがあってきたの!」


「お願い? どのようなお願いでしょうか?」


「あのね! わたしのたんじょうびにおりょうりを作ってほしいの!」


「誕生日に……お料理を作る……ということですか?」


 これは……。


『カレン。あなたがこのランキングに載ったことによって、これから貴族からの招待を受けることがあると思う』


 ハンナさんの言っていた貴族からの依頼……という奴だろうか?


「そう! おねがい! わたし、お姉ちゃんのおりょうりが食べたいの!」


 わたしは本当なのだろうかと思って従者の人をみると、ゆっくりと頷く。


「詳しい話はのちほど料理ギルドから届くと思います。ただ、お嬢様がどうしてもあなた様に自分で言いたいとおっしゃりまして……」


 従者の方はそう言って申し訳なさそうに眉を寄せる。


「いいえ、わざわざありがとうございます。すぐにはっきりとは言えませんが、前向きに検討いたしますわ」


 秘儀(ひぎ)、日本風「きっとやるよ!」という言葉。

 これで断ることになってしまっても大丈夫。


「お姉ちゃん……作ってくれないの……?」


 お嬢様の目がうるむ。


「いや、ちゃんと受けたいですわ。もちろんですわ。でも、色々と事情があってできないことがあるかもしれないということですわ」


「作って……くれない……の……」


 やばい。

 今すぐにでも決壊しそうだ。


 そんな彼女の側にソラが寄ってくれる。

 

「ニャー。大丈夫ニャ。カレンはきっと受けてくれるニャ。貴族には貴族の事情があるニャ? カレンもそれで考えることがあるニャ」


「おネコさん……」


「でも、きっとカレンなら乗り越えて受けてくれるニャ。今は家でしっかりと親の言うことを聞いておくニャ。そうした方が、カレンも聞いてくれるかも知れないニャ」


「本当……?」


 お嬢様はそう言ってわたしを上目遣いで見る。


「え、ええ。ちゃんとご両親の言うことを聞くのですわ」


「分かった! ちゃんと言うこと聞く! またね!」


 ソラのおかげでなんとか助かり、彼女は帰っていく。


「お嬢様! 走ったらダメですよ!」


 従者の人がそれを追いかけ、逃げないように捕まえていた。


 彼らが帰ったのを確認した後、ハンナさんの元へ向かう。


「さて、本当に依頼として来ているのでしょうか?」


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