第19話 救助……?
わたし達の目の前には、泣き叫んでいる5歳くらいの少女と、倒れてうずくまっている老人がいた。
「大丈夫ですの!?」
わたしはまずは老人の元へ向かう。
少女は声を出せるくらいには元気があるのだろう。
なら、先に倒れている方を優先する。
「う……儂を……店に……連れて……いって……くれ」
「店? どこですの? 起き上がれますか?」
「案内……する……から、肩を……貸してくれんか」
「それよりも、九尾、彼をあなたに乗せてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ」
彼はそう言って魔法で浮かせてくれる。
「けど、この方が楽だろう」
「ありがとうございますわ」
ということで、老人の方は今はいい。
少女の方は……と思って見ると、彼女はソラを背中から抱きしめていた。
ソラは背中の彼女をトホホと見ながらも振り払おうとはしていなかった。
「ソラ……その……その子は……問題ありませんの?」
「撫でてもいいニャーって言ったら抱き着いてきたニャ。あまりの早さに、いかなボクと言えど反応できなかったニャ」
「そう……ですか。では、とりあえず店に行きますか? そこにこの方の薬があるかもしれませんし」
どうしてこうなったのか分からない。
けれど、老人を助けるためには店に行かなくてはならないのなら、そうした方がいいだろう。
少女もここに置いて行くわけにはいかない。
この辺りは少し治安が悪そうな場所なので。
何人かわたし達のことを悪そうな目つきで見ている人達もいる。
早く移動しなければ。
わたしと肩に乗ったフェニックス、浮かされた老人と九尾、ソラとソラに抱き着いた少女。
という奇妙なグループでわたし達は道を進む。
場所は少し入り込んだ場所で、ただし住宅街であるのか治安は悪くなさそうないい場所。
そこには、「レストラン」と書かれた場所だった。
「お店……とは本当にお食事を出している場所の方でしたのね」
「ああ……いいから……中に……」
「鍵は?」
「これ……だ……」
老人はそう言って懐から鍵を取り出し渡してくれる。
わたしはそれを使って正面を開け、中に入った。
店の中は手入れが行き届いた店で、雰囲気もいい。
ただ、机の上に椅子があげられていて、最近は使われていないのかもしれない。
「と、そんなことはいいのですわ。それで、どこに薬はあるのでしょうか?」
わたしはある種きっとそういうことなのだろうと思って老人に聞く。
「薬……? いや、もう……大丈夫だ。少し休んだからな。儂は……問題ない」
「下ろすよ」
九尾はそう言って床に彼を立たせる。
すると、彼はゆっくりと身体を動かし、近くにあった椅子に腰を下ろした。
「助かった……そこの嬢ちゃんに腹に突っ込まれてな……危うくあの世に旅立っちまうところだった」
「と、留まれて良かったですわ」
ブラックジョークが過ぎて茶化しにくい。
「がっはっは、悪いな。と、助けてくれて感謝する」
そう言って老人は真っ白に染まった頭を下げる。
見た所……60代くらいか、髪は真っ白に染まっている。
しかし、身体は意外にもがっしりしていて、年齢を感じさせない。
顔にしわは深く刻まれているが、悪い印象はなく、美しく年を重ねてきた人のように感じた。
「いえ、助けられたのであれば良かったですわ。後は……」
わたしは視線をソラ……その後ろにいる少女に向ける。
「ボクの美しい毛並みが悪いのニャ。この子をとりこにしてしまって離れないのニャ」
キザったらしく言うソラを見て、わたしは言う。
「では、少女のことはソラに任せて、わたし達は行きましょうか」
「待つニャ! それはひどいニャ! ボクを置いていくなんてダメニャ!」
「……分かっていますわ。では……お食事にしましょう!」
と、わたしは唯一と言ってもいい解決策を提案する。
「待つニャ……どうしてここでそんな話になるニャ?」
「困ったら食事にする。これが一番の解決方法ですわよ?」
「いや……でも……ボクだってそれはちょっと……と思うニャ?」
「そんなことありません。お食事と言ったら少女がこちらをチラリと見ましたわ」
「ほんとニャ?」
わたしにはそんな気がした。
したったらした。
ということで、料理を……と思い、老人の方を見る。
「すみません。厨房をお貸しいただけないでしょうか? この子に何か作ってあげたくて……」
「はっは、そんなかしこまらんでいい。そもそもここは儂の店、儂が作って……」
彼がそう言いながら立ち上がろうとすると、動きが止まる。
何か電流が走ったような……そんな感じだ。
「どうかなさいました?」
「あ、ああ……腰が……ちょっといっちまってな。悪いが厨房は使っていい。食材も好きに使ってくれ。だから、儂には触らずそっとしておいてくれんか」
「フェニックス。戻っていらっしゃい」
フェニックスが、大丈夫? 的な感じで老人の腰の辺りに止まった。
なのでわたしは彼女を呼び戻して、彼をそっとしておく。
前世でも父が腰をやらかしていた。
その時は気軽に乗って遊んだりしていたが、すごく叱られた。
のちのちかなり良くないことだと知った。
それ以来、腰をやらかした人には優しくするようにしている。
「さて、食材はなにがあるかな……」
わたしは意識を料理に変えて、食材を探すために厨房に入る。
厨房はお店よりも手入れが行き届いているし、調理器具もぴかぴかで美しい。
彼が立派な料理人なのだと確信できるくらいには。
冷蔵庫のような魔道具があったので、中を確認してみる。
「あ、これは……なんの肉でしょうか……」
知らない食材が何種類か入っていて、試してみたい気持ちになる。
「ピー?」
「すみません。とりあえずは手慣れた物からにしますか」
フェニックスのそれを食べるの? というような問いに首を横に振って答える。
冷蔵庫の中にはエビも入っていたので、そちらを使おうと思う。
子供と言ったらやはりエビフライだろう。
これは間違いない。
食器だけはお借りして、鍋などは自分が持っていたもの。
九尾が魔法で保存してくださっていたものを使って調理をはじめる。
いつもと違う厨房だけれど、そこまで問題はない。
なので、簡単にエビフライが完成する。
あの老人は食材の研究もしているのか、卵等も置かれていたのでタルタルソースも作れた。
それらを食器に盛り付けて、フォークも用意して少女に持っていく。
「さぁ、お食べ下さい。とても美味しいですわよ」
「…………」
少女は片目だけこちらを見て、時折ソラの背中をグリグリと頭でこする。
「ニャ?」
ソラは違和感を抱いているが、逃げるようなことはしない。
「さぁ、どうぞ」
「…………」
彼女は無言のまま手をそっと伸ばし、フォークを手に取る。
そして、それでエビフライを刺し、尻尾の方から食べようとする。
「あ、そっちは尻尾なので、食べるかは諸説ありますわ。最初は反対の方から食べることをおすすめします」
「……」
彼女はわたしの言った通りにして、反対方向から食べる。
「! おいしい!」
「ニャ!?」
彼女はソラからバッと顔をあげ、エビフライをじっと見つめる。
「このタルタルソースもつけて食べるともっと美味しいですわよ」
彼女はわたしが最後まで言い切る前にエビフライをタルタルソースにつけて口にほおばる。
「美味しい~! すっごい! お姉ちゃん料理すごい上手なんだね!」
「ふふ、ありがとうございますわ」
少女は口の周りをタルタルソースでべっとりと汚している。
このままでは綺麗な服につくかもしれない。
ちなみにソラの毛にはすでに落ちていて、ソラがショックで固まっている。
すぐに自分で綺麗にしていたけど。
「あなた、貴族の令嬢なのでしょう? でしたら、いくら美味しくても口の周りを汚すような食べ方はよろしくないですわ」
わたしはハンカチを取り出して、彼女の口の周りを拭く。
「ん……ありがとうございます……」
「いいえ、それだけ美味しいといってくださるのなら嬉しいですわ」
それから、少女は美味しそうにエビフライを食べる。
わたしは視線を彼女に向けて観察した。
彼女は赤毛をツインテールのようにした髪型で、とても可愛らしい。
さきほど言ったように服は貴族の服を身にまとっていて、白いドレスが美しい。
後はこの子を家に返してあげれば終わりかなぁ。
そう思っていると、店の前が騒がしい。
どうしたのだろうと思っていると、警備の兵士が槍を構えて店に入り込んできた。
「誘拐犯というのは貴様か!」
「いえ違います!?」




