第18話 ランキング1位の店
「今日はカキフライとカボチャの天ぷらにしようかしら」
「はい。いつもありがとうございますわ」
「ほんと、美味しくて毎日来ちゃう」
「また明日もお待ちしております」
わたしはそうエレウムさんにお礼を言う。
彼女は初めてこの屋台に来た日から毎日来てくれていて、いつも迷った挙句に2つ買い、欲に負けてしまったと落ち込む。
が、そのすぐ後にフライを食べて笑顔になって帰っていく。
そんな風に常連さんが増えるようになって、わたしはとても嬉しい。
そんな日が続き、2週間……暦は地球ととても似ていて、1月は30日。
そんな月が12月あり、1年になる。
今は11月の半ばで、道行く人々の着ている服もどことなく厚い。
食材が切れたので、今日の営業は終了になる。
いつものことだけれど、残念そうに帰っていく人達を見てつい口からこぼれた。
「もうちょっと準備した方がいいのでしょうか……」
「これ以上やると君の身体が持たない。やめた方がいい」
「九尾……」
わたしは後ろで雑務を処理してくれる九尾を見る。
「君は一切休んでいないだろう? 疲れていないか?」
「わたしは大丈夫ですが……」
わたしはフェニックスの方を見る。
彼女はうつらうつらとしていて、いつも寝る時間は8時とか9時くらい。
なのにもう……眠たそうにしている。
「フェニックス、お疲れなのでしょうか……」
確かにここのところ毎日が仕事。
それは……フェニックスにとって疲れることになってしまっているのかもしれない。
しかし、多くの人に料理を届けたい。
でも……。
「いい加減休みが欲しいニャ! ボクの毛にも休みが必要なのニャ!」
「そ、ソラ……。すみませんでしたわ」
「まぁ……カレンが料理が好きでやっているのはいいニャ。でも、たまには休みがあってもいいニャ? 今まで1日も休みがないっていうのはやりすぎニャ。過重労働ニャ」
「難しい言葉を知っていますわね」
「ボクは賢いのニャ! まぁ……どこで覚えたかはわかんニャいけど」
列に並んでいる誰かの言葉を覚えたのかしら?
そう思うけれど、まぁ……今はいい。
大事なことではない。
「では、明日……はいきなりだとお客様方も困りますから、明後日をお休みにしましょうか」
「それがいいニャ! エレウムの所にいい油が入ったらしいからいくニャ!」
「ふふ、そうですわね。それに、他の屋台の味見もしておきたいですわ」
屋台ランキングなる物を知った時から、他の屋台だって食べてみたい。
そう思ってはいたのだ。
なら、ちょうどいいだろう。
「それでこそカレンニャ! 明後日が待ち遠しいニャ!」
******
ということでいざ休日。
常連の方々からは残念がられたものの、倒れられてはたまらないからしっかりと休め。
優しいような厳しいような言葉をもらった翌日。
わたし達は、とりあえず屋台ランキングを片手にいつもとは別の屋台通りに来ていた。
「ここが1位の屋台ですわね。開く時間までまだありますのに、並んでいますのね」
屋台ランキング1位! とでかでかと書かれた屋台がそこにはあった。
屋台からは料理を準備しているのか、とてもいい匂いがしてきてる。
その匂いにつられているのかお客さんも並んでいて、10人以上が並んでいた。
ただ、ランキング1位のわりに少ないような……。
「楽しみー」
「ここのを食わないと一日が始まらねぇんだよ」
「どこも食ったけど、やっぱりここが一番だよな」
しかし、並んでいる人達は期待させてくれることを言ってくれる。
わたし達も列に並ぶ。
それから少しすると、屋台が開店する。
「それじゃあ注文を受け付るぜ! 順番に数を言ってくれ!」
ここの料理は1つしかないのか、そう店主が叫ぶ。
お客達はその方式に慣れているようで普通に注文していく。
わたしはみんなの方を振り返る。
「1人1つでよろしいでしょうか?」
「それでいいニャ!」
「ピー!」
「他の所にもいくんじゃないのかい?」
「みんなならそれくらい食べれるかな……と、それに1位のお店らしいので」
わたしが言うと、九尾は頷く。
「そうだね。じゃあそれで行こうか」
「はい」
ということで、のんびりとしながら並び、わたし達の番になった。
「じゃあ次のお客様!」
「4ついただけますか?」
「お! あんたは最近出来た揚げ物の屋台の!」
「あら、ご存じですの?」
「そりゃ知らねぇ奴はいねぇよ! 一緒に屋台を盛り上げて行こうぜ!」
「ええ、もちろんですわ」
「と、4つだったな! 8000ゴールドだぜ!」
「はい。8000ゴールドですね」
わたしは8000ゴールドをなんの迷いもなく支払い、料理ができるのを待つ。
料理はパン……ただし、ギルドで販売しているのとは違う。
独自のルートで仕入れているパンなのだろう、大きくしたコッペパンだ。
それに、レタスのような新鮮な野菜と、鉄板でアツアツに焼いた肉をこれでもかとのせている。
大きさは20センチの大きめのパンに、山盛りの野菜と肉。
これは食べ応えがありそうだ。
それに、店主も当然のようにすごい。
手つきが手慣れているのは当然として、口を挟む箇所が見当たらない。
肉を焼く手つきは職人芸と呼ばれるもので、見ているだけでも楽しく感じる。
「はいよ! ミノタウロスサンド4つお待ち!」
「ミノタウロス……ですのね」
「なんだ、知らなかったのか?」
「情報では知っていましたが、見たことはなかったので」
「へっ、なら堪能してくれ!」
「ええ」
わたしは4つミノタウロスサンドを受け取り、列からずれる。
「はい、これが屋台ランキング1位のミノタウロスサンドですわ。一つ2000ゴールドの……2000ゴールド!?」
さっきは料理の腕に目を奪われていたが、2000ゴールドと言われて驚き固まる。
確認するために屋台を見ると、確かに1つ2000ゴールドと書かれているので詐欺ではない。
「串オークなら20本……エビフライなら10本食べられるのですね……」
値段にちょっと震える。
しかし、それだけの価値があるのかもしれない。
その真相を確かめるべく、わたし達はミノタウロスサンドを口にする。
「……これは……!」
美味い。
ミノタウロスの肉がジューシーで、かむたびに肉汁が溢れて口の中を満たす。
その肉汁は荒々しいものだけれど、野菜とパンがそれを支えることによって、くどくなりすぎない。
新鮮な野菜のパリッとした食感、パンはそれらを包み込み口の中をちょうどよい塩梅に整えてくれる。
味付けは塩と……香辛料はそれなりに使っていそうだ。
だが、それらも一度食べたら次も食べたい。
そう思わせてくれる絶妙な味わいだった。
1つ2000ゴールド……これ1つで首里城のお札と同価値と言われた時は疑問だったが、食べた今は納得出来る。
勉強になるし、ミノタウロスの肉も使ってみたいと思える。
この肉はオークの肉よりも脂が少ないけれど、旨味はそれ以上かもしれない。
料理人としての腕が鳴る。
「カレン。ひと口にどれくらい時間をかける気ニャ?」
「え? ど、どういうことですか?」
「さっきひと口目をかじってからずっと目を閉じてもぐもぐしていたニャ。ボク達はもう食べ終わってるニャ」
「あら、失礼いたしました」
美味しさのあまり食べることを忘れてしまっていた。
わたし達はそうやって屋台ランキングを順番に食べていく。
どこのお店もランキングにふさわしい物で、その屋台の強みを確かに感じられた。
「そろそろお腹もいっぱいニャ! エレウムの所に行くニャ!」
「ええ、そうですわね。これ以上は味が分からなくなりそうです」
わたしも満腹になったことで、かなり満足できた。
なので、ソラが行きたいと言っていたエレウムさんの所に向かう。
その途中。
「え~ん! え~ん!!!」
「うぅ……う……誰か……店に……」
泣き叫んでいる5歳くらいの少女と、倒れてうずくまっている老人と出会った。




