第16話 天ぷら
簡単! 小麦粉から薄力粉を抽出する方法!
わたしはテンションをできるだけあげて説明する。
「まずは小麦粉をシルクの布でふるいにかけますわ! 布でふるいに!? と驚くかもしれませんが、薄力粉はこれをしないと出来ないですわ!」
トントントントントントン。
ひたすらに虚無。
こんなことをしていて本当にたまっていくのか? と思ってみると、ほんのり下のボウルが白くなっている。
「とりあえずふるいにかけて1時間! ちょっと出来た粉を次は30分ひたすらに水でこねこねですわ!」
こねこねこねこね。
すでに1時間経っているのに次はただこねるだけ。
これを30分。
精神の修行にはもってこい。
「そして次は12時間待ちますわ! しっかりと分離するのを確認する必要がございます! そして、12時間経った物がこちらですわ! 上の方は透明、下の方は濁っているので、上の透明な方は捨てるのです! そして、残ったこのドロドロの白い塊! これを広い皿に広げて1~2日、常温で陰干しして待ちます☆!」
その間熱を入れたりすると失敗するのできちんと陰干しで気を付けて。
「最後は固まってカラカラにひび割れていくので、それをまとめてすり鉢でサラサラのパウダー状になるまですり潰すのです!」
ゴリゴリゴリゴリ。
ここも30分の虚無作業。
わたしはサラサラになった薄力粉を九尾に見せる。
「これで完成ですわ」
「刑務作業かのような大変さだね?」
「これだけやって、てんぷら50個分あるかどうかです。費用対効果を考えたらよろしくありませんわ」
途中でやってられっかと何度投げ出そうかと思ったことか。
家でちょっと食べる分……ということで作るのならもっと量を減らしてやればいい。
けれど、店で出すとなるとそうはいかない。
ある程度の量を作らないと、さすがに……ん?
「むしろ作らない方が……いい?」
そうか、作るのが大変なら、そんなに作らずいっそのこと少なくする方がいいのでは?
女性は限定という言葉に弱い(当屋台比)。
むしろ、一日少数限定として販売したら……。
「これですわ! 九尾! 1日2時間の刑務作業をお願いしてもよろしいかしら?」
「うん。普通に嫌だと言いたいけど、薄力粉? を作ることなんだよね?」
「そうですわ!」
「ならいいけど……2時間が限界かな。精神的に」
「それで問題ありませんわ!」
ということで、
わたしたちの屋台に新しいメニューが加わった。
「新メニューの登場ニャ! カボチャの天ぷらとサツマイモの天ぷら! それぞれ30個ずつの限定販売で購入はどちらか一つニャ! 甘くてトロトロホクホクで美味しいニャ! それも来月末まで! 今だけの限定ニャ! ここを逃すと食べられないニャ! 寄っていくニャ見ていくニャ!」
ということで、新メニューはカボチャとサツマイモの天ぷらになった。
本当は玉ねぎもここに加えたかったのだけれど諦めた。
女性を狙ったメニューなら甘い方がいいということになったのと、玉ねぎまで加えると中途半端な数しか用意できないだろうからだ。
これで少しでも売れるといいのだけど……。
そう願いながら調理を続ける。
背中ではずっと魔法でトントンする音が聞こえてきて、少し申し訳ない気持ちになる。
しかし、振り返ってみると、魔法でやっているのでそこまで大変そうではない。
九尾は丸まっていたので、多分大丈夫なはず、多分。
何人もの冒険者に料理を出した後、ついにその時は訪れた。
「次のカボチャの天ぷらと、カキフライをお待ちの……」
「あ、はい。わたしです」
そう言って並んでいたのは、料理ギルドか……どこかの制服に身を包んだ女性だった。
「……はい。こちらですわ」
「ありがとうございます」
彼女は2本の串を持ち、少し横にそれて食べ始めた。
わたしは調理に集中しながらも、彼女の様子をじっと見つめる。
「んー美味しい! カキフライはクリーミーだし、カボチャの天ぷらってこんなにも甘いんだ!」
「シッ!」
わたしは小さくガッツポーズをする。
まずは1人。
こうやって1人ずつ、わたしの店に呼び込んでいくのだ。
それからというもの、女性客は徐々に増えていく。
「それでねー前に行った喫茶店でさー」
「あそこの服どう? デザインは良かったけど……」
「彼どうだったー? やっていけそう?」
等々、女性客も増えてきたように思う。
列から聞こえる声も女性客のものばかりで、逆に待っている冒険者の方が肩身が狭そうにしているくらいだ。
「次の方ー」
「な、なぁ。いつの間にこんなに女の客が増えたんだよ」
「新メニューのおかげでしょうか? 軽くデザートに……ということであれば、1つだけ買っていかれる方もいますから」
この時代ということもあり、甘味というのは結構少なかったりする。
あったとしても、高級品だったりして、気軽には手を出せない。
「そ、そうか……」
「限定の天ぷらが売り切れたら女性のお客様は減りますから、それくらいから来られた方が良いのかもしれません」
「わかった。助かるよ」
「いえ、いつもありがとうございますわ。次の方ー」
次の人を呼ぶと、知っている顔が来た。
「うふふ、順調そうね」
「エレウムさん」
******
私はエレウム。
最近話題の屋台に来たのだけれど、それがまさかカレンちゃんの屋台だったなんて。
「サツマイモの天ぷらだけでよろしいのですか?」
「ええ、問題ないわ」
これでも貴族の女性たちに油を売るために、しっかりと体型には気を付けている。
小さな所を何個も積み重ねて今の自分を形作っているのだから、食べる量には気を使わなければ。
「味はなにがいいのかしら?」
一応タルタルソースという物があるとも聞いている。
「天ぷらは塩ですわね。タルタルソースはフライの方にしかありませんわ」
「そう。少し残念ね」
「今度そちらをお作りいたしますわ」
「楽しみ」
といっても、話を合わせるために食べるに過ぎない。
油断していると一気に体型は変わってしまうのだから。
私はサツマイモの天ぷらを受け取る。
広く切られたサツマイモを黄色い衣? で包んであった。
大きさは10cmくらいで、結構食べがいがありそうだ。
わたしは自宅へ向かいながら少し食べる。
サクッ。
「ん……」
思わず口を手で塞ぐ。
そうしないと変な声が漏れそうになった気がしたから。
食べた最初の感想は甘いだった。
砂糖は高級品だし、普通に食べることはあまりない。
しかし、これはサクッとした感触の後に、ホクホクとした独自の食感が口に広がる。
そのホクホクが甘く、アツアツでまた美味しい。
サツマイモの断面からは温かい湯気が出ていて、これから寒くなる時期にはもってこいだ。
仕事のためとはいえ薄い格好をしているせいもあって、ちょっと肌寒い。
だけれど、これを食べて温まれるなら悪くない気がする。
いつもならゆっくりと食べていくのに、今日はあっという間に食べてしまった。
「ふふ、美味しかった」
カボチャの天ぷらもぜひとも試してみたい。
明日はそちらの方を食べてみよう。
でも、ここまで美味しい物を作れるのなら、他のフライとタルタルソースを一つくらいなら食べてもいいかもしれない。
私は足取り軽く、自宅兼仕事場に戻った。
******
エレウムさんが去り、次のお客様が来る。
そこに、割り込んでくる人がいた。
「カレン! 緊急事態よ! 緊急事態!」
「ニャー! 割り込み禁止ニャ! って、ハンナかニャ?」
「これ見て!」
ハンナさんはそう慌てて、わたしに一枚の紙を見せつけてくる。
「これは……」
わたしは驚きで言葉が紡げなかった。




