第15話 第一回女性も買いに来たくなるメニュー開発研究会
「という訳で、第一回女性も買いに来たくなるメニュー開発研究会の時間ですわ!」
「ピーピー!」
「なんニャ……これ?」
乗ってくれるのはフェニックスだけのようだ。
ちなみに、場所はハンナさんの自宅で、わたしと従魔達にハンナさんとアミアさんも加えての研究会だ。
「その名の通り、ソラ達が手伝ってくれるようになったので時間が出来たのですわ。だから、女性客も買いに来たくなるような美味しい新メニューがあれば嬉しいなぁと」
「そこまでして来て欲しいのかニャ?」
「ええ、ゆくゆくはこの街全員がわたしの料理を食べてほしいと思っていますわ」
「強欲を超えて狂気を感じるニャ……」
「さて、ということで、ハンナさん、アミアさん。食べてみたい食材や料理はありますか?」
わたしは彼女達の方を向いて聞く。
「あたしはカレンが作る物ならなんでもー」
「オレは魚! 魚がいいと思うぞ!」
「うーん」
参考にならない気がする。
でも、別の方向から聞けないだろうか。
「それでは、お二人は普段お昼はどういった物を食べていらっしゃるんですか?」
「あたしは朝の残りのお肉をパンに挟んでもっていく……とかかな? 食べに行くにしてもレストランで……とかが多いかも」
「ふむふむ」
買い食い……というのはあんまりないだろうか。
「オレは売れ残った魚を食ったりかな。街に出る時には屋台で買うこともあるぜ」
「そうなのですか?」
「ああ、ただ他の奴らはどうせならってレストランに行きたがるし、屋台で……っていうのはあんまり好まれてないかもな」
女性たちにとっては気になりはするものの、面倒なら朝の残り、どうせ外に行くならレストランへ……。
という形になっているということでしょうか。
わたしのお店も話題になった時には既にお客様はほとんど冒険者の方々でした。
ということであれば、女性が惹かれる何かを作る必要がありそうですわねぇ。
しかし、問題もある。
下処理などは出来る限り増やしたくない。
それをすると、他の食材が減り、ただでさえ売り切れて食べられずに悲しそうな顔をしている人がいるのだ。
そんな顔は増やしたくない。
「っていうか、食材に迷っているならウチの野菜どう? タルタルソースに使っている以外にも、揚げたりしたら美味しくならない?」
「美味しくはなると思います。ただ、揚げてフライにするよりも……」
ハンナさんの実家が作っている野菜はカボチャ、玉ねぎ、サツマイモ。
どうせなら、天ぷらにした方が美味しい気がする。
「揚げてフライにするよりも……?」
「というか、ハンナさんの所の野菜の旬……っていつまでなんですか?」
「実を言うとねー。あと2か月くらいかなぁ。もう寒くなってきたし、それを過ぎてもあることにはあるけど、やっぱり、旬を過ぎるとちょっと味は落ちるわね」
「なるほど」
まぁ、それはそうだ。
日本のように、いつでも美味しい食材を手に入れられるようにするためにはコストがかかる。
この時代にそれをやっている人がいるとしても、それは貴族達が食べる分くらいでしかないだろう。
「ふーむ。とりあえず作ってみますか」
天ぷらにしてみて、とりあえず食べながら考えよう。
「え!? 試食できるの!? ラッキー!」
「来て良かったぜ!」
「ニャ!」
「ピー!」
「楽しみだよ」
とりあえずどれも旬ではあるので、一度作ってみようか。
ただ、うまくいかない可能性があるので少し……1人1個ずつになるように。
まずはひまわり油をたっぷりと熱しておく。
カボチャとサツマイモはそれぞれ2cmずつの厚切りにしていく。
練習……というか、確認ではあるので、日本の作り方でいいと思う。
玉ねぎは……くし形の方が食べやすいかしら。
その形に切って、バラバラにならないように串を打っておく。
それらから水分を徹底的にふき取り、衣を作るのだが……。
「ハンナさん。アルコール度数の高いお酒はありませんか?」
「え? あるけど……」
そう言って差し出してくれたのはウイスキーと書かれている。
「ありがとうございますわ」
「え? それどうするの?」
わたしは調理を続け、衣のために小麦粉……本当は薄力粉がいいんだけれど、売っていないので代用で、後は水、卵、ウイスキーを入れて混ぜる。
ただ、泡立てもさせないし、混ぜすぎもしない。
衣が完成して、油が温まったのを確認する。
まずはサツマイモとカボチャを揚げていく。
低温でじっくりと揚げる必要がある。
しかも、触らずにじっと待つ。
8割方火が入ったと思ったら、それらを全て油から出してフタをして余熱で温める。
その間に油の温度を少し上げ、玉ねぎを揚げる。
じっくりと見ながら玉ねぎを揚げ、ちょうどよいタイミングで油からあげる。
後は塩で味付けをしてみんなにお出しする。
一つは自分で食べて確認もしておかないと。
「……」
その間に、サツマイモ達にも余熱で火が入ったので、最後。
火の勢いを強めて油の温度をあげ、サツマイモ達を30秒程サッと2度揚げをする。
こうすると、外はカリッと中はトロッと素晴らしい食感になる。
わたしは確認のために両方を食べておく。
「……」
美味しい。
美味しいとは思うのだけれど……。
意見を聞こうとして、みんなに野菜の天ぷらを出す。
最初に意見を言ってくれるのはハンナさんだ。
「美味しい! 美味しいよこれ! いつも食べてたカボチャとサツマイモがこんなに甘いなんて! ザクザクの厚い衣は食べごたえ抜群ですごいし、これなら女の子達はみんな食べに来るよ! っていうか、職場の子に自慢しちゃう!」
「オレもこれは……最高に美味いと思うぜ! 野菜を揚げるだけでここまで食いごたえがあるなんてな! 分厚い衣の下には野菜の旨味がしみだしてきてもう……!」
「美味しいニャ! カレンはすごいニャ!」
「ピー!」
ハンナさんとアミアさんはそう評してくれて、ソラとフェニックスはいいから食べたいと次々と平らげていく。
「あまり浮かない顔をしているね? 美味しいよ?」
「九尾……ええ、ですが……やはり、わたしが求める物とは違うのです」
「これよりも美味しくなると?」
「というより、玉ねぎの方が……おそらく良くありませんわよね?」
「………………」
とりあえずということで先に出したのだけれど、その答えは沈黙だった。
「いえ、やはり……良くありませんでした。申し訳ありませんわ」
「あ、謝らないで? カレンが作るのって試食の段階から全部美味しいからビックリしちゃって」
「そうだぞ? 試しに作ったのが毎回美味いなんてこれまでがおかしかっただけだぞ?」
「カレンはこれから美味しく調理する。ボクは知っているニャ!」
「ピー!」
みんながそれぞれそう言って励ましてくれる。
九尾はそんなわたしに聞いてくる。
「カレンは……どうしたらもっと美味しくなるのか分かっているのかい?」
「ええ、その調理法だとカボチャはより甘く、玉ねぎはジューシーになるんです」
「出来ない理由があると?」
「問題は粉なのです。そして、それを使える物にしようとすると……単純に考えても、3日はかかりますわ」
今回の問題は天ぷらにしようとした時の小麦粉だ。
本来であれば、薄力粉というのを使う必要があった。
けれど、日本にいた時は普通の小麦粉でも代用していたことがある。
けれど、ここで問題が起きた。
歴史として勉強した時に、現代の小麦粉と昔のは違ったのだということが頭の片隅にあり、その通りだった。
現代のは真っ白い薄力粉の代わりにもなる代物だった。
けれど、昔のは臼で全てをすり潰すので、色々な物が混ざってしまう。
よって、天ぷらに使う薄力粉の代わりとしては使えず、よろしくない味になってしまった。
もしものことを考えてあまり数は作っておらずみんな食べきってくれたが、どうしたらいいのか……。
「粉を使えるようにするのは難しいのかい?」
「? いえ……ですが、これをやると純粋にわたしの時間がなくなってしまいます」
ただでさえ時間が厳しいのに、これ以上なんて出来る訳がない。
「なら、俺がやろうか。屋台の時は後ろで見ているだけだし、ちょうどいい」
「九尾……いいのですか?」
「ああ、ただし、わからないことがあったら聞くし、手伝ってくれるね?」
「ええ、もちろんですわ!」
九尾が手伝ってくれるなら!
わたしは、小麦粉を薄力粉にする方法を説明する。
「これ……本当……?」
九尾の耳と尻尾が少し下がっていた気がするが、きっと気のせいだろう。




