第14話 通常営業
翌日以降、わたし達の日常は一変した。
「はい! 次の方! 串オークが2本、イカフライとカキフライをおひとつずつですわね!」
わたしは注文を聞き、すぐに処理をして揚げ始める。
その間にお金をいただき、揚がり具合を見ながら次の仕込みを準備する。
忙しい。
忙しいが、楽しい。
「出来ましたわ! 味付けはどうなさいますか? 全てタルタルソースですわね。かしこまりました!」
味付けをした物を、お客様は手に取り、すぐに食べる。
サクッ!
わたしの耳に聞こえてくるほどにいい揚がり具合でちゃんと出来たことに安堵し、お客様の美味しそうな顔を見てわたしの心も温かくなる。
ただ、時折わたしの作っている物をじっと……凝視している人が現れた。
そういった方々は、確かこの通りで他の屋台をやっている人だった気がする。
けれど、わたしはタルタルソース以外は隠すようなことはしなかった。
その日も準備してきた物を全て売り切り、しまっている最中。
もふもふしたくなる九尾がふと聞いてくる。
「ねぇ、他の屋台でも君の料理を真似した人が出てきたみたいだよ? 君の料理を見に来ていた人も結構いた。気づいていたよね?」
「ええ、もちろんですわ」
「隠さなくてもいいの?」
そう聞かれて、わたしは素直に頷く。
「その必要はございませんわ」
「理由を聞いても?」
「だって、これは……わたしが発明した料理ではございませんし、この街に多くの美味しい料理が並ぶ、それならばこの街の人々にとってもいいことではありませんか?」
「なるほど、優しいね」
「そうでしょうか?」
「だと思う」
串オークを真似た料理を他の人が作っても、わたしのような味は出せないだろう。
という自信と合わせて思っているのだけれど……。
うーむ。
まぁ、細かいことはいい。
わたしはわたしの料理を作り、それを食べてもらう。
これがしたいのだから。
翌日以降も会計をしながら調理をしていると、ふと視線を感じる。
「?」
視線を感じた方を見ると、女性の方々と目が合う。
すると、彼女達はそそくさと去っていく。
「?」
「おい、もう食っていいか?」
「あと13秒お待ちください」
「お、おう」
というようなやり取りをしつつも、この日は特に女性の方々に見られていたように思う。
調理に集中している時は気づかなかったこともあると思うが、10回以上は女性達と目があったはず。
どういうことだろうか……と思ったのでハンナさんに聞いてみた。
最近では夜にハンナさんの家に野菜を購入する兼、夕飯を作るために来ている。
夕飯をみんなで食べながら見られていた件について聞いてみた。
「どう思いますか?」
「あーそりゃあね。あれだけ街で噂になってたら行ってみたいと思うもんよ」
「噂ですか?」
「そ、お店で出すかのような超美味しい揚げ物が手軽に食べられる最高の屋台! その恩恵に預かろうとして、似たような料理を出している屋台もあるけど……。足元にも及ばないすごい屋台って聞いたわよ」
彼女はそう言って串オークをほおばる。
「んー! これを毎日食べられるなんて最高ー! んーでも」
「何かあるのですか?」
「オーク肉だと、ちょっとっていう風に考える女の子も多いのよね。だから、もっと女の子が食べられるのがあったら、並んでくれるかも……ね?」
「なるほど……女性が食べそうな……もの……ですか」
魚介類ではダメなのだろうか?
そこまでして食べたい……という物ではないとか?
「魚介ではダメでしょうか? 他の魚料理を増やしたりは?」
「うーん、それだけだとなんとも。正直、屋台に並ぶっていう所もハードルではあるでしょうね」
「屋台に並ぶのがハードル?」
「そ、やっぱり冒険者が多い場所だし、そういうのに囲まれるって……普通に怖いでしょ?」
「あーなるほど……」
客層として、食べに来られないのは悲しいが……。
かといって、それを解決する方法も思いつかない。
「それらの問題を解決したら、女性の方々も来てもらえるでしょうか?」
「そんなにも来て欲しいの? もう十分過ぎるほど流行ってると思うけど」
「ええ、とりあえずはこの街一番の屋台にしませんと、店を構えるには屋台の知名度を上げるのが必要なんですのよね?」
「まぁね。でも、こんなすぐに出来るもんじゃないんだけど……カレンならできるのかなぁ?」
「出来るようにするためにも、わたしは全力を尽くしますわ」
「味見はいつでもするから、任せて」
わたしは苦笑して頷く。
「ええ、お願いしますわ」
ということで、色々とやらないといけないのだけれど……。
夜はもう……かなり早い時間に寝ることになっているし、朝は早いので遅くまで考えるということもできない。
かといって朝は朝で仕込みをしないと、その日の量を確保できずにお客様のガッカリした顔を見ることになる。
この朝の仕込みも大変で、早朝から元気いっぱいのアミアさんの所に行き、魚介類を受け取って下ごしらえをしておく。
それから料理ギルドに行き、パンやオーク肉等をおろしてもらう。
これは料理ギルドに入っているからしてもらえることで、本当は欲しければ魚介類等は準備もしてくれるらしい。
でも、アミアさんの方が質はいいので、いずれはオーク肉等もどこかから仕入れなければ……。
話がそれた。
料理ギルドで食材を受け取った後は、宿に戻ってオークの処理だ。
油としてラードに分けたり、一口サイズに切っておいたりとやることは無限にある。
それらが終わった後は屋台に行って営業開始。
営業中は新メニューを考える暇もないし、そもそも新メニューを追加しても調理が間に合わない。
「お次の方どうぞ!」
「全部限界までくれ! 味はタルタルソースで!」
「はい! 串オークが2本! エビフライ、カキフライ、イカフライが各1本ずつですわね!」
「腹減ってんだ! 早くしてくれ!」
「少々お待ちください!」
ずっと注文を受けている間にも、油の温度が下がるのでそれを調整もしなければいけない。
というか、現代日本のコンロのありがたさを思い知った。
油の温度管理をしなければならないのだが、まきを燃やして火を焚いている。
だから、この温度にしたいと思っても、すぐには温度変更ができないのだ。
ずっとまきの火をいじくり回しているくらいだ。
お客様の方にも問題が出てくることがあって。
荒くれ者の冒険者もそこそこいるので、それも解決する必要がある。
「あ? おい、順番ぬかすんじゃねーよ!」
「は? 前を見ずに空けてるのがわりーんだろうがよ!」
「ケンカはダメニャー!」
ただ、こういう時はわたしの後ろで日向ぼっこをしているソラが出ていってくれる。
「順番はきちんと守るニャ! 分かったニャ?」
「あ、ああ」
「す、すまん」
ソラには独特の迫力があるらしく、意外と冒険者の人達も言うことを聞いてくれる。
よく爪を出してケンカの仲裁をしているけれど、その爪が使われたことは今の所ない。
「全く……ボクの日向ぼっこの時間を使わせるなんて、なんて不届き者ニャ……」
ソラはそう言って、九尾の上でグレーのふわふわの身体を丸めている。
九尾も九尾で丸くなっているが、わたしがお願いしたことは聞いてくれていた。
フェニックスは九尾の頭の上で羽づくろいをしたり、うとうとしたりしている。
こんな猫の手でも借りたい時に……。
こんな……猫の……手でも……。
わたしはじっとみんなを見ていると、丸くなっていたソラが気づいて片目を開く。
すると、両目を見開いて見つめ返してくる。
「か、カレン? どうしたニャ?」
「猫の手でも……借りたい……そう……思いまして」
「ニャ? ニャにがニャ?」
「ソラ? お手伝いしてくださるかしら?」
「ニャ、ニャにをさせる気ニャ!?」
ソラがちょっと震えているが、そんなひどいことをわたしがさせる訳がない。
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「さぁさぁ今ちまたで話題の串オークニャ! 1本100ゴールド! 魚介のフライは200ゴールドニャ! どれも絶品で売り切れごめんニャ!」
ということで、みんなにお願いをした結果。
ソラは列の整理や、注文を先に聞いておいて伝えてくれたり会計も担当してくれる。
時間が出来た時には呼び込みもしてくれることになった。
「もう少し強火でお願いします」
「ピー!」
フェニックスには火加減を任せている。
最初は難しかったけれど、言ったことはちゃんと理解してくれて一言で火加減を変えられる。
そして、その火加減をキープしてくれるのがこんなにも楽で頼もしいだなんて。
九尾は元々冷蔵庫担当的な立ち位置だったので、そのままだ。
けれど、何かあった時は彼の魔法を頼るので、いざという時の要員として控えてくれている。
これで営業中も時間が出来た。
なので、女性に向けた新メニューの開発に取りかかれる。




