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第13話 オープン初日

「本日は新しい料理! 串オークだけでなく、エビフライにイカフライ、そしてカキフライを販売いたしますわ!」


 わたしは大声で叫び、客引きをする。


 最初が肝心だ。

 一人でも来てくれれば、きっとこの美味しさが伝わるはず。

 そう思っているのだけれど……。


 道行く人は目線をくれるけど、店に来てくれる人はいない。

 心がくじけそうになる。

 だけど、たった一回で上手く行くはずがないのは当たり前だ。


「美味しいですわよ! ぜひとも食べてみてください! お値段もお手頃ですわ!」


 何回も大声で叫び続け、そろそろ声が枯れるかも。

 という所で、1人の男性が店の前に立つ。


「そこまで言うなら食ってやろうじゃねぇか。どれが美味いんだい?」


「肉が好きか、魚介が好きかで変わりますわ」


「俺は冒険者だ。肉に決まってんだろ」


「では串オークですわね。1本でいいですか?」


「サイズはどれくらいあるんだ?」


「これですわね」


 わたしはパン粉等をつけて揚げるだけ、という状態の串オークを見せる。


「なんだ。小さいじゃないか」


「その分お値段もお買い得ですわ。新商品の味見にはちょうど良いのではなくて?」


「ん? 1本100ゴールドか、確かにな。じゃあ1本くれ」


「毎度!」


 わたしは100ゴールドを手袋をした手で受け取った。

 すぐに持っていた串オークにバッター液をつけ、パン粉をつけて揚げていく。


 ジュワァァァァァァ


「いい音鳴らすじゃねぇか」


「でしょう? 注文を受けてから目の前で揚げますので、見ているだけでも楽しいと思いますわ」


「ああ……いいな。これ」


 そうして、少ししたら油からあげ、トレーに置く。


「もう食ってもいいのかい?」


「1分くらいお待ちいただくのがいいですわ」


「くそ……もう食いたいのに……じらすねぇ」


「その方が美味しいので」


 そう言って1分経った後に、わたしは仕上げの塩を振る。


「さぁ、どうぞ」


「やっとか!」


 彼は串オークを手に取って思い切りかじりつく。

 サクッという軽快な音が響いた。


「美味い! このサクサク感! 他の店で食った揚げ物はなんだったんだってなるほどうめぇ! オークと言ったら香草とか匂いの強い物で消すのがあたりまえだってのによ……つーか。そっちの魚介……もうめぇのか?」


「もちろん。自信をもっておすすめいたしますわ」


 ここからが本当の勝負。

 串オークは審査会でも認められたもの。

 だが、魚介の方はソラ達やハンナさん達にしか認めてもらっていない。

 なので、ここで受け入れられるか、試さなければ。


「じゃあ……どれがいいんだ?」


「最初でしたらエビが分かりやすいのではないかと」


「じゃあそれもくれ、値段は……」


「少し上がって200ゴールドですわ」


「ほい」


「毎度!」


 ということで、わたしはエビをバッター液につけ、パン粉をまぶしてオークを揚げたのとは別の鍋に入れる。


「わざわざ分けているのかい?」


「ええ、こちらのオーク油はオークの肉には合うのですが、魚介には少々合いませんの」


「そいつは楽しみだ」


「ええ、ご期待ください」


 エビフライを網の上に置き、数分間待ってもらう。


 ただ、揚げている最中に音が気になったのか、結構な数の人が(のぞ)きにきていた。


「こいつも……数分待つのか?」


「ええ、その方が美味しいので。それと、味はどちらがいいでしょうか?」


「ん? 選べるのか?」


「はい。普通に塩で上品にいただくことも出来ますが、こちら、タルタルソースもおすすめでございます」


 わたしは塩とは別に、九尾が魔法で冷やしてくれているタルタルソースの入った容器を見せる。


「そ、そいつは……どんな味なんだ?」


「ぜひ、お客様第一号として声を聞かせて欲しいですわ」


「ふっいいぜ。じゃあ味はタルタルソースとやらにしてもらおうか」


「ええ」


 ということで、2分ほどおいたエビフライに串を刺して持ちやすいように。

 後は上にスプーンですくったタルタルソースをかける。

 本当はみそだれのように店前においておき、お客様に自由につけていいよ。

 というディップスタイルにしたかったのだが……タルタルソースの安全性を考えると、それはできない。


 なので、こうして毎回取り出して提供するという方式を取ったのだ。


 エビフライのタルタルソースがけの完成である。

 タルタルソースに関しては、卵はハンナさんの家にあったし、ピクルスや玉ねぎもあったので完璧なタイミングだと思った。


「タルタルソースは時間が経つと危険なものに変わってしまいますので、お早めにお召し上がりください。それではどうぞ」


「お、おう」


 冒険者の方は恐る恐る串を手に取り、口を大きく開けてかじりつく。


 サクッ!


 冒険者は口を何度ももぐもぐと咀嚼(そしゃく)し、プルプルと震えだす。


 え、なに、やばい、何か配分間違えました? と不安になる。


「ん~~~~~まぁあああいい!!!」


 気のせいだった。


「美味い! 美味い美味い美味い! 美味い!!!」


「あ、ありがとうございます」


 冒険者は目をキラキラとさせて、そう言いながら迫ってくる。

 身体が大きく迫力があるので、少し後ずさりしてしまった。


「ああ、すまん。だが、こんなにも美味い物は初めて食った。サクサクの食感に、中にはプリプリで弾けるエビ! しかもタルタルソース? の酸味と塩味が絶妙にマッチしていて、香草しかなかった屋台に激震が走っただろうぜ! しかもこんな安い値段で出していいものじゃないだろう……あんたどこかの貴族の料理人か? あんまり聞かないが……その服からすると貴族だったり……しますか?」


 急に貴族だと思ったのかそう言ってくる。


「一応はそうですが、この国の貴族ではありません。さすらいの貴族なので普通の口調でしゃべっていただいて問題ありませんわ」


「さすらいの貴族なんて聞いたことねーよ。商売しない商人みたいなもんだぜ?」


「ですから気にしなくても問題ありません。それに、どこかの厨房を預かっていたというのでもありません。お好きなだけ食べていってください」


「そうだな。じゃあ残りの奴もくれ。それと……」


 冒険者がそう言って他には何にしようか迷っていると、後ろから声が上がる。


「俺も食いてぇ! 串オークか? 審査会で出たってので食ってみたかったんだよ! あと他のも1つずつくれ!」


「こっちもだ! 全部1本ずつくれ!」


「こっちもだ!」


「ふざけんな俺が選んでるんだよ!」


 という感じで、冒険者の方々は少々荒っぽいのか、乱闘になりそうになる。


「ちょっと待つニャ!」


 争いになりそうな所を、ソラが可愛らしい手を腰に当てて声をあげる。

 120センチしかないソラだけれど、荒々しい冒険者たちの視線が一斉にソラに向いた。


「ちゃんと順番に並ぶニャ。たくさん準備してあるから問題ないニャ。ニャ? カレン?」


「え、ええ……。売れないと金欠で危ないので、賭けですがそれなりに準備して来ました。串オークは200本、他は各50ずつ用意していますわ」


 売れるかどうか分からなかった。

 けれど、売れないと宿に泊れない。

 最悪、本当にハンナさんにお願いして泊めてもらうことになるかもしれない。

 いくら何でも迷惑はかけられないので、なんとかここで売れて欲しい。


 しかし、ソラはちょっと残念そうな目をしてわたしを見ている。

 なぜ?


 ちなみに、冒険者の人達の目の色が変わる。


「やっぱり少ないじゃねえか!」


「俺だ! 俺が買う!」


「ニャー! とりあえず並ぶニャ! そして購入は串オークは1人2本! 魚介は1人各1本ずつまでニャ! 守らない奴はボクの爪で大変なことになるニャ!」


 ソラは意外とこういうのが上手で、上手いこと列を作るようにしてくれた。


 そして、初日なのに完売できた。


「良かった……これで、ハンナさんの所に転がり込まずにすみますわ!」


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