第11話 美味しい魚介料理にするには……
調理場は所々に血がついていて、魚の匂いがしている場所だった。
しかし、道具は手入れされていて問題はなさそうだ。
「どうだ? やれそうか?」
「ええ、アミアさんが道具をとても大事になさっているのが伝わってきますわ」
「やめろよ恥ずかしい。それより、早く食わせてくれ」
「ええ、少々お待ちください」
ということで、わたしは表から持ってきたイカ、エビ、カキをそれぞれ調理していく。
まずはエビからでいいだろうか。
エビはよく聞く背ワタというのを取る所から、つまようじのような細いものを九尾に作ってもらい、それを使って背ワタを抜く。
次に尾の先端を切り落として、見栄えが良くなるように足も短く切り揃える。
カキはボウルに塩と小麦粉をまぶして丁寧にもみ込む。
これをすることにより、カキの汚れを落とす。
次はそれを冷水で流すのだけれど、小麦粉が残ると食感が悪くなるので丁寧に何度も洗う。
イカは内臓を抜き、よく見る頭だけにして丁寧に水洗いをする。
そして、実は存在する薄皮を包丁で切れ込みを入れてむく。
これは結構頑丈なので、切りこみをいれたらそのまま簡単にむける。
そして、格子状に隠し包丁を入れればこれで下処理は終了。
後はそれぞれの時間に合わせて焼いていくだけだ。
焼き時間を計って真剣に見つめ、焼き上がった瞬間を逃さず火からあげる。
それに塩をさっと振り、アミアさんに差し出す。
本当はもうちょっと調味料もあればいいのだけれど……ないものは仕方ない。
アミアさんは目を輝かせて魚介をそれぞれ食べる。
「美味過ぎんだろ! イカは淡泊っていうか、あんまり味しねーし、どう食べていいかわかんないのに、この美味さはずる過ぎる! エビはこんなにもプリっプリで、噛んだ瞬間弾けるなんて知らなかった! カキは……もう……なんだこの濃厚な味は、オレは本当に魚介を食べているのか? 天国の味じゃないのか? そう思っちまうぞ」
「満足していただけました?」
「満足ってもんじゃねー! これなら毎日でも作ってほしいくらいだ! いや作ってくれ! オレの嫁に来い!」
「アミアさん……」
ちょっとアミアさんは強引だったけれど、そこまで美味しいと思ってくださったのなら嬉しい。
因みに、ソラ達はと言うと。
「ボクの本能が起こされそうな美味しさだニャ!」
「ピー!」
「素材の味をここまで引き出しているのは食べたことがないね」
よくわからないことを言っているが、美味しいのならいいだろう。
「わりーわりー。ま、それくらい美味いってこった。これを屋台で出すのか?」
「それも悪くはないのですが……。やはりもうひと手間加えた方が美味しいかなぁ……わ!」
わたしが言うと、アミアさんが鼻がくっつかんばかりに近づいてくる。
「これより美味くなるってまじか?」
「い、いえ、違った方向なので、これはこれで美味しいですし。ただ、屋台で並んでいると、香草等に消されてしまうのではないかと思いまして」
「あー南の屋台通りだっけか? 確かにあそこは匂いもだし、味が強いのが多いな」
「ええ、ですので、この味では少々消されてしまうのではないかと」
わたしはそう思うのだが、アミアさんは違ったようだ。
「だけど、最初にカレンのを食う奴は問題ないんじゃねーか?」
「屋台では隣の匂いも普通に届きます。それを考えると、普通に売るだけでは少々足りないと思うのです。わたしが作っているすぐ隣の串オークの方ばかりに注文が殺到するのが目に見えますわ」
「そういうもんか」
「ええ、という所で、もう少しお力を貸していただきたいのですが……」
「なんでも言ってみろ」
力強い……とても男らしい返事でちょっとビックリする。
まぁ、女性なのだけど。
「油がほしいのですが、いいお店を知りませんか? ここの様に並んでいたりしたら分かりやすかったのですが……」
「油? なんでオレに?」
「魚から油をとることもあるでしょう? なら、その繋がりで知らないかと」
「なるほどな。場所は……いや……分かりづらい……か?」
「教えていただけたらわたし達だけで行きますわよ?」
「いや……あそこは……知らないと見つけにくいんだ……が……」
アミアさんがなんだか難しそうな表情をしている。
店の人が苦手なのだろうか?
彼女は少し迷った末、案内してくれることになった。
「少し待ってくれ、案内するぜ」
「いいのですか?」
「ああ、朝には大体終わってるからな。美味い物食いたいし、じいちゃーん! ちょっと出てくるから店番代わってくれー!」
アミアさんは店の奥に行き、そう叫ぶ。
それでいいんだ……と思いながらも、口を挟むことでもないか。
そんなこんなで、彼女の案内で、街の東側にある、少し込み入った店に案内される。
裏路地の様な道を右に曲がったり左に曲がったり、これは一回では覚えられないかもしれない。
しかし、確かに油のマークの店に到着するが、治安は少し悪そうだ。
近くを流れている小川は少し濁っているし、そうじゃないかと思う。
「ここは大丈夫ニャ? 楽器にされないニャ?」
「大丈夫だよ。ここの店主はちょっと変わっててな。まぁ、ひどいことはされないさ……多分」
そう言ってアミアはその店に入っていく。
店の中は床、壁、天井、すべてが土造りの建物だった。
天井からは魔道具だろうか? 結構強い明かりが店内を照らしている。
店内には茶色いツボがいくつも置いてあり、おそらくその中に入っているのが油なのだろう。
「これは……すごいですわね」
「油を売ってるからな。火がついて周りに広がったら大変だからな。あんまり大きな所にはないし、建物も燃えないようにかなり厳しく注意されてるんだよ」
「なるほど」
「あら~珍しいかわい子ちゃんが来たわねぇ」
「ぅ……」
アミアさんが呻いたのが耳に届く。
「アミアちゃんいらっしゃい。それと……そちらの可愛らしいお嬢さん達はどなたかしら?」
おっとりしたしゃべり方なのに、服は肌を見せつけるような薄着。
手どころかお腹も出していて、踊り子のような服装かもしれない。
わたしが彼女を見ていると、アミアさんがわたし達を紹介してくれる。
「彼女達は最近ウェリスに来た料理人だ。カレンとそっちの猫がソラ、フェニックスと九尾だ」
「よろしくお願いしますわ」
「よろしくニャ!」
「ピー!」
「よろしく」
「で、この油を売っている彼女が、エレウムだ」
「よろしくねぇ。でも、油を売っているはひどいわぁ。ちゃんと仕事をしているのに……あなたにも、してあげましょうか?」
エレウムさんはそう言って、怪しく目を光らせてアミアさんに近づいていく。




