第5ターン➁
それだけインパクトのある文言をはっきり言われたものだから固まってしまった。
アナベルとそこにいる場のみんなも。
「ちょっと待って、いまお兄さまのお相手、とか言ってた?どういう事?」
アナベルのセリフと困惑の顔色を見取ってか、妹君ターニャは言った。
「大戦も終りを迎えようとしている、各国の中で一番の小国のこの国が、今では経済の立て直しはおろか、他の国を押さえその成長率は尋常じゃないほどの数字を叩き出していると聞く。
わが国の経済学者もその原因が、さっぱり分からないと悲鳴を上げている始末。
こんな弱小国がどんな手を使っているのか見て見たく思って。
今や各国の注目を集めているって。」
妹君ターニャはまた羽根の付いた扇を広げながら口元に持っていき。
「まあ、その原因も探りに来たのも今回の表敬訪問の一つ。」
そう言う事をあけすけにいうのもまたげんなりしてしまっていた。
「それだけでなく、あなた、今噂の歌手連中がいるって、その中心にあなたがいるって。
専らの噂なんですが、本当かしら?そしてこの雑誌。」
そう言うと、妹君ターニャは、懐から雑誌を取りだし。
「この雑誌もこの国から出された物。
まーなんて、はしたない!
そんな浮ついた女なんかに私のお兄さまを奪われてたまるものですか。」
あの、アナベルとコリーナ、ミーナが隠し撮りされた雑誌だった、他国にも流通しているようだった。
この国だけでなく、他国にも広くひろまっている事を想像しただけで、恥ずかしさで彼女は顔から火が出るようだった。
「はあ、ルードリッヒ令息のことは、初めて聞いたわ。」
アナベルは思った。
確かに今は歌のレッスンと、ダンスのレッスンの真っ最中でたまに、メディアに出だしたばかりのはず。
「あなた、その歌のグループのセンターなのでしょう?
それをお兄さまは・・・。」
ターニャ。
「ちょっと待ってください。そのお兄さまは、親王ルードリッヒ令息は私の事を何か仰っておられたのでしょうか?」
アナベル。
妹君はキッとアナベルを睨み
「言う訳無いでしょう、小国の悪名高い令嬢の事なんか歯牙にもかけるわけ無いでしょう。」
アナベルは何が何だか訳が分からなくなってきた。
「悪い芽は早めに摘んでおくのが私の主義なの。」
そう言ってターニャは勢いよく羽根つきの扇を閉じて、勢いよく自分の手のひらに打ち付け、その音を部屋中に共鳴させた。
「お兄さまの好みは、生まれた時から一緒の私が一番よく知っててよ。
あなたのような、飾りっ気のない醜女なんかが逆にお兄さまのお気に入りかもしれない。
だったら早いうちに摘んでおくのよ。」
ダメだ、このいでたち通り、噂通りのブラコンのヤンデレだ、思考が全くかみ合っていない。
アナベルは大きなため息をついた。
多分、あのプロデューサー主導で歌謡祭の為のアナベルたち歌手のグループを立ち上げ、雑誌の事もあり、噂が国中に知れ渡り、それを直に確認しに来たのだろう。
これでは貴重なターンがこの妹君相手で消費してしまう。
どうすれば。
とアナベルは考えをフル回転させた。
「そうだ、前回の表敬訪問の時すっぽかされて機嫌が斜めの義母と義姉をぶつけてみるか。
この一件を、押し付けてもレッスン場の様に乗り気は全くないだろうが、国賓の相手をさせることでプライドをくすぐらせれば。
あるいは。
ここは、こっちから助けてほしいと下手に出て、義母と、義姉の自尊心をくすぐる作戦に出た。
案の定、内心嬉しそうに慌てているところを見せずに、急いで取り繕いながら、仕方ないわね、と言わんばかりの態度でやって来た。
そこで、すかさず、アナベルは「高貴な人は高貴な人でなければ、その心うちが分からないと言うもの、どうか更なる友好の礎となるようお力添えを賜りますよう、お母様、お姉様。」と頭を下げると。
二人は
仰け反らんばかりに、「やっとお分かりになったようね。私たちの高貴な血でこの国を立て直して御覧に入れましょう。」
と言いながら、
静々と妹君ターニャをエスコートして奥へ消えていった。
ホッとして、残りの時間を、取り返すように仕事に取りかかった。
だが、事件が起こった。
バタバタと城内がとんでもなく騒がしくなっていた。
何事かと、産業地帯の視察と、町の巡回を終えて帰って来たアナベルが、駆けずり回っている衛兵を呼び止め、何があったのか聞いた。
「詳しい事は分かりませんが諸侯連合国、親王ルードリッヒ令息の妹君ターニャ・シュルツェ・ルードリッヒ様が、行方が分からなくなったと言う事です。」
衛兵。
「行方不明?」
アナベル。
「詳しい事は解りませんが、忽然といなくなったようです。只今、総力を挙げて探索中です。」
「行方不明になったようです。」
「さらわれたかもしれません。」
代わるがわるアナベルの周りに、衛兵がご注進とばかりに次々、情報を伝えに来た。
何か嫌な予感がしていた。
「表敬訪問で訪れている妹君ターニャ・シュルツェ・ルードリッヒ御令嬢が忽然と行方をくらましたようです。」
最後にもたらした報告に、アナベルは眼の前が真っ暗になった。
目を通して下さり、誠にありがとうございます。




