第5ターン①
「なじかは知らねど 心わびて
昔の伝説は そぞろ身にしむ
さびしく暮れゆく ラインの流れ
入日に山々 あかるく映ゆる」
【歌 「ローレライ」 日本語訳詞 近藤朔風氏 】
アナベルとコリーナ、ミーナは、「ローレライ」の一節を歌っていた。
あの、湖畔で見て聞いた歌声を直に聞くアナベルは、学生の頃合唱部で過ごした日々を再び思い起こしていた。
あの時の様だと。
みんなと過ごした日々が思い起こされて懐かしく思っていた。
首には固定用の器具を取り付けたまま、プロデューサー歌っている三人の前で、目をつむり聞き入っていた。
ここはアナベルが張り倒した、プロデューサーが持っているレッスン場。
定期的に通うようになった。
歌謡祭に向けてである。
世界を巻き込んだ歌謡祭が、今着々と進行中であるという。
プロデューサーは彼女達の歌声はもちろん、その佇まいも十分世界を狙えると踏んでいた。
この娘達、いや、この国の代表補佐アナベル・ド・へーニング令嬢とメイドのミーナとコリーナはこの世界を席巻するかもしれない。
彼は思った。
自分の長年の感がそう言っている。
しかもこの曲はなんだ、心が引きこまれてしまう。もしかしたらこの曲は、歌は伝説の・・・。
と、思っているところへ。
ドカドカと大人数で入って来る者が有った。
「ここで、歌のレッスンをしているって本当なの!」
義姉エリザベートだった。
その姿は、白のシースルーの下にほとんど下着の様な布を巻き、これでもかと自慢のプロポーションを惜しげもなくさらけ出し、「世の殿方はこんなちんちくりんより、私の様な均整の取れたボディーをご所望のはずよ!」
そう言いながらドカドカと、レッスン場に乗込んできた。
そして、アナベルを見止めると。
「あなた、最近いい気になっていません事?」
レッスンの最中のアナベルの傍まで来て、睨みつけるように言い、召使に持たせているある物を受け取りそれをアナベルの目の前で広げた。
雑誌だった。
「これ、どういう事かしら。」
あの、アナベルやコリーナ、ミーナが隠し撮りされ、しかも「美人~」とか「美しき~」と賛美の言葉が並んだ写真雑誌を広げていった。
「こんな破廉恥な事書かれて、恥ずかしくないのかしら?」
眼の前の、下着の様なドレスを着た女に言われたくないし、その言葉をそっくりそのままお返しすると、半分以上呆れながら思っていた。
「あなたばっかり、今に見てなさい!」
そう言うと踵を返しプロデューサーを見下ろし、義姉エリザベートは改めて言った。
「さあ、こんなちんちくりん共より私の魅力で、世の殿方を魅了して見せてあげるわ!」
と、追い詰めるようにプロデューサーに迫った。
後から、追いかけるように召使が、慌てて「お嬢様、こんなところでお時間は取れません、明日は、諸侯連合国、親王ルードリッヒ令息の妹君ターニャ・シュルツェ・ルードリッヒ様が表敬訪問されると、伺っております。ここは姫様がご対応いただかなくては。前回の事もございますし。」と言うと、義姉エリザベートは召使を睨みつけ、「そんな殿方以外はアナベル、がすればいい事でしょう。」と、全く取り合わなかった。
そして強引に歌い出し、その歌声がこの世の物で無い位ひどすぎ、迫るエリザベートに体が小さくなっていくプロデューサーを、アナベル一行は義姉に託し早々にレッスン場を後にした。
気のせいか、プロデューサーの悲鳴が聞こえたようだった。
その日は忙しかった。
そして、気が重かった、何故ならあの諸侯連合国、親王ルードリッヒ令息の妹君ターニャ・シュルツェ・ルードリッヒが表敬訪問して来るからだ。
しかも、二ターン目の時に表敬訪問に来た貴族盟約国、第一後継者ユルゲンス侯爵子息の事を思いだし、国賓を迎えることに余計げんなりした。
こいつはたちが悪い、目が覚めるような美貌に、表面は大人しく、控えめを装っているが、裏で何をして来るか分からない。
そう、ガイドブックには書いてあった、そしてこの妹は、兄に近づく女性を片っ端からいびって排除すると言う極度のブラコンでもあると言う。
しかしなぜ、今、そんな令嬢がこんな小国に訪問しに来るのかアナベルは理解できなかった。
ただ、言えることは短期間でそれだけこの国が繁栄している事に関係しているのだろうか?
それとも、新開発の商品群の品定めだろうか。
だとすれば、取り敢えず順調にシナリオが進んでいると言う事だろうか。
アナベルは色々考えが巡らしているが、今はとにかくセオリー通りでは到底クリアできないエクストラシナリオ。
とにかく進むしかない。
と、クリスタルにセーブをするのだった。
そして、白馬の馬車に乗ってその令嬢はやって来た。
馬車から降りてきた彼女は、リアルにそんな着飾るだろうか、という位派手な、とにかくアナベルの元の世界ではゴスロリのようなドレスだった。
降りて来る仕草も令嬢よろしく、召使に両手を預け静々と降り、歩く先々に絨毯を引くかの如く静々と歩き進みだした。
大きな羽根をあしらった扇で、顔を覆い見せない様に片手を召使にリードさせ、玉座の間へ向かって行った。
迎えていた、アナベルの前までやって来た。
そして顔を隠していた扇をおもむろに閉じ、その扇の後ろから、その素顔を目の前にさらした。
息を飲む様な美女とはこの事だろう。
それは透き通った肌、整った目口鼻。
ゴスロリの服の上からでも分かる均整の取れたプロポーション。
非の打ち所がないとはまさにこの事だ。
どれをとっても、美しい。
多分男が百人いたら百人とも恋をして百人とも彼女の命令にかしずいて百人ともこの令嬢の為に命を捧げるだろう。
それ位の息を飲む美貌がそこにあった。
そして開口一番。
「お兄さまのお相手がどんな方なのかなって思ってたら、こんな醜女?」
堂々と、あまりに堂々と面と向かって言われたものだから、その単語が正しく聞き取れ無かったのでは、とアナベルは自分の耳を疑った。
目を通していただき、誠にありがとうございます。お時間を頂戴いたしております。




