第4ターン①
朝から。
「ムキー、どういう事よ、今度は!」
義姉が、執務室に怒鳴り込んできた。
官吏、家臣、大臣補佐、管理職から事務方が朝からバタバタと忙しく右に左に、ある者は書類を持って走り回り、ある者は大きく広げているこの国の地図の上に状況報告の付箋をピン止めしてたり、ある者は頭を数人で寄せ合い、計算尺で、生産の効果率の計算をしてたり、あるグループは数人で各地の吸い上げた情報について激論を交わしているその仕事の真っ最中の所に、人を掻き分け義姉は来た。
「この前の事と言い、どういうつもり?」
再度、義姉は言った。
怒りながら実際、ムキー、と言っている人間を初めて見たアナベル。
「あのでっかい、物。何とかしなさいよ!」
まだ怒りが収まらない様子。
アナベルは、小さくため息をつき。
「どうしたんですか?お姉様?」
取り敢えずなだめるように言った。
「取り敢えず、見て見なさいよ!」
と一階のホールを見るように、また羽根の付いた扇子をブンブン振り回している。
半ば諦めながら、仕事の途中だが、見に行くことでこれ以上の邪魔をされたくない、と思い一階のホールに行ってみた。
何やら、人の背丈もある大きなガラス製品。
アナベルはピンときた。
これはブラウン管、このセカイでは何と呼ばれているか分からないが、確か以前パワハラ貴族を張り倒した工業地帯で生産が開始された、テレビジョンと言う画像音声受信装置だ。
運んできたその貴族の召使が、写真とともにメッセージをお渡しするように、と言って彼女に渡した。
その写真には、スマートなイケオジが。
多分こっちが本来の姿だと言わんばかりに、ダイエットに成功した、ちょっと古いポーズで、あの時の肉ダルマ貴族が映っていた。
写真の余白には親愛なるアナベル様と書いてあって、その後には、先日のパンチで目が覚めて今度は皆の事を思いやりながら、頑張っていますと、反省と、今後の抱負が綴られており。
そこまでならいいのだが、更にその後には愛の告白の文章、赤面するようなキザなセリフが延々とつづられていた。
「なんて書いてあるのよ!」
義姉が覗き込んできた。
多分、火に油であることは間違いないので背中に隠し、側にいたミーナに写真をパスをしつつ、目の届かない所にもて行くように言い付け。
「何もありませんことよ、お姉様。」
と、しらを切り通した。
暫くアナベルを睨みつけ、
「フン!」
と、でっかい鼻息を一つ、つくと大股で、歩き出し、何やら唸りながらその場を去っていった。
今度は大きいため息を付いて、去っていく義姉を見送り、それはさて置きと、大きなテレビジョンをどこに置くか悩むアナベルだった。
嵐の様なエリザベート義姉をやり過ごし、執務室のまた慌ただしい場所へ戻ってくると、次のトラブルが待ち構えていた。机の上に雑誌が山のように積まれていて、それは見るからに仕事とは全く無縁の、写真ばかり載っている、アナベルが元いた世界での週刊誌と呼ばれるような代物だった。持ってきたのはコリーナ。
これを見て下さいと言わんばかりに広げて、指さして言った。
「アナベル様これを見て下さい」と言って、追加で眼の前に両手に抱えきれないほどの雑誌を持って来て、机一杯に広げた。
「ひどいと思いませんか?」
再び言ったのはコリーナ。
執務室で、今日も慌ただしく残りのターンで、いかに生き残るか大臣や、官吏、担当者に矢継ぎ早に指示を出している最中に、アナベルの机の上一杯に彼女はさらに広げた。
ミーナと、そこを通りかかったヴァル、一同は目を疑った。
「これは。」
アナベルは思わず声が出た。
そこに載っていたのは、ユルゲンス侯爵子息を殴り倒して町で大暴れした時の、アナベルや、同行していたコリーナ、ミーナのオフショットだった。
明らかに隠し撮りの写真だ。
いつどこで、撮られたのか分からない様な、本当に気の許した表情や、何気ない表情の、出来れば撮って欲しくない、見て欲しくない写真ばかり。
救いは、下品な写真は無くポートレートの様だったのが唯一。
だが、その雑誌のおどり文句には『美人メイドと謎の美女』、『美しさ満点メイド』、『降り立った女神二人のメイド』、『まさに現代の女神メイド』などなど、『美メイド』などの文言が踊っていた。
中には、どこから調べたのか、プロフィールまで事細かに、勝手に推定体重やサイズまで、赤面するような、おおよそ、ゴシップもいい所の記事まで載っていた。
「いや、ナニコレ。」
ミーナも声を上げた。
「勝手に撮られて、勝手に雑誌に載せられて、恥ずかしい!」
コリーナ。
「でも、カワイイ。」
ぼそっと、一冊の雑誌を手に取り、ヴァルは言った。
丁度、アナベルのページの所だった。
「ちょっと、あなた何言ってるの?」
ミーナと、コリーナは彼の独り言を聞き逃さなかった。
「あ、いや、ごめんなさい。」
そう言って、顔を真っ赤にして後ずさりしながら、ヴァルは早々にその場を退散した。
フンス、とミーナとコリーナ鼻息荒くアナベルに向きなおり、「こんな破廉恥な写真や雑誌どうにかなりませんか?」とミーナ、「こんな写真撮る奴なんてやっちゃいましょうよ!」とコリーナの鼻息に、彼女達のモチベーションの事も考え、一度街に出てその雑誌の出版社へ抗議する為二人を連れて、街に出ることにした。
降り立った中央ステーションでは何台も停車している機関車の蒸気で、煙っていた。
三人はその中を、王都中心の駅に勝るとも劣らない位の人、ひと、人の往来の中を歩いていた。
「ウーンいいねえ、良いっよー。」と何だか軽いノリの声を掛けて来る男がいた。
何だか軽いステップで、遠くから、覗いたり、失礼な位近寄ってきたり、写真機のシャッター音を遠くから鳴らしていた。
盗撮されている。
サッとコリーナとミーナはその盗撮野郎を注意しようと近寄ると。
「おーウ。」と言って光速で離れていった。
「なんなんだ、あいつは?」
多分、私とこの二人をあからさまに盗撮したに違いない。
さっきの訳の分からない男を散らしたのはいいが、ユルゲンス侯爵子息の一件から、有名人になっている様でとにかく周りの市民たちに取り囲まれて困る、油断していると、あちこちで写真機のカシャカシャと隠すこともせずこっちを撮って来るものが有り、気が付けばなかなか前に進むこともままならなかった。
とにかくステーションを離れた。
それでも、やはり視線は落ち着かない。
ジロジロみられ、写真機での撮影こそないが。
また、先程のステーションで出会った怪しい男が近づいてきた。
手には写真機を持っている、アナベルは考えるより先に体が動いた。
拙作に目を通していただき、誠にありがとうございます。




