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第3ターン①

 歌声だった。


 アナベルは元いた世界で高校生だったあの日、あの時、友人と合唱部の中で、コーラスにその時間を費やしていた、と言っても特に強豪校でもなかったし、熱血でもなかった、定期合唱会で市民ホールや、施設などに行き歌声を披露する、ただそれだけで楽しかったし充実していた。


 ただ、友人たちとその時間を共に過ごせたことが懐かしい日々。

 その日々の中で、歌は彼女の一部だった。

 その時以来の歌声だった。

 歌っているのは私だ、あの代えがたい日々を思い出した。

 自然と涙がこぼれた。

 そこで目が覚め、見上げると天蓋のシーツが揺れていた。


 歌声が聞こえる。


 夢で無かった。

 バルコニーに出てみた。

 歌声はこの城の今いるところから下の方に見える、屋根伝いにある湖に突き出た階段の踊り場に人影があった、二人。

 その二人が歌っているようだった。

 一度歌い切ったようで、少しヒソヒソと何やら話し合っているようだった。

 そして、また歌い出した、澄んだ、美しい歌声だった。


「ローレライ」


 いや、違う、彼女は首を振りもう一度、耳をそばだてた。

 よく似ているが違う、が、歌の美しさは変わらない、彼女の歌に対する思い出を蘇らせるには、十分な歌声だった。

 月明りに照らされたその情景と歌声は幻想的で、夢の中の夢のようだった。

 その歌声と、自分の高校の思い出を思い出しながら窓を開けっぱなしにして、もう一度寝具の中に体を滑らせた。


 ずっと歌声は、月明りと共に部屋あった。



 夜が明け、最初の一声が義姉エリザベートだった。

 執務室に行く途中。

 朝から顔を真っ赤にし、煌びやかなラメの入った、体の線と豊満な胸をこれでもかという位強調したドレスを振り乱し、大股で床を踏み鳴らしながら、怒りながらアナベルに駆け寄り言った。

「こ、こ、これはどういった事かしら?」

 いったい何のことか分からず、アナベルは怒りの理由を尋ねた。


「とぼけないでくださる?なぜ貴族盟約国、第一後継者ハンス・オーゲン・ユルゲンス侯爵子息が、なぜ、あなたにこんなことするのよ!」

 義姉。


「何のことですか。」

 今にも噛み付くのではないか、という位の勢いに、アナベルは後ずさりしながら言った。

「キーッ、悔しい。なんで、無礼を働いたあなたに、あのような物、贈って来るのよ!」

 悔しくてキーッていう人は本当に居るんだと思いつつ、義姉の羽根で飾られた扇で指し示した方向を見た。


 一階だった。



 一階を覗いてみるとそこには、廊下から階段から、足の踏み場もない位の色とりどりの花が一階を埋め尽くしていた。

 どうやら、今朝早くに貴族盟約国の使者が来て、ユルゲンス侯爵子息の贈り物と運び込んだという。

 その時に、メッセージと、カードを託された。


 メッセージは「協定の締結の祝賀として謹んでお送りいたします、何卒お受け取り下さい。」と。

 カードには「親愛なる、アナベル様、先日のご無礼何卒ご容赦下さい。私は(ここから先はプライベートの為割愛)ですのでまた。」と、熱烈な文言が並べられていた。


 そのカードを読むアナベルを見て、再び大股で床を踏み鳴らし義姉は「覚えてなさいよ。」捨て台詞を吐きながら去っていった。


 その後姿を見てアナベルは小さく溜息をついた。

 そのやり取りを、コリーナや、ミーナなどのメイドたちに交じって、複雑な表情でヴァルは見ていた。



 まだまだ、転生する前のこのアナベル令嬢の悪行の余波は、かなり根強い。

 ゲームの攻略本には、この自治都市連合国、代表補佐アナベル令嬢の人物紹介は最後でたった数行の人物紹介には、あまりにも浪費家で、奔放で、手に負えない令嬢で、最後は断罪されて追放される、とある。

 彼女はマニュアルモードで、委任モードの計算外の内政重視をして、国を豊かにしつつ、軍備増強して、他国と友好モードにしなくては、生き残る術はない。

 しかも、溺愛まで、されなくてはならない。

 そう考えるとすることが多く気が滅入る暇はない。

 前に進む事しかない、と彼女は決意している。


 出来ることは日々、街に出て、人々の声を聞くことが重要。

 あと、このターンを入れて8ターンしかない、でなければジ・エンド。

 今は産業の基盤と、国民の生活水準をある程度軌道に乗せなくてはならない。

 報告によると、新産業力、新技術力が各段に上昇し、新製品も開発され、その他技術による生産物も量産に入ったと言う。

 そのため、今回生産地区、工業地区を周りこの目で生産状況を見て回ることにした。



 町から随分離れた工業地帯に降り立ち、周りを見てみると、確かに活気づいているが、暗かった。

 雰囲気が異様に暗く感じていた。

 確かに生産が活気づき、景気に沸いているはずなのに、元気いっぱいとまで言わないがあまりに暗すぎる。

 同行している、メイドのコリーナ、ミーナもそれは感じていた。


 その原因を突き止めるのに、一度責任者を全員集め状況を聞いてみようと、アナベルは会場に集まるよう、メイドに指示をした。


拙作に目を通していただき、誠にありがとうございます。読み易いように、二つに割ってみました。

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