第9ターン①
今日も、工業地帯のイケオジが性懲りもなくやって来て、特に何をするでもなく屋敷内をウロウロしている。
名目は寄贈した大型テレヴィジョンの調子を見に来ているらしいのだが、あからさまにおかしい。
私が執務室で忙しくしているところに、シレッと入って来ては「ご機嫌如何でしょう?」とか「今度、いつ我ら工業地帯に視察来られるのでしょうか?」とか。「その時には美味しい料理とお酒をよういして待ってます。」とか。「お酒の量は?」とか「夜景がきれいですよ工場の夜景はまた違った趣があります」「今度二人っきりで」と、ここまで話してこれもまたシレッと私の手を握り「今度二人っきりで・・・」と言ったところで、手を振り払い顔面に左ストレートの寸止めをお見舞いしてやると。
「ハハハ、令嬢はお忙しいようで、また出直してきます。その時はきっと我が屋敷にお泊りで是非」と捨て台詞ならぬ、捨て口説きで退散した。
フト、ヴァル君の方を見ると、これもあからさまにボク気にしてませんって言う風にその心の中がありありと分かるほど顔が真赤になって、ふくれっ面。
「やっと帰りましたか」
やっぱりヴァル君は怒っている。
その次の瞬間、ひょっこりまた工業地帯のイケオジが顔を出し。
「そう言えば、私と同じ様に花束を毎日送っていたあの貴族の坊ちゃんハンス・オーゲン・ユルゲンス君はめっきり送らなくなりましたな」
そう言って咳ばらいをすると。
「まあ、ライバルが一人でも減るという事はいいことですが」
と言いながら、去っていった。
と思ったら、扉の向こうから顔だけ出して。
「そうそう、私の名前もうそろそろ憶えて欲しいものです、私の名はオリヴァー・フォン・シュタイン男爵と言います。貴殿に早く名前で呼ばれたいものです」
と笑い声を残して去っていった。
何なんだろう、私の周りにはヴァル君以外は何だか一癖も二癖もある男子ばっかり。
元のセカイでもあまりいい出会いが無かったのに、まあ、顔がいいだけましかしら。
などと考えていた。
それは突然連絡が入って来た、諸侯連合国、親王ルードリッヒ令息の妹君ターニャ・シュルツェ・ルードリッヒが遊びに来ると突然連絡が入ってきた、こちらの事務方はてんやわんやの大忙しさとなっていた。
後日、それを知ってか知らずか。
「お姉様ー」と言って体ごとぶつかってくる挨拶は、少し遠慮してもらいたい。
しかし天真爛漫の彼女はそのままで、婚約者をほったらかしでやって来たという。
「大丈夫?今忙しいんじゃないの?」
「ウーン、大丈夫。だって大好きなお姉様に会いたくってたまらなかったんだもの」
と言ってまた抱き付いてきた。
そして。
「お姉様と二人きりでお話ししたいわ」
と言うと。
「お知らせしたいことが」
と、抱き着いたまま私の耳元で周りに聞こえない位の小声で、そうささやいた。
パッと離れると満面の笑みを振りまいて私の手を取り。
「さあ、ガールズトーク二人でしましょ。早く」
と、手を引っ張り、私を急かせた。
「え、貴族盟約国が」
思わず声のトーンが上がった私を、ターニャは制し、周りに人の気配が無いか静かに周りの気配を探った。
そして。
「そうです、あの貴族盟約国の軍隊がこの国の国境まで移動する準備に入ったという情報が入ってきているのです」
しずかに、殆ど聞き取れない位の音量で私に伝えた。
「でもなぜ。ハンス・オーゲン・ユルゲンス侯爵子息。彼はそんな素振り見せなかったのに」
そう言えば、ここ最近確かに花束も送ってこなくなった。
「情報では彼ではなく、御父上の暴走との情報もあります」
「彼の御父上?」
「ここからは憶測ですが、この国の目を見張るような発展、近隣諸国の融和、そして人材や、その他国力の上昇が焦らせたのでは」
ターニャはもう一度回りを見渡し。
「そして多分、跡継ぎに問題が」
「跡継ぎってハンスが?」
「はい、彼はああ見えて、中央の王立大学を首席で卒業し、人文から科学、魔導、学術まで博士号を幾つも取っているほど優秀なんです。ただ」
「ただ?」
「ヘタレなんです」
アナベルはその件に関して激しく同意した。
今回も目を通していただき、誠にありがとうございます。お時間頂戴しております、誠に感謝申し上げます。




