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第7ターン④

 夜の帳が下り、もう一度、霊廟の衛兵の詰所で待機することにした。


 アナベルは学術師のセリフを詰所の中から、かがり火を眺めながら思い返していた。


                   ☆


「多分この呪符は、逆止弁の働きを想定している物でしょう。」

「逆止弁?」

 アナベルは学術師に聞き返した。


「そうです、確かこの呪符は大王の霊廟の裏門に貼ってあったと聞いています、裏門、言い換えれば鬼門、悪霊や悪鬼が入りやすい所。」


 簡単に図を描いて説明してくれた。霊廟の図の表門と裏門と呼ばれる鬼門を簡単に書いて。


「この鬼門からは風水的に悪霊悪鬼、が入りやすい、だがこの国の魔導学術的な施しをしているので問題は無いはずです。


 ですが、人の想いは全く別に有ります。死者を弔う人の思いが強いのです。


 大切な人を自分の大事にしている方法で、弔ってあげたい。そういった思いからでしょう。悪霊悪鬼の侵入を妨げ、バルハラに行き易いように弔う。

 多分、亡くなった方への並々ならない思いがひしひしと感じられます。


 決して、マイナスな思いでされている事では無いと推察されます。」


                   ☆


 あの、不審者が入って来た時刻に、もう一度アナベルはコリーナ霧島、ミーナ神楽を連れて霊廟を回ってみた。


 前回騒動があった同じ時刻。


 玉砂利を踏む音が、静かな霊廟の辺りの静寂に足跡を付けるように響いた。

 裏門付近に差しかかった。

 刹那、人影が、音もなくスッと裏門の方に動くのが見えた。

 が、その人影がどういった行動に出るのか、注視したままにして置いた。


 門の所で人影は止まり、門扉に手を伸ばし、暗くて見にくいが、細工作業をしている様に見えた。


 その作業が終わったのか、その門扉から離れ、暫くた何やら言葉を発していた。


 呪詛の類をわが父の霊廟に放つとは何ごと。

と、アナベルは飛び出し、コリーナ霧島、ミーナ神楽は打合せした通り、人影が逃げる退路を塞ぐように行く手を阻んだ。


 アナベルは、囲まれたことを悟り、次の行動をどうするかと思いあぐねているであろうその人影に言葉を発した。

「わが父の霊廟に悪戯をせしもの、神妙にするように、事と次第によっては、厳罰に処すことも覚悟してください。」

 同時にその人影を松明で灯りを近づけ、

「手荒な真似はしたくない、顔を改めるためその外套をお取りなさい。」

 そうあくまでも、亡き父を地獄に落とす行動では無いという事を学術師から聞いたが故の物言いだった。


 女、女性?


 フード、外套を空高く脱ぎ捨てるとそこには、年上の女性の顔が現れた、が、年上ではあるが息を飲むほどの美女であった。


 その時であれば一世を風靡したであろう、それ位の気品あふれた女性だった。


 次の瞬間、逆にこの場では全くと言っていいほど場違いなことがこの霊廟の裏門で起こっていた。

 こんな美人さんがなぜ?

 ごめんなさい。

 先に声を発したのはその美人だった。

 まだ、舞い上がったフードは落ちてこない。

 気が付くと、その美人は間合いを瞬時に縮めにきた。

 得物を持っているわけでもない。


 拳だ。


 低い攻撃態勢体勢から、拳を放とうとしている、拳の後は肘打ち、低い位置からの後ろ回し蹴り。

 その軌跡がアナベルの頭に浮かんだ。


 その時間は、コリーナ霧島、ミーナ神楽が身動き取れないほどの瞬時であった。


 アナベルはその美人に懐深く入られて、バックステップを取り間合いを近づけなくしたつもりだった。

 その本能の行動の時間は、両足の筋肉が瞬間の収縮、拡張を脳髄から指令を受けそれを実行するまでの時間。

 その時間の間、あの、元のセカイでボクシングジムでの階級が二個も三個も上のライバルと、おおよそストレス発散とはその範囲を完全に超えている位の練習を思い起こさせた。


 その時の会長のアイパッチの奥に思い描いた世界チャンピオンの光景が嫌というほど分かりすぎるくらいわかっていた。

 その所為もあって、同じジムではもう練習相手がいない位だった。


 刹那にその回想が終わる頃、アナベルの打ち下ろしの、右ストレートがその美人顔面を捕らえた。

 か、に見えたが。

 その美人は右手と左手クロスする、十字ブロックで、右ストレートをガードした。


 衝撃波が辺りに響き木々を震わせた。


 ガクンとその美人は片膝を地面について、暫く動けないでいた。

 その間隙に、アナベルは間合いを十分取れるエリアまで退いた。


 瞬間の出来事に、御庭番と呼ばれる精鋭をもってしてもコリーナ霧島、ミーナ神楽二人は身動き一つできなかった。


 片膝を付いたままその美人は、身動き一つせず十字ブロックでガードした奥から清々しい、それでいて、悔しさがにじみ出ている微妙な物言いで、

「この軍神と呼ばれた私に片膝を付けさせるとは。

 そんな者がこのセカイにいるとは。

 いや、この王墓の隣で眠っている皇后だけでした。」


 そう言うと、落ちてきたフード、外套を拾い上げ。


「何卒お願いがあります。あと一日、あと一日で満願成就します、決して愚弄したり、汚したりしているわけではありません。

 何卒、どうか訳も聞かないであと一日お願いいたします。

 あす、満願成就いたしましたら、訳はお話させていただきます。」


 懇願し、やがて涙で訴えられたら、どうしようもなかった。


「分かりました。」

 アナベルが言うとコリーナ霧島、ミーナ神楽は、

「アナベルは様よろしいので。」

「壊したり汚したりしてるわけでもないし、明日も来ると言っている、明日訳を聞いてからでも遅くないと。

 それに、あの拳は嘘は行って無いように思うの。」

 とアナベルはこぶしを握り締め言った。


 コリーナ霧島、ミーナ神楽は顔を見合わせた。


いつも目を通していただき、誠にありがとうございます。お力賜わります。

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