第6ターン④
アナタ転生者ね。
義母に呼び止められ、思わず固まってしまった。
あの歌のこと思い出したの、あのフレーズはこのセカイでは絶対存在しない物、古の伝説の歌だってひいおばあ様から聞いたことがあるの、あの歌は・・・・。
あの大臣の反乱騒動から明けた日、執務室に向かおうとした廊下で義母に呼び止められ、そうアナベルに投げかけた言葉だった。
当の反乱を企てた大臣は、あのどさくさの内にどこかに姿をくらまし、ようとして知れずじまいだった。
そもそも、アナベルを陥れようとした張本人の義母と、義姉がしれッとこうやって、何ごとも無く振舞っているのもいかがなものかと思っているが、そこはふてぶてしいどころか、逆に振り切ってて清々しいと内心思っている。
セリフの続きを言おうとした言葉を遮るように、
義姉が。
アナタ、またあの花束が届いてよ!ロビーが花で埋まってしまって、何とかして頂戴!そして、今度も産業地域の貴族からテレビジョンが届いてるわ、何でも最新型と言って、広間に備え付け出してるし、諸侯連合国、親王クルト・フォン・ルードリッヒ令息。が妹君ターニャ・シュルツェ・ルードリッヒ様の件で大変世話になったって、今迎賓館にお越しよ!もう!なんであんたばっかりなのよ!
そう言って自慢のバストをこれ見よがしにブルンと一振りしてドレスを翻し、踵を返し大股で出て行ってしまった。
何か言おうとして、立ち止まっていた義母をそこに残し、アナベルは軽く会釈をして、その場を後にした。
今は仕方ないと、義母は諦め顔を隠せなかった。
確かにロビーには花が敷き詰められていた。
今度は花束だけでなく送り主の貴族盟約国、第一後継者ハンス・オーゲン・ユルゲンス侯爵子息がそこに立っている。
義姉はそんなこと言っていなかったのに、とアナベルが思うよりも早く、彼は近づきそれがあたかも自然だと言わんばかりに、彼女の両手を取り、ぐっと近付け言った。
ああ、やっとお会いできた、中々国を出てお忍びで来るのに苦労致しました。貴女のことは一日も忘れることは出来ません、あの愛の拳が私の愛に火を着けたのです、愛の炎は消えることはありません。
そう言って、端正な顔立ちの少しウェーブのかかった髪の毛が揺れ、整った鼻筋がそこまで迫って来た。
ちょちょちょっとお!
とアナベルが仰け反りながらそのイケメンが迫ってくるのを避けていると。
君!ご婦人が嫌がっているではないかやめたまえ!
そう声をかけたのは迎賓館待っていても、なかなか来ないのでしびれを切らし、彼からやって来た、
諸侯連合国、親王クルト・フォン・ルードリッヒ令息。
サーベルを歩く度気品漂い鳴らしながら勲章を右の胸、左の胸に綺羅と輝かし、
マントを翻し足早にアナベルに近付いてきた。両手を握っているユルゲンス侯爵子息の束縛を振りほどき、
今度はルードリッヒ令息がその選手を交代した。
グッと長いまつ毛が触れんばかりに近寄り、
我が妹が大変世話になった、ぜひ貴女には我が国に国賓として来ていただき、おもてなしをしたい。
これは妹だけでなく私の願いでもある、私はあなたを一目見た時から・・・・。
そこまで言うと、遠くから、私のテレビジョンは気に入ってもらえたでしょうか!と、声をかける者がいた、
あの肉ダルマだった産業地帯の貴族、見違えるようにロマンスグレーの端正な顔立ちと均整の取れた体格のイケオジはまるで別人。
ツカツカと近寄って来たその所作は、二人のイケメン令息に負けるとも劣らなかった。
今度この国を挙げた歌謡祭があると聞き、このテレビジョンでこの国中に貴女の歌声が響きますよう、あなたの為に心血を注いでおります。
今はこのような方々に構っている暇は無いと、この国にはもう、貴女は無くてはならない存在です、もちろんこの私にとっても。
と、ルードリッヒ令息の間に割って入って来た。
姫!
そう言って後ろから声をかけて来るものがいた。
顔を真っ赤にしたヴァルだった。
ヴァル君!
そう言って、彼の顔を見てアナベルはホッとした。
いきなりイケメン男性三人に取り囲まれどうしたらいいか分からなかったところに、彼がナイトさながらに声をかけてくれたことに心底ほっとした彼女がいた。
三人の男性に比べ年齢的にぐっと下がっている彼は、彼等と見比べると少年のように思えるくらいだったが、それにも気おされず、ヴァルは三人に言った。
アナベル様は執務で大変お忙しゅうございます、お会いになるのでしたら正式に外交ルートにてお申し出ください。今はこれまで、失礼いたします。
と、アナベルの手を取りその場を離れようとした。
アナベルを引っ張る手はとっても熱く、引っ張られながらヴァルの後ろ姿を見ていると、とても逞しく思え、なぜか胸がキュッとなった。
そんな自分に驚いていた。
あの時の事が頭を過ぎり、アナベルも自然顔が真赤になっていた。
年の離れた、姉弟くらいの年が離れているはずなのに、と後姿を見ながら引っ張られて執務室に向かう彼を見ながら思っていた。
騒がしい執務室に入ると、今後の予定が目白押しと言わんばかりだった。
目下の予定としては、ラプス王朝国、後継第一位アントン・ゲオルク・ラプスとその弟後継第二位のユルゲン・ゲオルク・ラプスの訪問と、歌謡祭の準備の事と、逃げ出して消息がつかめなかった反乱大臣のその後の事だった。
詳細は分からないが何やらきな臭い情報が入ってきていると、御庭番衆の報告が付け加えられていた。
ターンは次に向かっていた。
拙作に目を通していただき、大変感謝いたしております。




