第6ターン➁
バラバラと兵士達が、入り口のあらゆるところから出てきた。
断罪最中のこの玉座の間にいる人々はその武装した兵士を見て、驚き恐怖しながら、入れ違いに叫び声を上げながら、逃げ出した。
兵士の目的はその場にいる人間ではなく、アナベルと、義母マリアとエリザベート義姉だから特に遮る事も無く逃げるに任せていた。
断罪官がいつの間にかいなくなり、口上は途中で終わっていた。
義母と義姉を取り囲んでいる兵士たちは物騒な剣や、槍、ボウガンなどで武装している。
二人は手を取り合って、身を寄せ合いながら何やら兵士に向かって叫んでいる。
わらわにそんな物騒な物を向けるとは何事ですか!
と、食って掛かっていた。
相変わらずどんな状況でも威勢がいい義母だった。
アナベルは視線を断罪官の居た方に向けると、そこにはいつの間にか大臣が数人立っていた。
断罪官の場所を陣取り今度はその場所で大臣たちが、大声でアナベルと、義母、義姉に向かって言った。
アナベルさま、否、自治都市連合国、代表補佐アナベル・ド・へーニング令嬢、貴殿の度重なる強権によって我々貴族がどんなに苦しい目にあっているかご存じか?
そしてそこの、エリザベート令嬢とマリア未亡人。
あなた達は政治に目もくれることなく、己の身の保身ばかりを乞い、自分の娘であるアナベル代表補佐を追い落とす事ばかりを企み、賄賂をもってして、断罪を捏造し、我々貴族の窮状に便乗した。
続けて言った。
我々の窮状を利用し、アナベル様を追い落とそうとするその企みを利用させていただいた、この国をまた元通りの貴族優先の国に戻させていただきます。
手荒な真似はしませぬ、
一呼吸置いて。
せぬが苦しむことの無い断頭台に向かうがいい、なあに一瞬です。
いやーなんで、なんで。
触らないでよ!
アナタ、力を貸すって言ったじゃない!
騙したわね!
義母と、義姉は、代わるがわる喚きながら、近づく兵士に抗っていた。
その状況を見たアナベルは、元いた世界のある場面を思い出した。
ある晩、飲み会があった。
気の合う女子連中と、ブラック会社であった事の愚痴の言い合い、気分がハレバレしたところ、時間が遅かったのが悪かったのだろう。
見るからに近づきたくない、酔っ払いの男連中がナンパを装って、触ってきたり、大声で近づいてきたりと絡んできて、同僚が必死に抵抗するのを見て、怒りが限界を超た。
いい加減にしろ!
と、一喝した瞬間、彼女の拳が唸り次の瞬間には男共は地面に這いつくばっていた。
ボクシングのジムに通い、数年が経っていた頃の出来事だった。
ブラックでのストレス発散のために始めたボクシング。
ある時アイパッチをしたジムの会長から、どうでぃ、一緒に女子ボクシングの世界を取らねえかい!お前さんとなら世界を獲れるぜ!
と、言われていたほどの頃だった。
その時の事が脳裏によみがえり、アナベルの拳にグッと、力が入った。
次の瞬間には滑るようなステップで、義母、義姉の手を掴もうとする兵士の側面に、息もあたるかというほどの距離まで、あっという間で近づき、知らない間に、ひとりが床に沈んだ。
かと思うと、もう一人は仰向けに吹き飛び、また一人近づくアナベルに対し構えをとる間もなく兵士は次々と、床に沈んでいった。
壁に激突しそのまま動かなくなるもの、仰向けにひっくり返る者と。
あっという間に、義母と義姉の周りの兵士は、全て床と一体化していた。
義姉と義母はアナベルに抱きつかんばかりに喜び、今まで聞いたことのない賛辞をベラベラと投げかけていた。
まだ終わった訳では無い。
アナベルはファイティングポーズを解くことなく、二人の前に立っていた。
その後ろにはミーナ神楽、コリーナ霧島が両手に短刀を構え後ろ盾となっていた。
キッ、と大臣たちの方を睨みアナベルは言った。
あなた達、何故わが父が王の名を名乗らず自治都市連合国、代表と名乗ったか、知っているか!
それは、民と一緒にこの国を作ろうとした父の決意の表れだ!
この長い戦乱を小国でありながら、何とか生き延びここまでやってこれたのは、民を支配する王ではなく、一緒に作る仲間の代表でありたいと思う願いからだ。
貴族とか、特権階級を無くし今こそ力を合わせみんなで作り上げていこうと言う父の思い、そして願い。
それを知っての狼藉か!
大臣は狂ったように喚き出した。
うるさい!うるさい!我々は民の事などどうでもよいのだ、我々の生活を元に戻すのだ。そのために我々は立ち上がったのだ!
貴族の国を取り戻すのだ。
大臣たちは口々に喚いていた。
もう、まどろこしいのは終わりだ、始末してしまえ!
一斉に兵たちは飛びかかって来た。
が、アナベルの感覚では、飛びかかってきている兵たちの動きが緩慢すぎて、全て彼女の拳の餌食になっていった。
不思議な感覚だった。
みるみる辺りは床に這いつくばる兵士で埋め尽くされていった。
それを見かねた大臣の一人が兵士に合図した。
風を切る音がアナベルに近付いた。
ボウガンの矢が数発、アナベルを餌食にしようと迫っていた。
刹那、彼女に向かうそれを黒い影が、体を挺して遮った。
矢の肉を切り裂く鈍い音がアナベルと、周りの義母やメイドたちの耳に鈍く響いた。
黒い影の正体。
ヴァル君!
アナベルは叫んでいた。
目を通していただき、恐縮至極です。




