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光の航路 ―君がくれた空の色―  作者: tommynya


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第3話 特別な時間

 数日後から、麗華さんの嫌がらせが始まった。


 体育の着替えが見当たらなくなったり、ロッカーに「先生に近づくな」という手紙が入っていたり、教科書に「努力バカ」という落書きがされていたり……。ひとつひとつは小さなことかもしれない。でも積み重なるたびに、心がじわじわと削られていく。


 救いなのは、いつも蒼がいち早く気づいて、味方でいてくれたことだ。


「気にするなよ。あいつは嫉妬しているだけだ」


 その言葉に、どうにか笑顔を取り戻す。口には出さなかったけれど、蒼がいなかったら折れていたかもしれない。麗華さんは、同じ夢を持ち、好きな人も同じという私が気に入らないのだろう。私の存在はライバルにも満たないはずなのに……。


 そんな嫌がらせが続くある日、職員室に集めたプリントを届けに行くと、湊先生に声をかけられた。


「和泉さん、ちょうどよかった。英語特別講座の手伝いを頼みたいんだけど、やってみる? 君の英語力なら、他の生徒たちの力になれるよ」


 頬が熱くなる。英語特別講座は、県内の進学校から選ばれた生徒だけが集まる難関プログラムだと聞いていて、私が選ばれるなんて思ってもみなかったから。


「はい! ぜひ!」


 嬉しくて声が弾む。


「よかった。期待してるよ」


 先生の表情を見ると、喜んでくれてるみたいだ。


 ◇


 講座は毎週日曜に行われ、最初の二回は緊張しながらも無事にやり遂げた。


 三回目の当日、図書館の入口で参加者を待っていたけど、約束の時間になっても誰も来ない……。時間間違えたのかな? とスマホをチェックしようとした時、湊先生が現れた。


「あれ? 皆さん、来られないんですか?」


「実は、今日は休講になったんだ。図書館の機材トラブルで、今朝、急に臨時休業になって……連絡したはずだけど、届かなかった?」


 スマホを確認すると、画面が真っ暗だ。早めに家を出て、カフェで予習してたから気づかなかった……。返信しなかったから、心配して来てくれたんだな。


「あっ、充電切れてたみたいです……」


「すまない。二人だと気まずいよね? 今日は帰ってくれていいよ」


 申し訳なさそうな先生の表情を見て――勇気を出すことにした。こんなチャンス二度とないかもしれないから。


「せっかくなので、少し勉強を見ていただけませんか? CAの試験に向けて頑張ってるんです」


 先生の表情がぱっと明るくなった。


「もちろん。じゃあ近くのカフェに行こうか」


 二人で近くのカフェに向かうことになる。予想外の展開に胸の高鳴りが止まらない。これってデートみたいじゃん……夢みたいだ。


 店内に入ると、窓側の二人席が丁度空いていてソファに腰掛けた。


 好物のイチゴミルクを飲みながら先生を観察する。私服の先生は学校で見る先生よりも若く見えた。スーツじゃないのもあるけど、今回は完全にオフモードだ。講座も休みだからか、髪もノーセットで前髪が自然に下りてて、ちょっと可愛らしい……。


 こんな先生の姿を見られるのは私だけかもしれない……と謎の優越感が沸き起こる。

 先生ってやっぱり、彼女いるのかな……なんてぼんやりと考えたりもして。


「和泉さん、大丈夫? 聞いてなかったでしょ」


 ヤバい……見とれてたのがバレたかも。


「すいません! 聞いてませんでした!」


「ハハハ、正直だな。次のページからやるよ」


 元気に「はい!」と返事して、先生の個人レッスンを受ける。

 英語試験についての知識が豊富で、的確なアドバイスをくれる。こんなふうに、私のためだけに時間を使ってもらっていいのだろうか、とそわそわしてしまう。


「君の発音は良くなってきてるよ。あとは自信を持って話すことだね」


「ありがとうございます。実は機内アナウンスの練習もしているんです」


「へえ、聞かせてよ」


 恥ずかしさを押し殺して、小さな声で披露する。


「“Ladies and gentlemen, welcome aboard Flight 123……”」

(訳)(皆さま、123便にご搭乗ありがとうございます…)


「すごくいいね。もっと自信を持って、堂々と話せば完璧だよ」


 練習を続けていると、「口の形がとても大事だよ」と言いながら、先生が私の唇に指を近づけた。


 触れそうで、触れない、ギリギリのところまで来て――息が止まった。

 脈の音が耳元まで聞こえそうで、緊張で身体が硬直する。


「……近すぎた、ごめん」


 先生が慌てて目を逸らしたから私も俯く。どちらも何も言えないまま、しばらくの沈黙が流れた。これは、もうダメかも……意識するなって言われても無理。


 その後、気を取り直した先生は、何事もなかったように練習と会話を続けた。


「君と話すと、つい時間を忘れてしまうよ……。いや、ごめん……生徒にこんなこと言うべきじゃないな……」


 様子が変だったけど、私は何も返せず目を伏せて、唇を噛んだ。二人の間には、言葉では説明出来ない、淡い桜色の禁断の空気が漂っている気がした。


 この日を切っ掛けに、先生への気持ちがさらに深くなっていく。もう……この気持ちは止められないんだと気づいた。


 カフェを出て、並木道を歩いていると、先生が「星、見えるね」と空を指さす。見上げると、まだ薄明るい空に一番星がひとつ、静かに輝いていた。


「CAになったら、星の名前も覚えておくといいよ。機内から見える星座の話をすると、乗客も喜ぶから」


「はい」


 この時間が永遠に続けばいいのに――そう願わずにはいられなかった。


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