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紙の町の魔女  作者: 倉沢トモエ


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薬包紙と金平糖(八)


 第八話 赤い鳥と娘


 あくる朝、娘は覆いを付けた鳥籠を持って魔女を訪ね、いきさつを話して薬の処方を頼んだ。

「まあまあ、よくこの鳥を見つけたこと」

 魔女は驚いて見せ、魔物に効く傷薬を調合した。

「だって、こんな怪我をしていたら、ほっておけないわ」

「相変わらずの、よい心がけだ」

 先日、学友と店を訪れた時とは様子が違っていて、魔女も安堵した。この明るさがまさに昨夜、彼女自身を救ったのだ。


「お前さんも、難儀なことだね」

「……」

 炎の鳥は、なぜか魔女を相手に言葉を話さなかった。

「魔物の時は長い。それだけ追われる時も長いということさ」

 狂恋の末に呪いを振りまいたその咎で生まれた炎の鳥。

 かれらは翼を切られ呪いの祭壇に備えられれば、地獄に落ちて死者の列に加えられることもなく、この地上にそのまま置かれさらなる報いが待っている。鳥を増やした咎が加わるのだ。

()()()()()()()()

「……」

「逃げなければ、大変よ。翼を切られるんですもの。

 昨夜も悪い夢を見たみたい。かわいそうに」

 娘は鳥を励ますように言うのだった。


「そう。包帯の巻き方がうまいね」

 一通りこの薬の扱い方を娘は覚えた。

「ああよかった。

 父さんも母さんも喜ぶわ」

「これからどうするのかい」

「怪我が治ったら、この鳥が飛び立ちたいようなときに、森へ行って放す約束なの」

「だいぶ仲良くなったようだね」

「そうなの。絵も描いたわ」

 言って娘は、鞄から画帳を出した。


 * *


 早朝の森である。

 赤毛の娘が歩いていた。

 手に鳥籠はなく、肩の上に赤い鳥がとまっている。

「こっちが、秘密の道なの」

 森に行くときには道のそばから遠くへは行かぬように、という言いつけではあったが、娘とてそういつまでも言われた通りに守り続けるような歳でもなかったのだ。子供たちの間だけで使われている道がある。

「世話になったね」

「気を付けてね」

 魔女の店を訪ねた日から五日ほどで怪我は治り、それからさらに数日、鳥は娘の家で過ごした。

 娘と娘の両親が学校と工場、それぞれ外に出ているあいだ、鳥は体を休め、好きなだけ陽を浴びてさまざまなことを思うことができた。


「なんにせよ、これ以上やっかいになっていては、また誰かが翼を切りに来る」

 居心地がよいからといって、長居をするわけにはいかないのだった。

「ううん。記念の絵ができたもの。時々見て思い出すわ」

 包帯を巻かれながらも気取った顔の炎の鳥の絵は、魔女が気に入り、店の勘定場に飾られた。治療中の姿は、薬屋にちょうどよい、とのことである。

「あたしはこれから、どこまでも逃げなければならないさだめなのさ」

 娘が渡す金平糖をついばんで、鳥は言った。

「あんたも、絵に精進するんだよ」

「ええ。おかげでまた、手が動くようになったもの」

 木々が風でざわめき、日差しはやわらかかった。

 赤い鳥が飛び立って、娘はいつまでも空をあおいで手を振っていた。



 

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