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紙の町の魔女  作者: 倉沢トモエ


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薬包紙と金平糖(七)


 第七話 報い


「これは。

 先ほどはどうも間が悪く」

 マッチ棒を落とし踏みつけたのは、昼間魔女を訪ねてきた黒衣の男であった。

「また、ろくでもない依頼を受けたようだね」

「ご婦人のご依頼は、どうもお断りしづらいものでして」

「鳥と心臓」

 魔女の言葉に、男は眉一つ動かさない。相変わらず朴訥な風体で、微笑んでいるようにさえ見える。

「どちらも揃えて届けるように、とのご依頼でした」

「あいにくこの町では、それらは揃わぬよ」

「ええ、どうもそのようです」

 案外あっさりと男は言った。


「あの鳥も、あの娘も、見たところどちらも使い物にならぬようです。

 鳥の方は、自分の昔の狂恋を封じているようですし、娘も絵に精進しようと画帳を構えている。しかもそれは恋敵のためにでもある。考えられない。

 あれではね、ご期待に応えられるしろものではない」

 魔女の前ではこの男、見た目からはうかがえない酷薄さを隠そうとしないのだった。

 魔女とても、男に対する嫌悪を隠すことはしない。

「なぜ、わざわざ店を訪ねてきたのだね」

「せっかくこの町を訪れましたので、同業のよしみでご挨拶を、と、考えたのですが……」

「同業、とは、おあいにく様だね。今後はそのような気遣いは無用だよ」

 そのとき、夜鳥が音もなく飛んできて、男の肩に止まり、何事かを告げて去った。


 男はしばらく黙っていたが、やがて拍子抜けした顔で言った。

「ご依頼が無効となりました。

 ご依頼主が、亡くなられたそうで」


「もともとご病気が重く、何年も床に就いたままだったのです」

 病んだ身体を忘れられるような恋の相手に、手ひどく裏切られたのだという。

 最初から財産目当てで仕組まれていたのであった。

「依頼人は死の床で、そればかりを望んでおられました。炎の鳥と、心臓と、それらを揃えて裏切り者に罰を与えることを」

「それより、そのような恨みごとは捨て、最期の時まで安らかな心地とすることを考えた方がよかったのではないかね」

「しかしながら、それを望まれませんでした。

 最期まで望み通りに。それに力を貸すこともまた、われらのような者のつとめでは」

 男は真顔なのだ。


「ただ、吉報もありました。

 ご依頼人もまた、あの炎の鳥に変じたと」

 呪いのために炎の鳥を求めた者のうち、儀式を行った者、行わずとも最期の瞬間までその怨みで身を焦がした者は、その報いで死後に炎の鳥となるのであった。

「一羽ですが鳥を増やすことができ、()()()()()()()()()()()()()()

「立ち去るがよい」

 魔女が右手を上げると大気の精霊が集まり、小さないかずちが男めがけて落ちた。

 が、あとに姿はなく、一撃を受けながらもこの場から逃れたと察された。


 彼が立っていたあとに散らばっているものがあった。

 あの、薬包紙に包まれた金平糖だった。


 * *


 その夜ふけ、締めつけられるような小さな啼き声が、あちらこちらの町で聞かれた。

 これ以上鳥を増やさぬよう、儀式から逃げつづけている炎の鳥たちが、にもかかわらず新しい鳥が生まれたことを夢で告げられ、みな絶望したのである。


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