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【オリジナルタイBL小説】HOTEL HEAVENLY  作者: ノブナガ・トーキョー
【第四話 罪と裏切り】
33/74

4−10ロムダーオ


秘密の砂浜から見える水平線から、ぽっかりと浮かぶ月がムーンリバーを海に描いていた。一際大きく見える今日の月はスーパームーンで、月明かりを浴びる二人の視線が絡み合う頃、ロムの理性はアキレス腱が切れる様に勢いよく音を立てて切れてしまったのだった。

原付バイクから強引に降りた二人は転げるように砂浜に向かう。ダーオの腕を強引に掴んだロムの背中が怒っていた。

海の水がロムのくるぶしを冷やし、やっとダーオに向かい合ったロムはダーオの肩を強く押してしまった。ロムがそんな嗜虐的な気分になるのは初めてだ。果たしてこれを嗜虐、と言っていいものか。とにかくダーオを叱責せねば気が済まない。怒鳴り散らしてしまいたい。叫び散らしてしまいたい。この苦しいほどの怒りは月の光がロムを狂わしたのか、或るいは。


「馬鹿か!!お前も!!スカイも!!」


渾身の力で怒鳴ることなど初めてのロムだ。無口で無愛想、それがロムなのだ。激昂する思いに喉が追いつかず、がなり立てた言葉が咽頭を傷付けてギスギスと痛みを伴った。

しかしダーオは酔った頭で戸惑うばかりだった。ロムの怒りの矛先の正体を捉えきれないでいる。


「あ…スカイはだから抱えてる物が」

「抱えてる物があれば何をしても良いのか!?お前の身を危険に晒して!?」

「仕事が」

「仕事が理由ならお前が襲われてもいいのか!?違うだろう!!」

「…おっ俺は大丈夫だ、ちゃんと逃げられる」


ロムの限界は早々に来てしまう。これはダーオが悪い。「逃げられる」?一体、どの口が。怒りのあまり、ロムは一瞬ばかり口籠もってしまう。


「…おッ…ッ‼︎逃げられなかったから俺に助けられたんだろ‼」

「おッ男だよ、俺だって…そんなまんまとヤられる様な真似は」


ロムがダーオの言葉を最後まで言わせずに唇を塞いでしまったのはもうこれ以上噛み合わない会話を続けていたくなかったからだった。こんなにダーオを理解できない夜もない。うんざりだ、反吐が出る。ダーオがスカイを庇うその口など必要ない。もう喋らなくていい。何も聞きたくはないから黙って欲しい。


「ッ…ン」


ダーオの吐息は余計にロムの熱を煽るのだ。

ダーオは酷い。今日までロムが抱える一切の感情に気付かずにのうのうと生きて来た。

ロムに与えられた深いキスは二人の粘膜を絡め、その境界を朧げにした。ロムのキスに応じる動きをしたかった訳では無いダーオだが、あまりにロムが必死で切羽詰まったキスをするものだから呼応せざるを得なかった。

ロムに圧されるままに自重を支えきれぬダーオは海の波に足をすくわれてその場に転んでしまう。波打ち際の浅瀬に水飛沫が上がり二人は潮まみれだ。それでもロムはダーオの唇を離す事が出来なかったのだ。



【ロムとダーオの同意なき接合を読まれたい方は、当方TwitterもしくはPixivにDM下さい。

そこまで長くはなりません。短い文章です。ロムは無理矢理ダーオと繋がります。】




肩で息をする二人を波が労う。

月はロムの罪を、星はダーオの裏切りを見つめていた。



「…おい、ロム…」

「…」


ダーオの声でそっと身体を引き剥がすロムは無言でダーオの横に仰向けになる。満天の星空が視界いっぱいに映り込む。夜の海の波打ち際に寝そべる二人は互いに今しがた起こった出来事をどう判断して良いか分からないでいた。この身体の使い方は果たして正解だったのか、二人に答えは出せないままだ。


「どうすんだよ、これ…洒落になんねーよ…」


たった今、二人はセックスをした。

この行為に意味はあっただろうか。愛はあっただろうか。


「…お前さ、さっき俺とスカイの事を馬鹿だって言ったよな…」

「…」


ロムは返事が出来なかった。


「…なぁ、言ったよな?」


ダーオは怒気を含んだ声で再度同じ事を言った。

しかしロムはダーオの怒りよりも、ダーオが『俺とスカイ』と言った事実の方が辛い。

ダーオはスカイの物だ。体を繋げても尚自分のものにはなってくれない。ロムの心の内にどんなに愛があったとて、それをダーオが受け取ってくれなければそれはただの理不尽な我儘であり、押し付けだ。思い通りにいかない、それが人の心というものだ。


「…馬鹿はどっちだ!!バカ!!」


声を荒げたダーオは身体の痛みを庇う様に立ちあがると、所々伸びてしまったハーネスを脱いで裸になる。ロムの原付バイクに入っている自分の荷物を取るとそのまま歩いて自宅まで帰ってしまった。中途半端な衣装を着て帰ると万が一母親が起きていた時に言い訳が利かない。いっそ素っ裸で帰った方がまだ他の理由で言い逃れできる。帰り途中で飲みすぎて服に吐いたとか、そんな理由を並べればいい。絶対に誰ともすれ違わないと確信出来る程にはこの土地が田舎だから出来る行為である。たとえ今夜がフルムーンパーティ当日であっても、誰もこんな場所までは来るはずもない。

その場に残されたロムはダーオの後ろ姿を眺めるのみだった。ダーオを追い掛けられる筈もない。そんな資格もないし、幼馴染のダーオのあそこまでの剣幕をロムは初めて見た。


「…クソッ…」


ロムもまた戸惑う。自分の感情にここまで振り回された経験が無い。ロムにとってダーオは支えるべき存在であり、恋人になりたいという「好き」と言う感情の内訳はダーオの笑顔を見たいからであった。ダーオが笑顔でいられるのなら、確実にダーオを幸せにしてくれるのなら、最悪な気分ではあるが…スカイでも良かったと思おうとしていたではないか。


(…でも結局は詭弁だった。…ダーオの笑顔を壊したのは俺だ…)


スカイの影にすら勝てないロムは骨の髄まで哀れな負け犬だ。



ダーオの母は幸い既に就寝していた。

体中が潮っぽい。シャワーを浴びてしまわねば、この身体にねばつく汗と海とロムの香りを流せなかった。

ドロリとした感触が下半身を伝う。


「…クソ!」


恋人同士であっても気を遣うべき問題だ。


(まじかよあいつ、中に…!!)


慌ててシャワールームに駆け込むダーオは、砂まみれの髪の毛を洗いながらロムを恨んだ。


(ありえねぇ…ありえねぇよ…!)


下半身に感じる鈍痛が懐かしい。初めてスカイとそう言う行為をした時に感じた鈍痛だ。


(これって…スカイに対する裏切り、だよな…)


ダーオの心に罪悪感という暗雲が立ち込める。

ロムが悪い。けれど、ダーオも悪い。

ロムはスタッフに襲われかけていたダーオを助けてくれた。ダーオはロムに助けられていなければそこら辺の男にやられていた。結果論として相手はロムだっただけで、ダーオの隙は確実にあった。それは紛れも無い事実だ。


(…俺にも落ち度はあった…。ロムとの口論だって売り言葉に買い言葉ってやつだ…でも…)


言い合っていくうちに、最初は小さな怒りの感情が興奮と共に増幅してしまう。ロムが向けたダーオへの苛立ちも、今思えば心配からくる苛立ちであったのだろう。

ふと冷静になれた今ならばそう思える。

ダーオはロムに対しての怒りが薄まる自分を見つけた。半ば無理矢理の行為に腹は立っているが、不思議と嫌悪感は無かったのだ。それだけでも、ロムとダーオの罪は同罪だ。

ダーオの溜息はシャワーの音に掻き消される。

身体の汚れをすべて洗い流したダーオは身体を拭いて暗いリビングに佇む。開け放しの窓から聴こえる潮騒は穏やかで、先程のロムとの行為がまるで嘘の様だった。流れる潮風がダーオの頬を撫で、けれど星達の一つ一つはダーオを断罪するかのように瞬いていた。お前も悪い。そう言われているようで、ダーオは星達から目を背ける。

今夜、この纏まらない心境のままでは自己の罪を目の当たりにしたくはなかった。もう少し落ち着いてから全てを考えたい。ロムの事、スカイの事、スカイを裏切った自分の事…。


(ゲームでもしようか…)


たいしてハマってもいない、けれど時折暇な時間を見つけてやるオンラインゲーム。今は何も考えたくない。一度に沢山のことがこの身に降りかかり、考えるにはキャパオーバーだ。

ふと手に取ったセルフォンに来た着信はスカイからだった。


(…あ…)


しかしダーオはコールに応じることが出来なかった。

今は取り繕えない。先程あったことをまだ内心で咀嚼できていない。もしこの電話に出てしまえば、スカイに秘密を抱えて嘘をついてしまう事になる。セルフォンを持つ手に汗が滲んだ。ダーオはどうしても最後まで着信画面をスワイプする事が出来なかった。

ふと途切れた着信に安堵するダーオだが、暫くして受信したラインのポップアップ表示には、ダーオの身を案じるスカイからのメッセージの触りが表示された。


【ダーオ、大丈夫?帰っちゃった?ちゃんと帰れた?今日はちょっと忙しくてここを離れられないけど、明日また電話するね。寝ちゃったかな?起きてたら返事を頂戴】


スカイに心配をさせてしまっている事がダーオには心苦しかった。けれど、なんと言えば良い?

まさかロムとついさっき、一線を越えてしまっただなんて。


どの口がそれをスカイに告げられようか——



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