29. 自己犠牲の歌
「フィオ!」
「ソフィー!」
盟主と水の王の驚く声が聞こえた。
どうやら城の中に飛ばされたようだ。
リューったら、相変わらず容赦ないことをする。
「これは……いったい……?」
「フィオ!」
ソフィーは水の王に、私は盟主に抱き抱えられる。
その時、盟主は私の腕の紋様に気付き息を呑んだようだった。
「私は問題ないから離してギル」
「ソフィー……もう少し心配させてよ。」
冷たく怒るフリをするソフィーと、それを分かっていて宥めすかす水の王。
とても良い関係性が見えて、こんな時なのに微笑ましくなる。
「……水の王、もう少し……ちゃんと手綱を握ってください。とんでもない……無茶をしようと……していましたよ?」
盟主の腕の中からそう掠れ声で話しかけると、ソフィーはぎくりとして水の王から離れようとする。
「何をしようとしたのかな?」
笑顔が怖い。
「だって、ルーチェが頑固だから……」
「だから?」
「……」
「ちゃんと説明して?ソフィー?」
あれ?水の王って氷結の力もあったかな……?すっっっごく寒気がする。
「私のせいなので……怒らないで……ください。」
「そうよ。ルーチェが悪いんだから。」
プイッとするソフィーに苦笑し、水の王を見る。
「内輪のことに巻き込んで……申し訳なく……思います。」
「いや、それを言うなら最初に巻き込んだのはこちらの方です。それに、ソフィーの望みは私の望み。謝罪は不要です。むしろ申し訳ないと思うなら、もう少し自己犠牲の精神を抑えてください。……もしソフィーが今の貴女のような姿になったら、私は監禁して二度と外には出さないでしょうね。」
思わず両手で腕の紋章を隠す。
水の王は私に話しているようで、盟主に警告しているようだった。
「ちょっとギル、物騒な冗談を言わないで。」
「冗談なんかじゃないよ。君に恨まれても憎まれても、君を失うくらいなら精霊に言いつけて一緒に監禁しちゃうよ⭐︎」
「……。」
「いや……可愛く言っても……怖いですって……。」
思わずツッコミを入れてしまったが、愛し子への執着、愛し子至上主義の姿勢こそ、愛し子の盾となる王たる所以だと理解している。
「さて、風の愛し子もしばらく休養が必要だろうし、僕たちはお暇しようか。」
「えぇ……。その前に。」
ソフィーは私を腕に抱える盟主を見据えた。
「風の盟主。私は貴方が許せない。」
「ソフィー……」
「ルーチェは黙って。……貴方たちがしたことは正当化されているのかもしれない。正しいことをしたって思ってるのでしょう?でもその結果がこれよ!どうして精霊からルーチェを奪ったの?どうして国を壊したの?貴方はルーチェの」
「はーい、そこまで」
ソフィーの口を手で塞いだ水の王は穏やかに微笑んだ。
「無茶しようとしたってこういうことだったんだね。気持ちは分かるけど、自己犠牲はダメだって話をしたばかりでしょう?ダメだよソフィー?」
有無も言わせぬ雰囲気に、折れたのは水の愛し子の方だった。
少しだけ頷いた後、水の王の手を外し、静かに告げた。
「しばらくはルーチェを神殿に近づけさせないで。絶対に。」
私の身体を抱え込む盟主の腕に力が込められる。
「この命に代えても。」
深い決意に満ちた一言に、身体が震えた。
思った以上に重い言葉だったのか、水の愛し子はハッとした顔をしたが、少しだけ溜飲を下げたような様子で、自らの王を振り返り「帰る」と一言だけ溢した。
王が愛し子の肩をそっと抱き寄せると、足元に水の紋章が現れ、二人は水と共に消えた。




