ヒバカリ
大分開けてしまったな……
「……え?」
なんか突飛過ぎてなにがなんだか分からない。今凄い魔球を見たような……
「……決まった」
「決まったじゃねぇよ!なんだあれ、え?加奈がやったの?」
「……他に誰かいるの?」
「え?いや……」
信じられない……とても目で追えるような速度じゃなかった。ちょっと加奈の腕を触る。
「……セクハラ」
「筋肉はない……それなのにどうやってあんな速度が出せるんだよ」
「……それより、ドラッグストア着いたんでしょ?降ろして」
「あ、あぁ……」
加奈を降ろすと一人で店に入っていった。俺はアリの姿を見る。
俺がバットで割った額から、腹までとても綺麗な風穴が空いている。
「さすがに同情してやるよ」
気が付けば何人か人が集まってアリの写真を撮っている。
「これ、なんなんですか?なにがあったんですか!?」
「さあ……むしろ俺が聞きたいですよ」
加奈の手当てをして家まで帰ってきた。加奈とは、お互いの家族が帰ってくるまで一緒にいる事にした。
加奈は足怪我してるし、もしもの事があってはならないのでと決めた。
「しっかし、加奈があんな爆速ボールを投げれたとはな……」
「……意外?」
「ああ。お前プロになれるって。あのボールはプロでも打てねぇよ」
加奈は照れ隠しのように目を逸らして下を向く。
「……いろいろ投げれるよ。……カーブとかスライダーぐらいなら」
「なんで投げれるんだよ!練習してたの?」
「……ペンより重いもの……持ったことないから練習なんてしてない」
「どこのお嬢様だよ!嘘つくんじゃねぇ!」
ちなみに加奈の家は普通だ。団地にすんでるんだから当たり前だが。
「……それからね、私まだ出来ることあるよ」
「……まだあんのかよ……」
他愛のない話をして時間を潰していった。こんな状況でなければ、心から楽しかっただろう。
午後四時頃、まず加奈の携帯が鳴った。どうやら、今回のアリの巨大化だが、思ったより大事になっていた。
俺と加奈が学校から逃げて家に帰った後、学校は完全にアリに占拠されてしまったようだ。
それだけではなく、その周辺にもアリが現れて被害をもたらしたそうだ。
学校に残ってたみんなは大丈夫だろうか?ちゃんと逃げてればいいのだが。
俺の携帯にも連絡が来た。母さんは俺が無事だと分かると涙を流した。
加奈の親が帰ってきて加奈は帰っていった。俺の親もそれからそんなに経たずに帰ってきた。
帰ってくるなり抱き締められた。ちょっと力が強すぎる気もするが受け入れる。
「明日、避難所に行くよ。理由は分かってるね?」
頷いた。そりゃそうだ、こんな化け物だらけの町に住むのは無理だ。
母さんの話では、明日この町の全ての人を避難させるためバスが来るそうだ。その説明で早く帰りたくても帰れなかったらしい。
「とにかく無事で良かった」
母さんは何度も俺を抱き締めて泣いた。
明日はこの町から逃げる。なので荷物は必要最低限しか持っていかない。
「ゲームともお別れだな」
最後に全力で遊んでいこうと思ったのだが、明日は速いんだから寝ろと本気で怒られてしまった。
翌日。朝の五時頃に起こされて、避難所に向かうバス停まで車で移動した。
バス停はすでに人で一杯だ。警備員の人が誘導を忙しく行っている。
誘導で俺は後回しになった。先に女性や子供を乗せていくらしい。
人で一杯になったバスは出発する。それを何度か繰り返して俺もバスに乗った。
バスはまだ四車両ある。その全てで収まるかは分からない。
とにかく安全地帯に逃げ込める。その安堵からか眠たくなってきた。
ふと外が騒がしい。面倒だが目を開けると、胴体が車ほどで全長が10メートルはありそうな一匹の大蛇が這ってきていた。
外にはまだバスに乗り込めていない人達がたくさんいる。このままでは殺されてしまう。
「どうしろってんだ……」
だからなんだってんだ。俺には関係ない。間に合わなかったらその時だろう。運が悪かっただけだ。
「大体勝てるわけがないだろ……」
そうだ、戦っても勝てる保証なんてない。むしろやられる可能性の方が高い。
だから、仕方ないんだ……
「……」
だけど、その大蛇がこっちにも来たら?身動きを取れずに殺されるだけじゃないか?だったらいっそ……
バスが発進する。残ってる人には悪いが、俺は死にたくない……
大蛇が残っている人に襲いかかろうと口を大きく開ける。大蛇に見つめられている人は動けなくなっていた。
「……」
俺はバットを右手に持ってバスの窓を開けて飛び降りた。
バットを降り下ろして胴体を殴る。大蛇が口を閉じてこっちを向こうと顔を動かした。
そこを横からさらに殴り付ける。大蛇は一旦距離をとり俺を睨む。
俺は大蛇に睨まれて動けなくなっていた人を立たせる。
「早く立て!死にたくないなら、早くバスに乗れ!」
男性は、何度も頷いてバスに走っていった。
「全く……何やってんだかなぁ……」
油断しないようにバットを構えて大蛇を見据える。こうなってしまったら倒すしかない。俺は大蛇に向かってバットを振るう。




