逃走
え?なんでヤンデレが一番好きだって?それはな……え?聞いてない?……そうですか……
必死で足を動かして逃げる。
誰もいない。誰か後ろの化け物を何とかしてくれ。
廊下には何故か人がおらず、教室のカギは何故か閉まっている。
「くそっ!!なんだよ!!なんで開いてねぇんだよ!!」
いつもなら開いているに。まるでホラーゲームのようだ。
苛立ってドアを蹴る。鈍い痛みが現実だと伝える。
カチカチと、俺を殺しにきた死神の音が近くなる。
すぐに離れて階段を駆けあがり何処か身を隠す場所を探す。
掃除道具入れがある。汚いとは思うが仕方ない。飛び込んで扉を閉めて息を殺す。
下の階段から音が近づいてくる。俺を見失ったのか動きを止めて触覚を揺らす。
しばらく回りをうろうろしていたが、見つからずアリはここを離れていった。
「……行ったか」
掃除道具入れから出て廊下に座り込む息が切れ切れで心臓も激しく脈うつ。
「なんだったんだ、今の……」
新種?というか生物?なんで生徒が喰われてんだ……
「う……」
さっきみた光景を思い出して気分が悪くなる。
なんにせよ、ここにいると危険だ。さっさと帰った方がいい。
まだ怖いけど、無理矢理立ち上がって玄関に向かって歩いていく。
「……参ったな」
俺が来た方の玄関にはさっき見たあの巨大なアリが監視するように居座っていた。
「なんか、注意を引くものでも探してくるか」
このまま帰るのは諦めて、一旦あのアリをどうするか考える。
そういえば、屋上階段にはいろんなゴミ山があったはず。そこに使えそうな物があるかも知れない。
いつ襲ってくるかわからない恐怖を味わいながら階段をひたすら登る。
「思ったよりスッキリしてる」
前に見たときはもっとぐちゃぐちゃだった。体育祭で使われたであろう競技道具や、一昔前の机は乱雑に倒れており埃を被っていた。
今は机が端に寄せられており、色んな小道具はその上に乗せられている。
「探しやすくていいな。なんかあるか-―」
カチカチカチカチ
さっきの音が急に近づいてくる。さっきまで音なんて聴こえなかったのに、音は近くから聞こえた。
「マジかよ……屋上は開いてるか?」
階段を急いで登ってドアノブを捻ったが開かない。
「やっぱりな……」
巨大アリが階段の下の方に姿を表した。さっきの恐怖を思い出して呼吸が荒くなる。
アリがガサガサと足を動かして階段を上がる。
どうにかしなくては、だがアリの速度は先程より速く、すぐ目の前まで迫る。
アリが上半身を持ち上げ首もとに噛みつこうと顔を持ってくる。頑丈そうな顎だ。噛まれたら間違いなく無事では済まないだろう。
「どうにでもなれ!!」
俺はすぐ横の机の足を持ってアリを殴り飛ばす。
アリが下の方まで吹き飛ぶ。
持っていた机を投げつけ、近くにある物をとにかく投げつける。
色んな物がアリの上にのしかかり抜け出せなくなった。悔しそうに顎を鳴らす。
「ここで、殺しておかないと……」
今も怖い。もしかしたら次の瞬間にこの瓦礫の山から抜け出して攻撃してくるかも。
俺は震える手で端に寄せてあるひとつの机を持ち上げ頭部に向かって降り下ろした。
グシャッ、アリはまだ死なない。まだ生きてる
降り下ろす。グシャッまだ生きてる。
降り下ろす。グシャッまだ死んでない。
降り下ろす。グシャッまだ砕けてない。
降り下ろす。グシャッ机が壊れそうだ。
降り下ろす。降り下ろす。降り下ろす。
降り下ろす。降り下ろす。降り下ろす。
原型すらわからなくなったアリが完全に動かなくなったのを確認して。机を投げ捨てる。
ここでは、役に立つものは無さそうだというか、確実に息を止めたと思っても、この山を崩したいとも思わない。
俺は、息を大きく吐いてこれからやることを、考え始めた。




