58. 休暇の終わりに
「休暇も終わりね」
「あっという間だったわ」
久しぶりの小さなお茶会は、私の家で開かれた。
ローズは予定が合わず、ナタリーと二人でゆったりと過ごす。
ふわりと花の香りが立つ紅茶を口に運びながら、自然と話題は学園のことになった。
「この前の試験、シリルが全科目満点の1位だったわ。さすがよね」
「アリーヌも総合成績3位だったでしょう? なんだかんだ、テストできてたんじゃない」
「でも、計量学は間違えたのよ」
「最後の問題?」
「ええ」
「自信ないって言っていたものね。私も落としたわよ」
ナタリーが肩をすくめて笑う。
「それより、私はダンスが危なかったわ」
「でも、赤点を免れてよかったじゃない」
「本当に。上手なリードのおかげね。……アリーヌとラファエル様のダンスは、見本みたいに美しかったわ」
「ふふ、ありがとう」
紅茶を一口飲み、静かに息を整える。
「それにしても、魔導学の実技は圧巻だったわね」
「自分でも驚いたわ。魔力量があんなふうに抑えられて見えていたなんて」
「ラヴィス先生の顔、忘れられないわ」
「……何を思っていたのかしらね」
「あの試験を学年合同にしたの、殿下の采配らしいじゃない」
「えっ、そうなの?」
「あら、知らなかったの? ふふ、本当に大切にされているのね」
「もう、からかわないで」
二人で顔を見合わせて、笑い合う。
「学園が始まったら、すぐ剣術大会よね」
「生徒会は、また忙しくなりそうだわ……」
「そういえば、三年の先輩方はこれで引退ね?」
「……少し、寂しくなるわね」
少しの沈黙。
その間に、胸の奥に引っかかっていた疑問が、ふと浮かび上がった。
「ねえ。どうしてそんなにマクシム先輩のことを嫌っているの?」
ナタリーは一瞬だけ視線を伏せ、言葉を探すようにカップの縁をなぞった。
「嫌っている、というより……」
そして、ぽつりと。
「あんなに女好きな人、対象外だわ」
「でも、イケメンよ?」
「だから余計に腹が立つのよ。遠くから見ているだけで」
(イケメンは遠くから見るもの、っていつも言っているのに)
「……昔は、仲が良かったんでしょう?」
「まあね」
それ以上は続かなかった。
ナタリーは微笑んだまま、視線を窓の外へ向ける。
踏み込めば何かが壊れてしまいそうで、私は何も聞けなくなった。
「ところで、剣術大会には殿下は出るの?」
「いいえ。今回は見学するそうよ」
「えっ……でも、魔法より剣の方が得意だって聞いたことがあるわ」
「強い人材を見極める側に回るんですって」
「なるほど……さすがは王太子ね」
「優勝はやっぱり剣のルデュック家、アンリ様かしら」
「そうでしょうね」
穏やかな会話のまま、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
外では、雪の季節が終わりを迎え、再び学園に通う日々が始まろうとしていた。




