↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第三章 学園一年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/64

59. 剣に託すもの

「剣術大会に出ることにした」

「……えっ?」


 とある朝。

 馬車の中で、殿下は何でもないことのように、そう告げた。


「……人材のチェックは、どうなさるのですか?」

「控え室からも見られるし、エリックにも任せるよ」

「そう、ですか……。何か、心境の変化でも?」


 剣術大会は二週間後。

 この時期での変更は、どうにも殿下らしくない。


「……アリーヌは、剣術大会の伝統を知ってる?」

「ええ。優勝者は、勝利を女神に捧げるのですよね」

「うん」


 一拍置いてから、殿下は言った。


「アリーヌに勝利を捧げる。だから、待ってて」

「……はい」


(まさか――そのために?)


 問いかけは、そのまま飲み込んだ。


「ほら、着いたよ」

「ええ。ありがとうございます」


 いつものように差し出された手を取る。

 その背中は変わらず凛としていて――けれど、その想いまでは、まだ読み取れなかった。



 そして、剣術大会当日。


 この大会は、領地の騎士団へのスカウトも兼ねている。

 そのため、会場には多くの貴賓が訪れていた。


 受付で来場者を捌いていると、ルデュック家の一行が姿を現す。


「お姉さま――!」

「あら、ローズ! いらっしゃい」

「この前はお茶会に行けなくて、残念でしたわ……」

「ふふ。またお茶会しましょうね」

「ぜひ!」

「おい、後ろも並んでるんだ。早く行くぞ」

「もー、お兄様はせっかちね。では、また!」

「ええ」


 その去り際に、ふとアンリと目が合った。


「……悪いな」


 殿下を剣術大会に引っ張り出したのは――おそらく、アンリだったのだろう。


「急で驚きました。でも……シリルが剣を振るう姿を見てみたかったので」

「……優しいんだな」

「本当ですわよ」


 その言葉に、アンリの肩からふっと力が抜ける。


「ま、俺も負ける気はしないんでね」

「ふふ。頑張ってください」


 やがて受付業務も終わり、私はナタリーの隣に腰を下ろした。


「何があったのかは分からないけれど、殿下の勇姿が見られるからよかったじゃない」

「そうね。楽しみだわ」

「今年の勝利の女神は、きっとアリーヌね」

「もう、ナタリーったら。……ほら、始まったわ」


 剣と剣がぶつかり合う音が、会場に響く。


「有効打を入れるか、剣を落とすかしたら勝ちみたいね」

「……なるほど。でも、動きが速すぎて、よく分からないわ」


 何試合か進み、いよいよ殿下の出番となった。

 自然と、胸が高鳴る。


(……殿下、がんばれ)


 開始の合図と同時に剣を構えた殿下は、瞬く間に相手の剣を弾き落とした。


「さすがね」

「本当に……何が起こったのか分からなかったわ」


 その後も殿下は順調に勝ち上がり、同時にアンリもトーナメントを進んでいく。


 そして、準決勝。


「いよいよね」

「……ええ」


 幼馴染である二人の対決。

 この対戦そのものが、殿下が出場を決めた理由のひとつなのだと――今なら分かる気がした。


(勝利の女神、ね)


 王太子としてなら、選ばなかったであろう戦い。

 それでも彼は、自ら剣を取った。


 もし――この戦いに勝ったなら。

 その勝利を捧げられるということは、ただの伝統以上の意味を持つのだろう。


 歓声に包まれながら並び立つ二人を見つめて、私の胸の奥に、静かなざわめきが広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。