番外編4 受難
――それは、試験期間に入る少し前のこと。
「殿下、魔導研究所からの返事がきました」
「……ああ、ラファエルか」
生徒会室。魔導大会後の後処理のため、殿下に手紙を渡す。
だが、正直に言って怖い。特に最近、殿下の視線がやけに冷たい気がする。
「あの……俺、何かしましたでしょうか?」
「いや、何も?」
「ですが……」
「ただの嫉妬だろ」
隣で、アンリ先輩がふんっと鼻を鳴らした。
「どうせ、婚約者様と同じクラスでよく話してるのが羨ましいんだろ。しかも、授業のダンス相手がお前だから拗ねてる。……自分で頼んだくせにな」
「アンリ、うるさい」
「……なるほど?」
それはそれで、とても理不尽だ。
「大丈夫だよ。ラファエルは我が妹にゾッコンだからな」
「ち、違……いえ、違わないですけど……」
「それは知ってる。だからこそ、ラファエルに頼んでるんだ」
「それで、アリーヌ嬢とのダンスはどうだ?」
「え、あ……体幹がしっかりしているので、とても踊りやすいです」
その瞬間、氷点下の視線が突き刺さった。
アンリ先輩は完全に面白がっているが、被害を受けるのは俺なので、正直やめてほしい。
「それはそうと、王太子様は婚約者と一緒に試験を受けるために、いろいろ画策したとか?」
「……ノーコメントだ」
「え、でもダンスはクラス別だったはず……」
「さすがにダンスは無理だ。半年間同じペアで練習しているからな」
手紙と資料に目を通しながら、殿下が答えた。
「でも、一年生は基本、筆記試験ですよね?」
「甘いな、ラファエル。ひとつだけ実技がある」
「……あ、魔導学?」
「正解」
今度はアンリ先輩に冷たい視線が向けられたが、本人はどこ吹く風だ。
「A組とB組合同ですか?」
「いや、全クラス合同だ」
「なるほど……?」
「アリーヌが暴走しないかが心配でね」
「それは、さすがに……」
たかが試験で暴走はしないだろう。
そう思ったが――殿下は一瞬、視線を伏せた。
「……それと、余計な目もある」
「目、ですか?」
「ラファエルは気にしなくていい」
それ以上、殿下は何も言わなかった。
(……試験、何事もなければいいけど)
そんな不安を胸の奥に残したまま、試験期間は、静かに始まろうとしていた。




