56. 試験期間
「そこまで!」
ジラール先生の声が教室に響き、計量学のテストが終わった。
一斉にペンを置く音がして、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。
「アリーヌ、テストどうだった?」
「まあまあかしら」
「とか言って、どうせ完璧なんだわ」
「いや、最後の問題が難しかったから自信ないわ」
「……他の問題は自信あるのね」
ナタリーがじとっとした目を向けてくる。
「ほら、早く行かないと。次はダンスのテストよ」
「……アリーヌはもう満点って決まってるからいいわね。もしかしたら120点かもしれないわ」
「ふふ。ナタリーはダンス苦手だものね。パーティーでもあまり踊らないし……」
「リズム感がないのよ。仕方ないでしょ」
「フォール子爵令息がリード上手くてよかったわね」
「本当に……足を踏んでばかりで申し訳ないわ」
そんな他愛ない会話をしながら、ダンスルームへ向かう。
扉を開けると、すでに何組かが順番を待っていた。
音楽の合間に聞こえる靴音や、控えめな話し声が、試験特有の緊張感を漂わせている。
ほどなくして試験が始まり、順に名前が呼ばれていった。
「ラファエル様」
「さすがに緊張するな。アリーヌ嬢の足を引っ張れないし」
「大丈夫よ。今まで何度も一緒に踊って、失敗したことないじゃない」
「そうだけど……殿下が怖いし……」
「なんでそこでシリルが出てくるのよ?」
「……ほら、未来の王太子妃様に恥をかかせたら、何を言われるかわからないだろ?」
「そんなことでシリルは怒らないから、大丈夫よ」
「……ははは」
力の抜けた笑いに、私も少し肩の力が抜ける。
「次、ラファエル・アンドレ、アリーヌ・ベルナール!」
「「はい!」」
向かい合って一礼し、手を取る。
音楽が流れ始めた瞬間、不思議と緊張は消えた。
何度も繰り返してきたステップが、考えずとも身体を動かしてくれる。
呼吸を合わせ、視線を交わしながら、無駄のない動きでフロアを回る。
ラファエルのリードは少しだけ硬いけれど、誠実で、いつも通りだった。
曲が終わり、最後の一歩を決めた瞬間、ひときわ大きな拍手が起こった。
「ほら、大丈夫だったじゃない」
「ああ、よかった。ありがとう」
「こちらこそ」
ラファエルは大きく息をつき、安堵したように笑う。
その横顔を見て、私も小さく微笑んだ。
――まだまだ、テスト期間は続く。
◇
そして、やっと試験最終日になった。
「今日は魔導学の筆記と実技……魔導士様には簡単な試験ね」
「だといいけど」
「アリーヌにも難しかったら、私たちはもう解けないわよ」
「何言ってるのよ。ナタリーだって、ちゃんと勉強してたじゃない」
「自信ないわ……」
軽口を叩き合いながらも、教室に入ると自然と口数が減った。
各自席につき、問題用紙が配られる。
開始の合図まではほんの短い時間のはずなのに、いつも長く感じられるのは何故だろうか。
「それでは、開始!」
問題に目を落とす。
内容は基礎ばかりで、魔導士試験と比べればずっと易しい。
それでも、油断すれば落とし穴はある。
ひとつひとつ丁寧に答え、見直しを重ねる。
最後に深く息を整えてから、提出した。
――実技は、このあと。
気持ちを切り替え、私はそっと背筋を伸ばした。




