↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第三章 学園一年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/64

54. 役割の中で

「ごめん。王太子として、何人かと踊らないといけないんだよね」


 飲み物を取ってナタリーと合流したところで、殿下が少し申し訳なさそうに言った。


「頑張ってきてくださいませ」

「行かないで、とか言ってくれてもいいんだよ?」

「言ったところで、行かなければならないのでしょう?」

「……まあ、そうだけど」


 小さくため息をついて離れた殿下のもとには、すぐに踊りを待っていた令嬢たちが集まっていく。


「あらあら。さすが殿下、モテモテね」

「……そうね」

「その反応。ふふ、いい顔してるわよ」


 慌てて手で頬を押さえる。


「もう、からかわないで」

「だって、からかい甲斐がある顔してるんだもの」


 そこへ、兄のアンリにエスコートされる形でローズが合流してきた。


「お二人とも、とてもお美しいですわ!

 ……あら? お姉さま、そのラベンダー色、珍しいですわね?」

「よく、あの王太子が許したな」

「お兄様! 思っていても口に出すものではありませんわ!」

「事実だろ」

「もう……! それで、何があったんですの?」

「ローズも聞いてるじゃない」


 ナタリーがくすくす笑っているのを軽く睨みつつ、私は答えた。


「これは、シリルと一緒に選びましたの。水色にも合って、素敵でしょう?」

「なーんだ。喧嘩でもしたのかと思った」

「お兄様!」


 周囲に視線を向けると、こちらをちらちらと窺う殿方の姿がいくつも目に入る。

 その間を縫うようにして、ラファエルが近づいてきた。


「こんなところにいたのか」

「あら、ラファエル様。ご機嫌よう」

「ああ。……アンリ先輩」

「……頃合いだな」


 そう言って、アンリはすっと私に手を差し出す。


「可愛らしいお嬢さん。俺と一曲、踊ってもらえますか?」

「え……ええ」


 少し驚いたものの、断る理由もなく、その手を取る。

 横目に、ラファエルがローズを誘っているのが見えた。


「私は少し挨拶回りをしてくるわね」

「いってらっしゃい」


 ナタリーの背中を見送り、私はアンリとフロアへ向かった。


 音楽に合わせて踊り始める。

 さすが公爵家の令息――アンリのリードは滑らかで、安心感があった。


「アンリ先輩は、思っていたよりも気さくなのですね」

「どんな風に思っていたんだ……。突然の誘いで驚いた?」

「ええ、少し」

「……アリーヌ嬢を狙う輩が増えてきたからさ」

「……?」

「ああ、自覚なしか。シリルも大変だな」

「どういう意味ですの?」

「君と踊りたい男が、山ほどいるってこと。“美しい未来の王太子妃に触れたい”ってね」

「なるほど。人脈目当て、ということですわね?」

「うーん。そういうことにしておこうか」


 くるりと、軽やかにターンを決められる。


「ほら、見て。さっきからずっと睨まれてる」

「誰に、ですの……?」

「君の婚約者。自分で君と踊るよう頼んできたのに、あの顔だ」

「えっ」

「あ、これは言っちゃダメだったかな?」


 アンリが楽しそうに笑ったところで、ちょうど曲が終わる。


 お辞儀をしてフロアを離れると、視線の先ではマクシムが令嬢たちに囲まれていた。


「先輩、今日もやってるねぇ」

「相変わらずですわね」


 さらに近づくと、こちらに気づいたマクシムが、落胆の声をいくつも引き連れてやってきた。


「アリーヌ嬢。俺と踊っていただけますか?」

「あら。よろしくお願いいたしますわ」

「ここで交代だな。じゃあな」

「ええ、ありがとうございました」


 アンリが手をひらりと振って去っていく。

 そして瞬く間に令嬢たちに囲まれ、無表情へと戻っていく様子に、少し笑ってしまった。


 私はフロアに戻り、音楽に身を委ねる。

 マクシムのリードは思っていたよりも穏やかで、意外に感じた。


「魔導擬装体、壊してしまいましたが大丈夫でしたか?」

「ダメだった。クレマン先輩がすごく怒っていたよ」

「あら……申し訳ありません」

「俺たちの攻撃で壊れるってことは、強度が足りないんじゃないかって言ったら、さらに怒ってさ」

「ふふ」


 心地よい会話が続く。

 殿下に気をつけるよう言われていた相手とは思えないほど、マクシムは終始、先輩として自然に接してくれた。


「そうだ、殿下に言っておいてくれる?」

「何をですか?」

「心が狭すぎる男は嫌われるぞって」

「ふふ、シリルの心は狭くありませんわよ?」

「……なるほど。うまくやってるってわけか」


 そう言って、マクシムは軽く肩をすくめた。


 曲が終わり、形式的に一礼を交わす。

 そのまま彼は飲み物を取りに行き、再び令嬢たちに囲まれていった。


 ――皆、それぞれの役割を果たしているだけ。

 社交界とは、そういう場所だ。


 私は近くの壁際へと下がり、グラスを手に取る。

 賑やかな音楽と笑い声を、少し距離を置いて眺めた。


 視線の先で、殿下が別の令嬢と踊っている。

 完璧な笑顔。非の打ちどころのない所作。

 ――王太子として、あるべき姿。


(……分かっているはずなのに)


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 それでも私は、その感情に蓋をして、そっと目を逸らす。


 パーティーは、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。