52. 年末を迎える準備
「年末のパーティーは一緒に参加してもらうことになるけど、問題ないよね?」
「はい。もちろん、そのつもりでした」
「そっか、よかった」
今日は殿下に招かれ、王宮の温室でお茶を楽しんでいた。
花の香りに包まれながらいただく紅茶は、自然と心を和ませてくれる。
「そこで提案なんだけど、パーティーの衣装を選んで欲しいと思っているんだ。来週、時間は取れる?」
「ええ。それは楽しそうですね」
「じゃあ、決まりだね」
ふっと、会話が途切れる。
殿下は一瞬だけ視線を落とし、わずかに間を置いてから口を開いた。
「この前の魔導大会、見事だったよ。いいチームプレーだった」
「ありがとうございます。シリルも、準備お疲れ様でした」
「ありがとう。無事に終わって、本当によかった」
そう言いながら、殿下の視線がわずかに逸れる。
「……何かありましたか?」
「いや。ただ――戦闘で、マクシムと同じチームだったよね」
「はい。まさか先輩が魔導士だったとは思いませんでした。ご存じでしたなら、教えてくださってもよかったのに」
「……知っていると思っていたよ。準備担当も一緒だったし」
「先輩、何もおっしゃいませんでしたわ」
「……ふぅん」
一瞬の沈黙。
「マクシムはね、相手の婚約者の有無に関係なく、人との距離が近い。
アリーヌも、余計な噂を立てられないよう、気をつけてほしい」
思わず、首をかしげそうになる。
「一緒に行動する中で、真面目で信頼できる方だと思いましたけれど……」
「それは分かっている。でも、周囲はそう見ないこともあるから。接触するときは注意して」
「……わかりました」
理屈としては理解できる。
けれど、二人きりになったわけでもなく、特別な振る舞いをした覚えもない。
(……ずいぶん、念を押されるのね)
胸の奥が、わずかにざわつく。
――まさか、とは思うけれど。
「わかってくれたならいい。じゃあ、来週。迎えに行くね」
「はい。よろしくお願いします」
◇
王宮御用達の仕立て屋の前で、馬車が静かに止まった。
「いらっしゃいませ」
「ああ、次のパーティーの服を。今日は婚約者も一緒なんだ」
「あらあら、それはそれは。とてもお美しいお嬢様ですわ。どうぞ、ごゆっくり」
殿下に促され、並んでドレスを見ていく。
(いつも贈られるのは青系……今日は、違うものにしようかしら)
いくつか手に取って見比べていると、殿下がぽつりと尋ねた。
「……青いドレスは選ばないの?」
「青がよろしいんですの?」
「そういうわけじゃないけど……少し、寂しいなと思って」
あまりにも素直な声音に、思わず微笑みがこぼれた。
「いつもは贈っていただくから、シリルの色を身につけておりますけど」
「うん」
「今日は、“一緒に選んだ”ということが大事だと思いますの」
「……そっか」
殿下の頬が、わずかに緩む。
「それに、いただいたネックレスは身につけていきますわ」
「うん。俺も、あのカフスボタンを使うよ」
「ふふ」
二人で意見を出し合い、最終的に選んだのは、淡いラベンダーを基調としたドレスだった。
光を受けてほのかに色味を変え、水色の装飾品とも自然に調和する。
「……うん、それなら」
殿下は満足そうに頷いた。
二人でお店を後にする。
面倒だと思っていたはずの年末のパーティーが、少しだけ楽しみに変わっていた。




