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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第三章 学園一年生

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50. 研究機関にて

(ここが、魔導研究機関……)


 広大な敷地に、白い箱のような建物がいくつも並んでいる。

 どれも似たような造りで、うっかりすると迷ってしまいそうだ。


「こっちだ」


 マクシムの背中を追って歩き出す。


 すれ違う人々が、ちらちらとこちらを見てくるのが気になった。

 ――どうやら、かなり浮いているらしい。


「……俺たち、目立ってないか?」

「そうですわね……」


 研究機関と聞いて、徹夜明けで疲れ切った人ばかりだと思っていた。

 けれど、実際は違う。

 あちこちから明るい笑い声が聞こえ、皆、ラフな服装で行き交っている。


 きっちり制服を着込んだ私たちは、その中でやけに堅苦しかった。


 しばらく歩いて、ひとつの建物で受付を済ませる。

 二階へ上がり、指定された部屋の扉を開けると――


「……魔導、擬装体?」


 部屋の中には、所狭しと魔導擬装体が並んでいた。

 人型のもの、獣型のもの、用途別なのか形も大きさも様々だ。


 そのうちの一体の陰から、気の抜けた声が聞こえてくる。


「あー……もしかして、学園の人? もうそんな時間か……」

「お久しぶりです、クレマン先輩」

「おお、マクシム。よく来たな」


 あっという間に二人だけで話が始まってしまう。

 私たち三人は、すっかり置いてけぼりだ。


「それで、今年は誰が来ることになった?」

「あー、確かこの辺に……」


 山のように積まれた資料を、慣れた手つきで掘り返していく。

 迷う様子もなく、一枚の紙を引き抜いた。


「あったあった。これね」

「……今年は人数が多いな」

「まぁ、優良株が多いからさ。ほら、そこの二人みたいに」


 ちらりと、こちらに視線が向く。

 思わず背筋が伸びた。


「それと、今年も予備込みで3体、魔導擬装体を用意するよ」

「助かる」

「あんまり壊さないでくれよ? 去年は散々だったんだから……」

「約束はできないな」

「……だと思った」


 クレマンは大きくため息をつくと、ひらひらと手を振って作業に戻っていった。


「じゃあ、俺たちも行こうか」


 マクシムの一言で、私たちは部屋を後にした。



 来た道を戻り、建物の外へ出る。


「俺は知り合いと会う約束をしているので、この辺で」

「お疲れ様です」


 セドリックは、迷いのない足取りで去っていった。

 私たちも歩き出そうとした、その時――


「アリーヌ様……?」


 不意に名前を呼ばれ、足が止まる。


 振り返った先にいたのは、見覚えのある赤い瞳と焦茶色の柔らかな髪。

 ――けれど、その髪は顎のあたりで短く切り揃えられていた。


「ミ、ミア様!?」

「ラファエル様もいる! お久しぶり。会いたかったわ!」


 弾むような声と同時に、距離が一気に縮まる。

 かつて魔導士を諦めた少女は、以前よりもずっと軽やかで――

 そして、驚くほど晴れやかな顔をしていた。


「おっと、知り合いかな? 俺は先に帰っているね」


 颯爽と去るマクシムを見送り、改めてミアを見る。


「こんなところで会えるなんて……」

「本当に久しぶりだな。ミア嬢、元気そうでよかったよ」

「ふふ。お二人もお変わりなさそうで何よりですわ。アリーヌ様も……色々、吹っ切れたみたいね?」


 その一言に、少しだけ胸がくすぐったくなる。


「そうなんだよ。アリーヌ嬢、あれからすごく強くなったんだぜ」

「ラファエル様だって、とても強くなりましたわ」


 私たちのやり取りを聞いて、ミアがくすりと笑った。


「二人とも、魔導士になったのね。おめでとう」

「ミア様も研究機関への就任、おめでとうございます」

「まさか、本当に研究者になっているとはな……!」

「今は魔物運動研究室で、群れる魔物の動き方について研究しておりますの。

 毎日魔物のことを考えられるなんて、夢みたいで――とても幸せですわ」


 そう語るミアの表情は、かつての不安げな面影を感じさせないほど穏やかだった。


「……ミア嬢らしいな」

「ありがとうございます」


 ふと時計に目をやったミアが、小さく肩をすくめる。


「あ、そろそろ行かないと」

「今度、一緒にお茶でもしましょう」

「ええ、ぜひ。……また、この三人で」

「おう」


 別れ際、ミアがそっと距離を詰め、耳元で囁いた。


「……王太子殿下にも、よろしくね?」

「え……ええ」


 思わず言葉が詰まる。


(どうして、殿下のことを……?)


 表向きは、お祖母様が知り合いの研究員に頼んで推薦状を出したことになっている。

 ――殿下に頼んだことは、知られていないはずなのに。


「じゃあね!」

「また会いましょう」


 軽やかに去っていく背中を見送りながら、私は一瞬だけ足を止める。


 ――けれど、すぐに前を向いた。


 魔導大会は、刻一刻と近づいていた。

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