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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第三章 学園一年生

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48. 新たな作戦

 カタカタカタカタ――。


 今日も馬車の軽快な音が響く。


「アリーヌ、今週も無理なの? 誘うの三回目なんだけど」

「すみません。今週も魔物の討伐がありまして」

「ふぅん……」


 入学してから一ヶ月。

 殿下と一緒の登校が、すっかり日課となっていた。

 王宮からだと遠回りになるというのに、欠かさず迎えに来る。


 私はというと、急いで次の手を考えることにした。

 距離を置こうとしても、学園ではどうにもならない。

 だからせめて、休日くらいは顔を合わせないようにしている。


 ――勝手に“作戦B’”と名付けて、実行中だ。


「つ、次こそはお茶会に出ますわ」

「……本当かなぁ」


 いつもより低く落とされた声に、胸の奥がざわつく。


(さすがにそろそろ怒らせるかしら?)


 そうこうしているうちに学園へ到着する。

 殿下が馬車から降りると、周囲から自然と歓声が上がった。

 この光景も、見慣れたものだ。


「では、ごきげんよう」

「アリーヌ、またね」


 そうして、変わり映えのない一日が始まる。



 グオオオォォォ――


「アリーヌ様、あれですね」

「ええ……思ったよりも大きいわね」


 週末。

 アルベルク近郊の森で巨大な熊型の魔物が出たとの通報を受け、公爵家の魔導騎士団が討伐に来ていた。


「さて、どう攻めましょうか」


 そう考えた、その瞬間。

 ふっと、ありえない魔力の気配が鼻先をかすめた。


(……この魔力、まさか)


「……少し、待っていてください」


 魔力を辿り、草をかき分けて進む。

 その先にいたのは――


「……シリル」

「やあ。やっぱり気づくと思ってた」


 来るはずのない殿下。

 しかも、隣にはエリックまでいる。


「なぜ……ここに?」

「最近、アリーヌが忙しそうで、ゆっくり話す時間もなかったから」

 

 少し間を置いて、殿下は続ける。


「君が“俺より優先しているもの”を、実際に見てみようと思ったんだ」


 綺麗に整った笑顔。

 けれど、その奥にある感情が、ちくりと胸に刺さった。


「すみません。民の生活を守るためなので……」

「謝らなくていいよ。勝手に来たのは俺だから」


 そう言ってから、ふっと表情が緩む。


「……本当に、危ないことをしているんだね」


 その一言は、はっきりと心配の色を帯びていた。


「でも、アリーヌなら、すぐに倒せるんだよね?」

「もちろんです」


 王太子を危険に晒すわけにはいかない。

 それに――ここで大丈夫だと示せなければ、今後の討伐も制限されかねない。


 私は急ぎ足で皆のもとへ戻った。


 熊型の魔物は見た目に反して俊敏だ。

 動きを封じることが最優先。


「今回は火魔法で囲みましょう」

「了解。その後、騎士が脚を狙う」

「動きが止まったところで、雷を」


 火が放たれ、魔物を包囲する。

 熱に阻まれ、脚をつき、動きが鈍った瞬間――


「いきます!」


 次の瞬間、特大の雷を叩き落とす。

 鈍い音を立て、巨体がゆっくりと地面に崩れ落ちた。


 パチパチパチパチ――


「……さすがだね、アリーヌ」


 拍手の軽快さとは裏腹に、殿下がどこか複雑そうに笑う。


「危なかったら止めるつもりだったけど……もう、口出しできないな」

「ふふ、よかったですわ」

「……ちょっと、手を貸して」


 そう言われ、左手を差し出す。

 指先が触れた瞬間、心臓が跳ねた。


 殿下はそのまま、私のブレスレットに手をかざす。

 淡い金色の光が、静かに広がった。


「防御魔法を、少し強くしておいた」

「あ、ありがとうございます」

「でも……気をつけてね」


 低く、抑えた声。

 叱るでもなく、命じるでもない。

 ただ、その声音だけが、やけに残った。


 このまま逃げ続けたら――きっとまた、殿下はこうして見に来てしまう。


 そんな予感が、静かに胸に広がる。


(……お茶会は、出るしかなさそうね)


 そう観念した瞬間、胸の奥で何かが小さく軋んだ。


 こうして作戦B’は、静かに――けれど確かに、終わりを迎えたのだった。

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