47. 生徒会という名の檻
翌日の放課後。
言われた通り、ナタリーと連れ立って生徒会室へ向かう。
「生徒会って、どんなことをするのかしらね」
「イベントの企画とか? 大変そうよね」
「そうね。忙しそう――」
「でも、意外と楽しいよ」
不意に背後から声をかけられ、振り返る。
そこにいたのは――マクシムだった。
「アリーヌ嬢は本当に美しいね。今日も、その金色の瞳に吸い込まれそうだ」
「チッ……」
隣から、今まで聞いたことのない舌打ちが落ちる。
「ナタリー怒ってる? でも、怒った顔も可愛いよ」
ナタリーは一切取り合わず、そのまま生徒会室へ入っていってしまった。
「あ、あの……」
「……いつものことだから」
そう言って笑うマクシムの横顔が、一瞬だけ翳る。
けれど次の瞬間には、何事もなかったかのように軽やかな笑顔に戻っていた。
「さあ、アリーヌ嬢も行こうか」
「……はい」
差し出された手を取り、エスコートされる。
そのまま生徒会室に足を踏み入れた瞬間――空気が、ひやりと変わった。
殿下がこちらを見ている。
昨日までの柔らかさを失った、氷のような瞳。
ナタリーの視線も、負けず劣らず冷たい。
「あ、ありがとうございました」
慌てて手を離し、ナタリーの隣に腰を下ろす。
しばらくして、全員が揃ったのを確認すると、マクシムが前に立った。
「これで全員かな」
軽く手を叩き、場を見渡す。
「生徒会へようこそ。改めて名乗ろう。僕は生徒会長のマクシム・ロベールだ」
その一言で、部屋の空気がわずかに引き締まる。
「この学園の生徒会は、各学年から5名ずつ選出されている」
「……選出、ですの?」
「うん。正確には“選ばれる人”と“逃げられない人”がいる」
マクシムは、くすりと笑って続ける。
「侯爵家以上は原則参加。将来、人や領地を治める立場になる人間に、経験を積ませるため――という建前だね」
「……つまり、強制、と」
「まあ、そうなるかな。その代わり、学園内ではそれなりの権限もあるけど」
ふと、無意識に殿下の方へ視線が向く。
腕を組んだまま表情を変えずに話を聞いている姿に、胸がわずかに跳ねた。
けれど――
一瞬だけ視線が絡み、すぐに逸らされた。
「主な仕事は行事の企画運営。予算管理や当日の進行、準備と片付けまで含めて、なかなかの重労働だ」
どこからか、上級生の小さなため息が聞こえる。
「じゃあ、自己紹介に入ろうか。左から順に」
順番に名乗りが続き、数人目で、見知った顔が立ち上がった。
「副会長のアンリ・ルデュックだ」
ローズの兄。
聞いていた通り、感情を表に出さない静かな佇まいだ。
ひと通りの紹介が終わり、マクシムが満足そうに頷く。
「今日は顔合わせだ。詳しい役割分担は、また次回にしよう」
そうして、生徒会の初日は、ひとまず幕を下ろした。
――これから、否応なく関わっていく場所。
そう思うと、胸の奥が、少しだけ重い。
「アリーヌ」
席を立つと、殿下に呼び止められた。
微笑んではいるが、目が笑っていない。
「ど、どうしました?」
「一緒に帰ろうか」
「……はい」
明らかに、機嫌が悪い。
仲直りしたはずなのに、おかしい。
廊下に出て歩き出そうとした瞬間――
ふいに、指先が触れた。
つないだ、というほどでもない。
けれど殿下は、そのまま離さず、静かに歩き出す。
「……俺の婚約者って自覚してよ」
小さく、ほとんど独り言みたいな声。
振りほどく理由は、もう見つからなかった。




