4. 現実との照合
ゆっくりと目を覚ますと、外はすっかり明るくなっていた。
明け方まで起きていたせいか、身体が重い。
喉の渇きを覚え、ベッドの端に腰を下ろす。
ちょうどその時、軽いノック音がして、アニーが部屋に入ってきた。
「おはようございます、お嬢様」
「ええ。おはよう」
「いつもの時間を過ぎてもお目覚めになりませんでしたね。少し、お熱があるようです」
「熱……?」
「本日はご無理なさらず、お休みくださいませ」
「わかったわ。ありがとう」
扉が閉まる。
まさか、熱が出るなんて。
ここ最近の疲れに、昨夜の夜更かし。原因はいくらでも思い当たる。
――それとも。
あの物語を読んで、知ってはいけないものを知ってしまった、そのせいだろうか。
けれど、悪くない。
一日、何もせずに考える時間が与えられたのだから。
気づけば、意識はまた、あの本の内容へと引き戻されていた。
◇
物語の始まりは、主人公が十五歳のとき。
魔法学校の入学式から始まる。
その校舎には、見覚えがあった。
父の仕事の関係で訪れたことがある。
荘厳な外観、尖塔の配置、青い屋根の並び。
本に描かれていた光景と、驚くほど一致している。
それに――
私は魔力が強いので、“悪役令嬢”と同じく、あの学校に通うことは確定している。
次に注目すべきは、登場人物。
金髪に、アクアマリンの瞳の王太子。
人当たりがよく、身分に関係なく言葉をかける、穏やかな微笑み。
噂に聞く殿下の姿が、そのまま文章になっているかのようだった。
次期宰相と目される人物もそうだ。
淡い茶髪に、母譲りの翠眼。
それは――お兄様と、あまりにも似すぎている。
騎士団長の息子も、同じ。
赤髪に琥珀色の瞳。
会ったことはないが、耳にした噂と寸分違わない。
国王陛下。王妃殿下。
もうひとつの公爵家の令息。
知っている顔が、次々と並ぶ。
偶然、と片づけるには――重なりすぎている。
そして、魔法。
風、火、雷、水、土。
五大元素。誰もが知る常識。
だが、ある一文に、目が止まった。
――“王族特有の光属性”。
胸の奥が、ひやりと冷える。
光属性。
それは古代伝承にのみ登場する、伝説上の力。
学者の多くは存在を否定し、一般にはおとぎ話として扱われている。
けれど、限られた家紋の人間のみ知っている。
本当は、王家にのみ受け継がれている力だということを。
もちろん、その事実は国家機密に等しく、口外すれば不敬罪に問われかねないほどの秘密だ。
それが、この本には――当然のように記されていた。
まるで、王家の内側を、直接見てきたかのように。
さらに、悪役令嬢の得意な属性や、魔物の存在、それを討伐する騎士団。
世界の構造、そのものが一致している。
ここまでくると、偶然では済まされない。
所詮は物語。
そう頭では分かっている。
けれど、これほどまでに“現実”に寄り添った物語を、他に知らない。
その中で。
自分と同じ姿の少女が悪役として断罪され、知っている人々が、その舞台に立つ。
――冷静でいられるはずがなかった。
ふと、ある一節を思い出す。
主人公が伯爵家に引き取られたのは、十一歳の頃。
そこから辿れば、何か分かるかもしれない。
窓の外を見ると、日はすでに高く昇っていた。
庭の木々の影が、長く伸びている。
そういえば、昨日、お父様に呼ばれていた。
遅めの朝食をとり、薬を飲んだら――
あの少女について、少し聞いてみよう。




