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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第一章 運命の始まり

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4. 現実との照合

 ゆっくりと目を覚ますと、外はすっかり明るくなっていた。

 明け方まで起きていたせいか、身体が重い。


 喉の渇きを覚え、ベッドの端に腰を下ろす。

 ちょうどその時、軽いノック音がして、アニーが部屋に入ってきた。


「おはようございます、お嬢様」

「ええ。おはよう」

「いつもの時間を過ぎてもお目覚めになりませんでしたね。少し、お熱があるようです」

「熱……?」

「本日はご無理なさらず、お休みくださいませ」

「わかったわ。ありがとう」


 扉が閉まる。


 まさか、熱が出るなんて。

 ここ最近の疲れに、昨夜の夜更かし。原因はいくらでも思い当たる。


 ――それとも。


 あの物語を読んで、知ってはいけないものを知ってしまった、そのせいだろうか。


 けれど、悪くない。

 一日、何もせずに考える時間が与えられたのだから。


 気づけば、意識はまた、あの本の内容へと引き戻されていた。



 物語の始まりは、主人公が十五歳のとき。

 魔法学校の入学式から始まる。


 その校舎には、見覚えがあった。

 父の仕事の関係で訪れたことがある。

 荘厳な外観、尖塔の配置、青い屋根の並び。


 本に描かれていた光景と、驚くほど一致している。


 それに――

 私は魔力が強いので、“悪役令嬢”と同じく、あの学校に通うことは確定している。


 次に注目すべきは、登場人物。


 金髪に、アクアマリンの瞳の王太子。

 人当たりがよく、身分に関係なく言葉をかける、穏やかな微笑み。


 噂に聞く殿下の姿が、そのまま文章になっているかのようだった。


 次期宰相と目される人物もそうだ。

 淡い茶髪に、母譲りの翠眼。

 それは――お兄様と、あまりにも似すぎている。


 騎士団長の息子も、同じ。

 赤髪に琥珀色の瞳。

 会ったことはないが、耳にした噂と寸分違わない。


 国王陛下。王妃殿下。

 もうひとつの公爵家の令息。

 知っている顔が、次々と並ぶ。


 偶然、と片づけるには――重なりすぎている。


 そして、魔法。


 風、火、雷、水、土。

 五大元素。誰もが知る常識。


 だが、ある一文に、目が止まった。


 ――“王族特有の光属性”。


 胸の奥が、ひやりと冷える。


 光属性。

 それは古代伝承にのみ登場する、伝説上の力。


 学者の多くは存在を否定し、一般にはおとぎ話として扱われている。


 けれど、限られた家紋の人間のみ知っている。

 本当は、王家にのみ受け継がれている力だということを。

 もちろん、その事実は国家機密に等しく、口外すれば不敬罪に問われかねないほどの秘密だ。


 それが、この本には――当然のように記されていた。

 まるで、王家の内側を、直接見てきたかのように。


 さらに、悪役令嬢の得意な属性や、魔物の存在、それを討伐する騎士団。

 世界の構造、そのものが一致している。


 ここまでくると、偶然では済まされない。


 所詮は物語。

 そう頭では分かっている。


 けれど、これほどまでに“現実”に寄り添った物語を、他に知らない。


 その中で。

 自分と同じ姿の少女が悪役として断罪され、知っている人々が、その舞台に立つ。


 ――冷静でいられるはずがなかった。


 ふと、ある一節を思い出す。


 主人公が伯爵家に引き取られたのは、十一歳の頃。

 そこから辿れば、何か分かるかもしれない。


 窓の外を見ると、日はすでに高く昇っていた。

 庭の木々の影が、長く伸びている。


 そういえば、昨日、お父様に呼ばれていた。


 遅めの朝食をとり、薬を飲んだら――

 あの少女について、少し聞いてみよう。

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