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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第一章 運命の始まり

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3. 物語が告げるもの

 ハッと目を覚まし、じっと本を見つめる。


「ああ……読み途中だったんだわ」


 本の表紙から、夢の中で感じたあの爽やかな魔力が、かすかに漂っている。

 けれど、その気配は今にも消え入りそうに弱く、これでは追跡などできそうにない。


 とりあえず、今は最後まで読んでみないことには何も分からない。

 それに――あの青い鳥の言葉が、どうにも頭から離れず、眠れる気がしなかった。


 一気に読み切ってしまおう。


 時計を見ると、針はちょうど夜中の12時を指している。

 この分量なら、明け方までには読み終えられそうだ。



 その物語は、ナタリーの言う通り、胸がキュンとする恋愛小説だった。


 庶民の少女が事故で両親を失い、伯爵家に引き取られる。

 突然変わった環境に戸惑いながらも、彼女は貴族の学園へ通うことになり、そこで王太子と出会った。


 親切で、優しくて、誰からも慕われる存在。

 王太子は何かと彼女を気にかけ、助け、二人は自然と惹かれ合っていく。


 だが、身分の差と、王太子の婚約者の存在が、二人の前に立ちはだかった。


 陰口。嫌がらせ。

 やがて、それははっきりとした悪意へと変わっていく。


 それでも彼女は想いを捨てきれず、王太子もまた距離を取ることができない。

 すれ違い、苦しみ、それでも――最後には、永遠の愛を誓い合う。


 そんな、感動の物語だった。


 ――けれど。


 それ以上に、私を驚かせたことがある。


 一部の登場人物の容姿や性格が、私を含め、現実世界の人々と妙に重なっているのだ。


「……悪役、令嬢?」


 ページをめくる手が止まった。


 物語の中で、王太子の婚約者として描かれている少女。

 その髪の色も、瞳の色も、私と同じ。


 それだけではない。

 微笑むときの仕草。

 苛立ったとき、無意識に口元を押さえる癖。


 まるで、鏡を見ているかのようだった。


 そう、“悪役令嬢”と呼ばれ、主人公をいじめた張本人。

 その少女は、私に瓜二つだったのである。


 そして彼女の結末は、あまりにも残酷だった。


 未来の王妃に許されない罪を犯したとして牢獄に投げ込まれ、人としての尊厳を奪われたまま、王太子の命令で公開処刑。


 ――救いは、どこにもなかった。


 思わず息を呑む。


 あの鳥が見せた未来。

 そして、この本。


 二つを無関係だと思うほど、私は楽観的ではなかった。


(この悪役令嬢は……私だ)


 やはりこれは、偶然ではない。

 私に向けて書かれた――予言書なのだ。


 だが、一体誰がこんなものを?

 あの鳥を作り出し、警告してきた者は、味方なのか。

 それとも――。


 ぞくりと背筋が震え、思わず両腕で自分の身体を抱きしめる。


 考えるべきことは山ほどあった。

 それでも、張り詰めていた緊張が一気にほどけ、まぶたは重く落ちていく。


 暖かな布団の中、耳に届くのは自分の鼓動の音だけ。


 思考は次第に溶け、そして、意識は静かに闇の底へと沈んでいった――。

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