3. 物語が告げるもの
ハッと目を覚まし、じっと本を見つめる。
「ああ……読み途中だったんだわ」
本の表紙から、夢の中で感じたあの爽やかな魔力が、かすかに漂っている。
けれど、その気配は今にも消え入りそうに弱く、これでは追跡などできそうにない。
とりあえず、今は最後まで読んでみないことには何も分からない。
それに――あの青い鳥の言葉が、どうにも頭から離れず、眠れる気がしなかった。
一気に読み切ってしまおう。
時計を見ると、針はちょうど夜中の12時を指している。
この分量なら、明け方までには読み終えられそうだ。
◇
その物語は、ナタリーの言う通り、胸がキュンとする恋愛小説だった。
庶民の少女が事故で両親を失い、伯爵家に引き取られる。
突然変わった環境に戸惑いながらも、彼女は貴族の学園へ通うことになり、そこで王太子と出会った。
親切で、優しくて、誰からも慕われる存在。
王太子は何かと彼女を気にかけ、助け、二人は自然と惹かれ合っていく。
だが、身分の差と、王太子の婚約者の存在が、二人の前に立ちはだかった。
陰口。嫌がらせ。
やがて、それははっきりとした悪意へと変わっていく。
それでも彼女は想いを捨てきれず、王太子もまた距離を取ることができない。
すれ違い、苦しみ、それでも――最後には、永遠の愛を誓い合う。
そんな、感動の物語だった。
――けれど。
それ以上に、私を驚かせたことがある。
一部の登場人物の容姿や性格が、私を含め、現実世界の人々と妙に重なっているのだ。
「……悪役、令嬢?」
ページをめくる手が止まった。
物語の中で、王太子の婚約者として描かれている少女。
その髪の色も、瞳の色も、私と同じ。
それだけではない。
微笑むときの仕草。
苛立ったとき、無意識に口元を押さえる癖。
まるで、鏡を見ているかのようだった。
そう、“悪役令嬢”と呼ばれ、主人公をいじめた張本人。
その少女は、私に瓜二つだったのである。
そして彼女の結末は、あまりにも残酷だった。
未来の王妃に許されない罪を犯したとして牢獄に投げ込まれ、人としての尊厳を奪われたまま、王太子の命令で公開処刑。
――救いは、どこにもなかった。
思わず息を呑む。
あの鳥が見せた未来。
そして、この本。
二つを無関係だと思うほど、私は楽観的ではなかった。
(この悪役令嬢は……私だ)
やはりこれは、偶然ではない。
私に向けて書かれた――予言書なのだ。
だが、一体誰がこんなものを?
あの鳥を作り出し、警告してきた者は、味方なのか。
それとも――。
ぞくりと背筋が震え、思わず両腕で自分の身体を抱きしめる。
考えるべきことは山ほどあった。
それでも、張り詰めていた緊張が一気にほどけ、まぶたは重く落ちていく。
暖かな布団の中、耳に届くのは自分の鼓動の音だけ。
思考は次第に溶け、そして、意識は静かに闇の底へと沈んでいった――。




