2. 青の幻
ふと気がつくと、どこまでも鮮やかな青空の下にいた。
雲ひとつない空は、光を受けて眩しく輝き、見上げているだけで胸が締めつけられるほど美しい。
(これは……夢かしら?)
足元に視線を落とすと、白い小さな花が一面に咲き誇り、風に揺れて微かな香りを漂わせている。
花をよく見ようとしゃがんだ、そのとき――。
空の色と見まがうほど青い小鳥が、目の前に舞い降りた。
「アリーヌ嬢。聞いてください」
澄んだ声が響き、思考が一瞬遅れる。
どうやら、この鳥が話しているらしい。
「この物語は、あなたの未来。何もしなければ、悲惨な結末を迎えるでしょう」
「……未来?」
思わず、小鳥の羽根を見つめた。
まるで空の欠片が、そのまま生きているかのようだ。
「どういうことかしら?」
「あなたが愚かな選択をすることで条件が分岐し、未来は変わります。
ある時は修道院へ送られる途中で事故に遭い、またある時は、遠い国の異様な嗜好を持つ貴族に嫁がされ――」
鳥は言葉を切り、青い喉を小さく震わせた。
「――そして、ある未来では。広場で、重い罪人として処刑される結末が見えています」
私はしばし沈黙し、それから微笑を形作った。
「ずいぶんと手厳しい占い師ね。あなたは何者なの? まずは名乗るべきではなくて?」
「申し訳ありません。名乗ることはできません」
「それなのに、信じろとおっしゃるの……?」
声に、わずかな棘が混じる。
だがその裏で、意識を内側へ向け、魔力の流れを探った。
――微弱だが、確かにある。
(やっぱり、ただの夢じゃない)
誰かが意図して見せている――“幻”。
「信じていただく必要はありません。ただ、警告したかったのです」
「……なぜ、私に?」
鳥は首を傾げ、青い瞳のようなものを細めた。
しばらくの沈黙の後、静かに答える。
「あなたには、幸せになってほしいのです」
「幸せに……?」
思わず問い返す。
その口ぶりは、まるで――昔から私を知っているかのようだった。
(知り合い……?)
本に魔法がかかっていたのは確かだが、この魔力はナタリーのものではない。
では、いったい誰が、何のために――?
「よくわからないけれど、あなたの忠告は受け取っておくわ」
「ありがとうございます。どうかお気をつけください。誰を信じ、何を選ぶか――そのすべてが、分岐点になります」
「……誰を信じるか、ね」
その言葉を反芻したとき、風が強く吹き、白い花弁が舞い上がる。
次の瞬間、小鳥の姿は消えていた。
ただ、澄み切った空の青だけが、まだそこに残っていた。




