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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第三章 学園一年生

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40. ふたりの休日

 ――そして、約束の日が来た。


 五日という時間は、思ったより早く過ぎていった。


(たとえ婚約破棄の未来が待っているとしても――何も知らないまま避け続けるのは、失礼よね)


 そう結論づけ、昨日届いたワンピースに袖を通す。


 白いブラウスは光をやわらかく返す薄手の生地で、丸襟には紺の繊細なステッチ。

 胸元の細いリボンが初夏の風にそっと揺れ、重ねた紺のワンピースは歩くたび静かになびく。


 階下に降りると、すでに殿下が待っていた。


「アリーヌ、迎えに来たよ」

「……はい、シリル」


 殿下は紺のライトアウターを羽織っており、内側には、私のブラウスに合わせるような、細い白のステッチがさりげなく走っている。

 そして――私と殿下の胸元には、同じ桔梗のブローチが輝いていた。


 馬車に乗り込むと、ふと視界に黒縁のメガネが映る。


「……メガネ、ですの?」


(……似合いすぎでは?)


「ああ、これは少し特殊でね。光の魔力で、赤の他人には顔が判別できなくなるんだ。

 ぼんやり“誰かがいた”とは思われるけど、特定はされない」

「まあ……便利ですわね」

「王族に代々伝わる魔道具なんだよ」


 その声にはほんの少し誇らしさが滲み、思わず笑みが零れそうになった。



「――着いたよ」


 馬車を降りると、懐かしい風と活気のある声が迎えてくれた。


「……アルベルク……!」

「まずは散歩から。せっかくだし、自由に歩こう」

「は、はい!」


 胸が高鳴る。忙しさにかまけて、街へ足を運ぶことすら久しかった。


「ねえ、今日は人目につくから、僕のこと“シリー”って呼んで?」

「……わかりました。それなら――」

「うん。君のことは“アリ”って呼ぶ」

「……え?」


(街で使っていた名前……知ってる? まさか……偶然よね……?)


 歩けば次々に声が飛ぶ。


「アリちゃん!? 久しぶりだねぇ!」

「その隣のイケメン、もしかして彼氏かい?」

「ち、違っ……!」

「ええ、お付き合いしています」

「し、してないですわ!?」


 笑い声と温かな視線に包まれながら、街はまるで私を歓迎するようだった。


(……やっぱり、この街が好き)


 そんな中、殿下が小さく指差す。


「ここ、入ってもいい?」

「もちろん」


 そこは――ナタリーが経営する雑貨店だった。


「あら、アリちゃん。いらっしゃい」

「こんにちは、サリー」


 店内を歩くうち、ふと視線が吸い寄せられる。


「……素敵」

「箱?」

「アクセサリーや思い出を入れる小箱です。鍵付きで……貝の装飾が、とても綺麗」


 限定品のそれは、傾けるたびに螺鈿が虹色の息を吐くように輝く。

 蒼から桃色へ、そして金へ――一瞬ごとに変わる光が、小さな世界に波紋を描いているようだった。


「これにしますわ」

「じゃあ、僕が払うよ」

「いえ、自分で」


 即答すると、彼はほんの一瞬目を瞬かせる。


「遠慮しなくていいんだよ? 誘ったのは僕だし」

「違いますの。“自分で稼いだお金で好きなものを買う”ことが嬉しいんです」


 そう告げると、彼の表情が柔らかく緩んだ。

 まるで、大切な宝物を見つめる人のように。


「……そういうところ、好きだよ」


 その声音に、心臓が跳ねる。


(――今日という日は、思っていたよりずっと危険だわ)


 なのに、怖いと思うより――心が弾んでいた。

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