35. 祝宴の夜
――ざわざわ、ざわ……。
かつて、オリエンテーションで集まったホール。
テーブルが並び、色とりどりの料理が華やかに広がっている。
ただ、あの頃とは違う。
この場にいるのは――厳しい訓練を乗り越えた、50名弱の精鋭だけだった。
「お姉さま? どうされましたの?」
「ふふ。向こうから駆けてきたローズのことを思い出したのよ」
「そうでしたわね。あれが始まりでしたわ」
「ええ。長かったようで、あっという間だったわね」
半年。
骨が軋む訓練、夜明け前の走り込み、何度も倒れた実戦――
たった一言では語りきれない時間だった。
痛みも、涙も、迷いもあった。
それでも――確かに前へ進んだ。
「皆さん、魔導士試験お疲れ様でした。合格者は登録手続きがありますので、後ほど担当者の案内に従ってください。
――さて」
ピィィッ!
壇上のお祖母様が突然笛を鳴らす。
直後、扉が勢いよく開き、討伐隊の面々が雪崩れ込んでくる。
「本日の訓練修了と、我らが新人魔導士誕生を祝うぞっ!!
グラスを手に――乾杯!!」
「「乾杯ーーーっ!!」」
笑い声が跳ね、音楽が流れ、宴が始まった。
◇
「お姉さまとラファエル様は、今年の秋から学園に通われるのですよね?」
「そうね」
「いいなぁ……私も今年入学できません? 飛び級とかで」
「飛び級って……その頭じゃ絶対無理だろ」
「ッ……今、ものすごく失礼なこと言いましたわよね!?」
ローズがいつも通りぷくっと頬を膨らませる。
この愛らしいやり取りも、しばらく聞けなくなるのかと思うと――胸が少し寂しくなる。
「同じ学年ではないけれど、来年には学園で会えるわ。もう少し我慢ね」
「うう……会う頻度が減ってしまいますわ……」
「ふふ。ラファエル様にもね?」
「俺!? いや……別に減っても……」
「そうですわよ! 清々するってもんですわ!」
「ローズ嬢、お前な……!」
笑い声が絶えず、楽しい時間が過ぎていく。
「おっ、うちの見習い達はここにいたか!」
「隊長!」
オベール隊長が笑いながら近づいてくる。
「よくやったな。誇っていいぞ。
……それにしても、ベルナール。最後の実戦で少し動きが硬かったな?」
「えっ、気づいて……」
「当たり前だ。でも失敗を恐れる必要はない。あれくらいの暴走を立て直せないなら、隊長の名折れだ!」
豪快に肩を叩かれ、思わずよろめく。
……かなり飲んでいる。
そして隊長が立ち去った直後――
「……素敵、ですわ……!」
「ローズ!?」
「筋肉……触りたいですわ……!」
「まじかよ……」
落胆するラファエルの肩に、そっと手を添える。
「アリーヌ」
「お祖母様!」
振り向くと、お祖母様が穏やかな笑みを浮かべ立っていた。
「三人とも――よくやった。その成長を誇りに思うよ」
「「ありがとうございます!」」
声が重なった瞬間、視界がふっと滲んだ。
(……うん。本当に。私はここまで来られた)
誇りと安堵が胸に広がる。
その温かさは、夜が更けても胸の奥で静かに灯り続けていた。




