↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第二章 魔導訓練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/60

34. 恐怖の向こう側

「皆も知っている通り、今日はベルナールとアンドレの魔導士試験だ。作戦は二人に任せる。

 第8部隊は、オルカナ川周辺で確認された魔物の討伐を担当する」


 オベール隊長の声が響き、一同の空気が張り詰めた。

 私たちは馬にまたがり、休憩を挟みながら川へ向かう。


 風は冷たい。なのに胸の奥だけが妙に熱い。


「緊張してきた……」


 思わず漏れた声に、すぐ隣から返答がくる。


「俺たちなら大丈夫だ」

「……魔物次第ですわね」

「焦るなよ。実戦は何度も経験してきただろ」


 ラファエルの穏やかな声に頷く。

 だが心臓だけは頑固に速く脈打っていた。


 やがて視界の先にオルカナ川が広がり、陽光を受けた水面がきらきらと揺らめく。

 普段なら釣りや散歩を楽しむ人々で賑わう場所――だが今日は違う。


 水辺の中央。

 黒い影が、じっとこちらを見据えるように鎮座していた。


「アリーヌ嬢? 顔色が……」

「……大丈夫ですわ」


 嘘だった。胸が締めつけられる。


(あれは――あの時と同じ)


 角を持つ獣。煤のように黒い鱗。

 初めて戦った、あの恐怖の象徴。


 逃げ惑う人々の姿が脳裏をよぎる。

 石畳に座り込んだ、ピンク色の髪の少女。

 助けなければと走り出し、意識を手放した自分。


 けれど――


(違う。私はもう、あの時の私じゃない)


 知識がある。戦い方がある。仲間もいる。


 この魔物は風属性。

 竜巻で距離を取る。突進は直線。

 鱗は硬い――だから狙うのは関節、顔、喉元。


 深く息を吸い込み――吐く。


(私は逃げない)


 馬を降り、ラファエルと視線が合う。彼は迷いなく頷いた。


「――作戦を確認します」


 声は震えていなかった。


「まず土属性で防壁を張って初撃を防ぎます。その後、騎士の皆さんが撹乱を担当。

 魔物が竜巻を起こそうとしたら、風を逆方向からぶつけて相殺します」

「隙ができたら俺とアリーヌ嬢が詰める。喉元の鱗を剥がすぞ」


 魔物が低く唸り、水面がさざめく。


「――行動開始!」


 隊長の号令と同時に、全員が走り出した。


 魔物が口を開き、風が急激に収束――次の瞬間、地面がうなる。


(来る――!)


「防壁!!」


 土の壁が立ち上がり、突き刺すような暴風が叩きつけた。

 砂利が舞い、靴が地面に押し付けられる。

 耳鳴り――だが、壁は崩れない。


「撹乱開始!」


 騎士たちが左右から走り抜け、魔物の意識を散らす。怒り狂った魔物が乱暴に爪を振り――足がもつれる。


「今だ!」


 ラファエルの水魔法が顔を直撃し、魔物の視界が揺れる。


「突破します!」


 私は駆ける。魔物が私に気づき、爪が振り下ろされる――が、それより速く滑り込んだ。


(弱点――ここ!)


 喉元の鱗へ、雷を滑り込ませるように撃ち込む。


 バキィッ!


 硬い鱗が砕け、裂け、焦げる匂いが広がる。


 だが次の瞬間、突風に吹き飛ばされ、視界が回転する。


「――っ!」


 地面に叩きつけられるはずだった身体は、柔らかな風に包まれていた。


「大丈夫か!」

「……助かりましたわ」


 息を整え、再び立ち上がる。

 視界の中央――露出した喉元。唯一の急所。


(届く……!)


 雷撃がほとばしり、魔物を貫いた。

 轟音。光。揺れる水面。


 魔物の巨体が震え――そして崩れ落ちる。


 静寂。

 風すら止まったかのようだった。


 その中、隊長の声だけがはっきり響く。


「見事だ。ベルナール、アンドレ。両名、合格とする」

「……っ!」


 胸が熱くなる。


(――ちゃんと乗り越えた)


 震えていたはずの呼吸が、今は静かに誇りへと変わっていた。


 私はもう、あの日の私じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。