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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第二章 魔導訓練

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32. 復帰戦

 今日もまた朝がやってくる。


 訓練着に腕を通しながら、小さく息を吸う。

 もう手は震えない。

 胸に残るのは迷いではなく、決意。


(大丈夫。もう逃げない)


 集合場所へ向かう足取りは、以前のものとはまるで違う。

 あのときの私は、何も知らなかった。


 ――ミアは元気にしているだろうか。


「おーい! アリーヌ嬢!!」


 いつもの騒がしい声。仲間たちが姿を現し、気づいた者から手を振ってくれる。

 それだけで胸がほんのり熱くなった。


(……仲間って、こんなにも心強いものだったのね)


「ほら見ろ、絶対戻ってくると思ってた!」


 誰よりも早く走ってきたラファエルが、遠慮なく肩を叩く。


「当たり前ですわ」

「ははっ、そうこなくちゃ!」


 次いで仲間たちが集まってきた。


「戻ってきて安心した」

「また一緒に戦えるな」


 口々に声をかけてくれる。

 照れくさい。でも嬉しい。


「……克服したようだな」


 遅れて現れたオベール隊長が、ほんのわずかに目元を緩めた。


「はい。本日より復帰いたします」

「そうか。――では行くぞ」


 その短い言葉が、胸の奥に静かな火を灯す。

 また、前へ進める。



 次の目的地のルミエルの森までは徒歩で二時間ほど。

 森は静かで、先日のルーメ砂堂とはまったく雰囲気が違う。

 薄い木漏れ日が差し込み、空気はどこか湿っぽい。


 奥に進むと、突然空気が変わった。


「……止まれ。何かいる」


 視線の先。

 森の奥に、ひときわ異様な存在があった。


 ねじれた太い蔓が地面から突き出し、幾重にも絡み合ってうねる。

 中心には血のように赤い大輪の花。

 粘り気のある花弁が光を鈍く反射し、わずかに脈打っている。


 ――次の瞬間、その花がこちらを見た気がした。


 蔓が伸び、周囲を薙ぎ払う。岩を砕き、木をへし折る。


「全員、戦闘態勢!!」


 甘い香りが漂う。だがその奥に鋭い刺激臭――毒だ。

 触れた蔓は皮膚に痺れを残し、暴れ狂うたび空気が震えた。


(怖い。でも……)


 視界の端に、ラファエルとエリックの姿が見える。


(私はもう、あの日の私じゃない)


 私たちは連携して応戦する。何度も魔法を撃ち込み、蔓を切り裂く。

 しかし、太い蔓が急伸し、隊長を含む数名が拘束された。


「ラファエル様、エリック様」


 落ち着いた声で呼ぶ。焦りは、もうない。


「私が道を開きます。ラファエル様、水で炎を冷ましてくださいませ。

 エリック様は拘束された方々を順に切り離して」


 二人は短く頷く。


 魔力を研ぎ澄ませ、炎を展開――次いでラファエルが水を走らせ、蒸気が白く舞い上がる。

 その隙を縫って、エリックが蔓を切り裂き、みんなを解放した。


「……よし、皆さん離れて」


 手をかざすと空気がびりつき、魔力が集中していく。

 花が大きく開いた瞬間――雷を撃ち込む。


 轟音。閃光。悲鳴。


 赤い巨花は痙攣するように震え、やがて崩れた。


「……まじか。頼もしすぎだろ」


 ぽつりと呟いたラファエルに、エリックも小さく頷いた。


「ふふ……少しは役に立てたようで何よりですわ」

「よくやった。この調子で行くぞ」


 隊長のその言葉が、なにより嬉しかった。

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