32. 復帰戦
今日もまた朝がやってくる。
訓練着に腕を通しながら、小さく息を吸う。
もう手は震えない。
胸に残るのは迷いではなく、決意。
(大丈夫。もう逃げない)
集合場所へ向かう足取りは、以前のものとはまるで違う。
あのときの私は、何も知らなかった。
――ミアは元気にしているだろうか。
「おーい! アリーヌ嬢!!」
いつもの騒がしい声。仲間たちが姿を現し、気づいた者から手を振ってくれる。
それだけで胸がほんのり熱くなった。
(……仲間って、こんなにも心強いものだったのね)
「ほら見ろ、絶対戻ってくると思ってた!」
誰よりも早く走ってきたラファエルが、遠慮なく肩を叩く。
「当たり前ですわ」
「ははっ、そうこなくちゃ!」
次いで仲間たちが集まってきた。
「戻ってきて安心した」
「また一緒に戦えるな」
口々に声をかけてくれる。
照れくさい。でも嬉しい。
「……克服したようだな」
遅れて現れたオベール隊長が、ほんのわずかに目元を緩めた。
「はい。本日より復帰いたします」
「そうか。――では行くぞ」
その短い言葉が、胸の奥に静かな火を灯す。
また、前へ進める。
◇
次の目的地のルミエルの森までは徒歩で二時間ほど。
森は静かで、先日のルーメ砂堂とはまったく雰囲気が違う。
薄い木漏れ日が差し込み、空気はどこか湿っぽい。
奥に進むと、突然空気が変わった。
「……止まれ。何かいる」
視線の先。
森の奥に、ひときわ異様な存在があった。
ねじれた太い蔓が地面から突き出し、幾重にも絡み合ってうねる。
中心には血のように赤い大輪の花。
粘り気のある花弁が光を鈍く反射し、わずかに脈打っている。
――次の瞬間、その花がこちらを見た気がした。
蔓が伸び、周囲を薙ぎ払う。岩を砕き、木をへし折る。
「全員、戦闘態勢!!」
甘い香りが漂う。だがその奥に鋭い刺激臭――毒だ。
触れた蔓は皮膚に痺れを残し、暴れ狂うたび空気が震えた。
(怖い。でも……)
視界の端に、ラファエルとエリックの姿が見える。
(私はもう、あの日の私じゃない)
私たちは連携して応戦する。何度も魔法を撃ち込み、蔓を切り裂く。
しかし、太い蔓が急伸し、隊長を含む数名が拘束された。
「ラファエル様、エリック様」
落ち着いた声で呼ぶ。焦りは、もうない。
「私が道を開きます。ラファエル様、水で炎を冷ましてくださいませ。
エリック様は拘束された方々を順に切り離して」
二人は短く頷く。
魔力を研ぎ澄ませ、炎を展開――次いでラファエルが水を走らせ、蒸気が白く舞い上がる。
その隙を縫って、エリックが蔓を切り裂き、みんなを解放した。
「……よし、皆さん離れて」
手をかざすと空気がびりつき、魔力が集中していく。
花が大きく開いた瞬間――雷を撃ち込む。
轟音。閃光。悲鳴。
赤い巨花は痙攣するように震え、やがて崩れた。
「……まじか。頼もしすぎだろ」
ぽつりと呟いたラファエルに、エリックも小さく頷いた。
「ふふ……少しは役に立てたようで何よりですわ」
「よくやった。この調子で行くぞ」
隊長のその言葉が、なにより嬉しかった。




