24. 討伐隊編成
事件から、もう一ヶ月が経った。
積もっていた雪はすっかり解け、地面のあちこちから柔らかな緑が顔をのぞかせている。
――それでも、ふとした瞬間に思い出してしまう。
あの小屋の湿った匂い。皮膚に張り付くような闇。手首を締めつけた冷たい手枷。
胸の奥がきゅっと軋むたび、あれは夢ではなく現実だったのだと思い知らされる。
けれど、時間は止まってくれない。
ついに訓練も終盤に入り、私たちは“実践フェーズ”に突入していた。
本物の魔物との戦闘。
騎士団員5名、魔導士2名、そして見習い3名。合わせて10名の討伐隊で現場へ赴くという。
「お姉さまと同じチームだといいんですが……」
「ふふ、私もローズと一緒になれたら嬉しいわ」
そう言い合いながら掲示板の前へ向かう。
そして、いよいよチーム分けの発表。
「……ああっ。お姉さまと違うチーム……」
ローズがしゅんと肩を落とす。
私も自分の名前を追い、チームメイトを確認する。
同じ魔導士見習いは――
ラファエル、そして赤い宝石のような瞳を持つ、焦げ茶の髪のミア・ポワリエ子爵令嬢だった。
ミアとは挨拶をする程度で、ほとんど話したことがない。
「俺はアリーヌ嬢とミア嬢と同じだな。よろしく」
「ラファエル様、よろしくお願いしますわ」
「ローズ嬢は残念だったな、なんかごめんな」
「なっ! それは嫌味ですわね!」
変わらない二人のやり取りに思わず笑ってしまったところで、笛の音が響く。
「チームを確認したら集合場所へ移動してください!」
お祖母様の号令とともに、訓練場が一斉に動き出す。
ローズに手を振り、私は配属された“第8グループ”の集合場所へ向かった。
(……あれ?)
そこに立つ赤髪の青年を見た瞬間、足が止まった。
鋭い琥珀の瞳。
あの夜、フィリップを取り押さえてくれた騎士――
エリック・シュバリエ伯爵令息。
その名を思い出した瞬間、指先がわずかに冷えた。
◇
全員が自己紹介を終えると、討伐隊をまとめるリーダー、ジュール・オベール伯爵が前に出た。
「まず、高貴な身分の者も多いが、今後呼ぶときは敬称をつけないことを了承してもらう」
「「はい!!」」
「第8討伐隊は、ルーメ砂堂に巣くう魔物の討伐を担当する。
明日の朝出発し、ザンデル峡谷町で一泊。明後日の夕方にはルーメ砂堂があるメザル・タウラ地方に到着する予定だ。各自、準備をしておくように」
「「はい!!」」
具体的な地名が挙げられた途端、胸の奥がかすかに震えた。
怖くないと言えば嘘になる。
けれど、不思議と足はすくまなかった。
――明日から、私はとうとう本物の“魔導士”への道を踏み出すのだ。
そう自分に言い聞かせながら、私は春の空を見上げた。




