22. 影を裂く光
バゴォォン――!!
轟音が小屋を震わせた。
眩い光が視界を横切り、次の瞬間、フィリップの腹に光弾が叩き込まれる。
彼の身体が大きくのけぞり、床に倒れ込んだ。
吹き飛んだ扉の破片が散り、冷たい夜気が小屋に雪崩れ込む。
「アリーヌ!!」
聞き慣れた声が耳を貫いた。
振り返るより早く、強い腕が私を抱き起こす。
「……シリ、ル?」
「間に合ってよかった……!」
その声は震えていた。
抱きしめる腕は優しいのに、滲み出る怒気が肌を刺す。
(助かった……)
緊張の糸がぷつりと切れ、体の力が抜けていく。
「殿下! ローズ嬢は僕が!」
低く通る声に目を向けると、ラファエルがローズのもとへ駆け寄っていた。
ぐったりしていたローズは、抱き起こされると胸元にしがみつき、泣き声を上げる。
ピンク色の瞳から、大きな涙が次々とこぼれ落ちた。
「そこまでです」
赤髪の青年――護衛騎士がフィリップを押さえつけ、拘束具を取り出す。
彼から受け取った鍵を殿下が手際よく操作し、私の手枷と足枷を外してくれた。
金属の落ちる音がやけに響く。
「さて……フィリップ・デュヴァル」
殿下の声は氷のように冷たかった。
小屋の空気がひりつき、誰もが動きを止める。
「君は一体、何をしているのかな?」
沈黙。
怯えたようにフィリップが視線をそらすと、殿下は薄く笑った。
「……言わないのか」
殿下はゆっくりと顎をつかみ、逃げ場を封じる。
観念したように、フィリップが口を開いた。
「……ルデュック公爵令嬢と……既成事実を作り、後ろ盾を……得られればと」
掠れた声が震えている。
「父が……再興するにはそれしかない、この薬を使えと……」
「君の兄は真面目に領地を守っているはずだが?」
殿下の問いは容赦がない。
「兄……兄は……ずっと誹謗中傷に耐えて……それでも働いている!
なのに父は、自分の保身だけだ! 再興だの体裁だの……!」
堰を切ったように叫び、拳を握りしめるフィリップ。
ローズもラファエルも、その迫力に息を呑んでいた。
「兄を救うには……僕が……高位貴族と結婚して後ろ盾を得るしかない。
誰も助けてくれないんだ……だから……!」
「――だから誘拐か?」
殿下の言葉は静かで、刃より鋭い。
「薬で惚れれば……合意だ……! 僕にはもう、これしか……!」
「では、なぜアリーヌを攫った?」
ピタリ、とフィリップが固まる。
小屋の中に、呼吸の音さえ消える沈黙が落ちた。
「……言え」
殿下の声は低く、逃げ場がない。
「……アリーヌ嬢が……眩しくて。……欲が出たんだ」
その瞬間。
――ドスッ。
短い衝撃音とともに、殿下の拳がフィリップの頬を打ち抜いた。
フィリップの体が揺れ、鼻から血が滴る。
「連れて行け」
殿下の冷たい命令に、護衛たちが素早く動き、フィリップを連れ出す。
残されたのは、嗚咽を漏らすローズと、震えがまだ抜けない私。
そして――
静かに私たちを守るように立つ、殿下とラファエルの姿があった。




