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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第二章 魔導訓練

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21. 閉ざされた小屋で

 ハッと目を覚ます。


 周囲を見回すも、薄暗くて状況がよくわからない。


 手足は固く拘束されており、動かすたびに冷たい金属が肌に食い込む。

 手枷には魔力封じの細工が施されているらしく、魔力を込めようとしてもまったく反応しない。


 それに対し、自分の口は塞がれておらず、自由であることに気づく。

 けれど――室内の空気は異様に静まり返り、厚い魔力の膜が周囲を覆っているのがわかった。


(……防音結界。叫んでも、誰にも届かないってこと……?)


 心臓がざわりと波打つ。


 身体をわずかに捻ると、布ずれの音と、柔らかなクッションの感触。

 どうやらベッドの上らしい。


(ローズは……?)


 暗さに慣れた視界で隣を確認すると、ローズが横たわっていた。

 規則正しい呼吸。気を失っているだけのようだ。


(私が目を覚ましたことは気づかれていないようね)


 頭をフル回転させる。


 完全に油断していた。まさか、あのフィリップが誘拐に踏み切るなんて。

 しかも、公爵家の令嬢である私とローズの二人を同時に。

 デュヴァル子爵家――かつて伯爵位を持っていたその家の事情が関係しているのだろうか。


(さて、どう動くべきか)


 ここが近くの山小屋なのは、おそらく間違いない。

 二人を気づかれずに運ぶなら、森に紛れた小屋は好都合だろう。

 問題は、この拘束具。これさえなければ、突破できないこともないのに。


(助け……来るかしら)


 心を落ち着けるように考える。

 少なくとも、夕食時に姿を見せなければお祖母様は異変に気づく。

 そこまで時間を稼げれば――。


 カチャリ。


 扉の開く音。

 慌てて目を閉じる。すぐそばに人の気配が近づき、心臓が跳ねた。


「……まだ起きてないか」


 フィリップの声。

 落胆と、どこかほっとしたような気配が混じっている。


 ほどなくして扉が閉まり、静寂が戻る。

 私はゆっくりと呼吸を整えながら、どうにかする手段を探し続けた。



「……お姉さま?」


 どれほど時間が経っただろう。

 ローズが目を覚ましたようだ。声を潜めて答える。


「起きているわ。怪我はない?」

「私は大丈夫ですわ。お姉さまこそ……」

「心配しないで。無事よ」

「……誘拐したのは、フィリップ様ですわよね?」

「ええ、多分ね」

「どうして……こんな……」


 ローズが身じろぎした拍子に、ジャラ、と重い音が鳴った。

 拘束具に気づいたようだ。


「こ、これ……?」

「魔法封じもあるみたい。外すのは無理そうね」

「そんな……」


 絶望の声。それでも泣かないのは、さすが公爵家の娘といったところだ。


「ローズ、できる限り時間を稼ぎましょう」

「助けを待つのですね」

「……そんな時間は、ないと思うよ」


 その言葉と同時に、扉が開いた。

 フィリップが入ってきて、室内の灯りを点ける。

 強い光に思わず目を細めると、少しだけ影を落とした少年の顔が見えた。


「な、なんでこんなことするのよ!?」

「僕には必要なことなんだ」

「犯罪が必要なことなわけないでしょう!!」


 ローズが怒鳴る。

 フィリップはその勢いに怯むこともなく、薄いピンク色の液体が入った瓶を取り出し、軽く揺らした。


「犯罪だと思われなければいいんだよ」


 ローズが恐怖に目を見開いて黙り込んだ。

 今度は、私が口を開く。


「……その瓶の中身は何? 闇市で流れている媚薬かしら」

「惜しいな。闇市のものじゃないけど――魅了薬ってところは正解だよ」


 ため息が零れる。

 はちみつ色の瞳が、揺れながらも覚悟を宿している。


「君たちが僕に惚れてくれれば……全部、犯罪じゃなくなる。むしろ素敵な思い出になる」


 ゆっくりと距離を詰め、怯えるローズの頬へ手を伸ばし、そっと撫でる。


「巻き込んで……ごめん。ごめんね」


 震える手で瓶の蓋を開けようとするが、かすかに手が震えている。


「ローズに手を出さないで!!」


 私は体を支え、全力で足を振り上げた。

 驚いたフィリップは瓶を落とし、尻餅をつく。


「……じゃあ、アリーヌ嬢からにするよ」


 フィリップは瓶を拾い上げ、こちらに歩み寄ってくる。

 キュポン、と軽い音を立てて、瓶の蓋が開いた。

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