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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第二章 魔導訓練

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18. 訓練の日々の中で

「もう無理ですわーっ」


 隣でローズが、大きく両腕を広げて空を仰いだ。


 夏の名残を含んだ風が、髪をさらりと揺らす。

 額には汗が張りつき、陽を受けてきらりと光った。

 

 訓練が始まってから、すでに二週間。

 夜明け前からのマラソンに始まり、筋力強化、続く魔力制御の座学と実技――。

 昨日できなかったことが、今日は少しだけできる。

 その感覚を、身体が確かに覚えはじめていた。


「ダメよ。扱える魔力量を増やすためには、まず体力って教わったじゃない」

「そうですけれどぉ……」


 ローズは情けない声を漏らしながらも、肩で息をしつつちゃんと歩みは止めない。


「ふふ。その声が出るならまだ大丈夫ね」

「お姉さまの意地悪っ!」


 ローズが頬をふくらませていると、横から鼻で笑う声が聞こえた。


「公爵家のお嬢様方は気楽でいいよなぁ。ここは遊びに来る場所じゃねぇんだぞ?」

「そうそう、パパに守ってもらえば?」


 振り向かずとも、誰の声かはわかる。

 ラファエル・アンドレ侯爵令息と、その取り巻きたちだ。

 濃いブルーの瞳が、値踏みするようにこちらを見ていた。口元には、勝ち誇った少年特有の意地悪な笑み。


「なっ……何を!!」

「ローズ、反応しないの」

「でも! お姉さまも馬鹿にするなんて許せませんわ!」


 ローズはきゅっと唇を結び、怒りを隠そうともせずラファエルを睨み返した。

 その真剣さに反して、相手はさらに鼻で笑う。


「おー、こわこわ」


 肩をすくめ、大げさに両手を広げてみせると、ラファエルはひらひらと手を振って先へ歩いていく。

 陽光を受けたオレンジがかった茶髪が跳ねるように揺れ、徐々に遠ざかっていった。


「もう! いつもいつも意地悪ばかり言って!」

「周りからは、わたくしたちがそう見えるのも確かなのでしょうね」

「お姉さま……」

「だからこそ、認めてもらえるように頑張りましょう?」

「はいっ!」


 ローズが元気よく返事をしたその時、穏やかな声が背後から降ってきた。


「大丈夫ですか?」


 振り返ると、フィリップ・デュヴァル子爵令息が立っていた。

 ふわりとした白髪が風に揺れ、はちみつ色の瞳がやわらかく微笑んでいる。


「フィリップ様、ありがとうございます」

「いじめは見ていて気分が悪いからね」

「ほんとに! あいつ、何を考えてるのかしら!」


 フィリップは小さく肩をすくめ、いたずらっぽく言った。


「……好きな子ほど、つい意地悪しちゃうってことかも?」

「冗談でもやめてくださいまし! あんな口の悪い人、絶対に嫌です!」


 ぷいっとそっぽを向いたローズを見て、思わず笑ってしまう。


 確かに、周囲から見れば“甘やかされた公爵令嬢”なのかもしれない。

 ドレスではなく訓練着に身を包み、泥にまみれる姿は上流階級らしくはないだろう。


 けれど――。


 ここに来たばかりの頃より、走れる距離は確実に伸びた。

 魔力の扱いにも少しずつ手応えがある。


(早く、皆に認められるように……強くならなくては)


 そう心に誓い、静かに前を見据えた。

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