17. 養成所の門をくぐって
――ざわざわ、ざわ……。
オリエンテーションが行われる広大なホールへ足を踏み入れた瞬間、むわりと熱気が押し寄せた。
視界いっぱいに人の背が続き、ざっと見ても千人は下らない。
これから、この人たちと一緒に魔導士として学び、鍛えられるのかと思うと、胸の奥がそっと熱くなる。
「お姉さまーっ!!」
弾む声に、反射的に振り返った。
黒髪のツインテールを揺らしながら駆け寄ってくる少女の姿が目に飛び込んでくる。
「……ローズ?」
「お姉さまっ!! やっぱり本当に来ていました!」
満面の笑みを浮かべたのは、ルデュック公爵家の長女、ローズ・ルデュック。
ひとつ下の幼馴染で、昔からなぜか私を“お姉さま”と呼ぶ可愛らしい子だ。
興奮で潤む濃いピンク色の瞳が、きらきらと輝いている。
ここ数年は留学していたはずだけれど――。
「なんでローズがここにいるの? 留学は?」
「お姉さまがここへ来られると聞きまして!」
「……ローズ、本当のことを」
「うっ……ば、バレてしまいましたわね」
観念したように、ローズは胸元を押さえて小さく肩をすくめた。
「……実は、つい一ヶ月前に留学先での履修が全て終わったのですが、帰国したら“魔力コントロールが甘い”と言われまして……」
「まぁ、そんなことを言われたの?」
「お父様は“良い経験になるだろう”とだけおっしゃっていたのですが……お兄様がこっそり教えてくださったのです」
ローズは声を潜め、周囲をちらりと見回した。
「どうやら、“どこかの偉い方からの推薦”があったらしいですわ」
その言葉に、思わず息をのんだ。
「偉い方……?」
「はい。でも、理由なんてどうでもよいのです! こうしてお姉さまとご一緒できるのですもの!」
ローズは、はにかむように笑って私の手を取った。
(……まさかね?)
胸の奥の疑念を振り払うように目を瞬かせ、小さく息を吐いた。
◇
オリエンテーションでは、養成期間の流れや規則の説明に続き、簡易的な魔力量テストが行われた。
慣れない魔力の使用で、肩も背中もどっと重い。
「疲れましたわぁ……」
「ええ、今日は帰ってすぐ休みたいくらいだわ」
人混みを避けながら歩いていると、ローズがふと思い出したように言った。
「そういえば、お姉さまは寮にはお泊まりにならないのですよね?」
「ええ。お祖母様のお屋敷に滞在しているの」
「……お姉さまとお泊まりしたかったのに……」
しゅんと肩を落とすローズが可愛らしくて、小さく笑った。
「お祖母様が許してくださるなら、今度泊まりに来る?」
「……い、いいのですか!?」
「もちろんよ」
ローズの顔がぱぁっと輝いた。
「絶対ですわよ! 絶対に泊まりに行きますからね!!」
勢いよく指を立てて念押しした後、ローズは寮へ駆けていった。
その背を見送りながら、胸の奥でそっと息を吸う。
(……よし。明日から、頑張らないと)
そう気合いを入れなおし、静かな夜気の中、お祖母様のお屋敷へと足を向けた。




