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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第二章 魔導訓練

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16. 新たな門出

 風が心地よく頬を撫でる。


 お祖母様へのお土産――サクサクのクッキーを手持ち鞄に収め、後ろを振り返る。

 お祖母様は現在、魔導士の訓練を請け負っており、私も一緒に参加することになっていた。


「お姉さま、本当に行ってしまうのですか……?」


 今年十歳になる弟が、潤んだ瞳でこちらを見上げている。

 その小さな肩が、頼りなく震えていた。


「そうよ、ロラン。お姉さまは強くなって帰ってくるから、いい子で待っていてね」


 なるべく明るく言ったつもりなのに、ロランは唇を噛んで俯いてしまう。

 その姿に、胸がじんと痛んだ。


「手紙、書いてもいい?」

「もちろん。たくさん送ってちょうだい」


 ようやくロランの表情が少しだけ緩む。


「さあ、そろそろ行かないと。怪我には気をつけてね」


 お母様がそっと背を押してくる。馬車へ向かおうとしたそのとき――。


「……頑張れ」


 低く短い声。振り向けば、お父様が照れくさそうに視線を逸らしていた。


「辛くなったら、いつでも帰ってきていいんだからな」


 隣で腕を組んだお兄様が、不器用な優しさを隠しきれずに言う。

 思わず笑みがこぼれた。


「ありがとう、お父様、お兄様。……行ってまいります」


 皆に見送られながら、馬車はゆっくりと動き出した。



 お祖母様が暮らすのは、山にほど近い自然豊かなアウルデン地方。

 休憩を挟みながら朝から揺られ続け、屋敷の前に着いたのは夜の9時過ぎだった。


 馬車から降りると、澄んだ空気が肺の奥まで染み渡る。

 頭上には星が瞬き、道の灯りすら柔らかく感じられた。


「アリーヌ、久しぶりだね。ずいぶん大きくなって」

「お久しぶりです。しばらくお世話になります」


 出迎えてくれたお祖母様は、以前よりふっくらとしていて、とても健康そうだ。

 この明るく朗らかな人から、どうしてあの表情筋が行方不明のお父様が生まれたのか――本気で不思議になる。


「お土産ですわ」

「あら、ここのクッキー好きなのよ。嬉しいわ」


 クッキーを渡した瞬間、手首のブレスレットを見たお祖母様が、わずかに息をのんだ。

 その表情がほんの一瞬だけ固まる。


「そのブレスレット……」

「え? なんでしょうか?」


 首を傾げると、お祖母様は肩をすくめ、柔らかく微笑んだ。


「いや、気づいてないなら、それでいいわ」


 気になる。

 けれど深追いするのは違う気がして、ぐっと飲み込んだ。


 そのまま屋敷を案内してもらい、最後に寝室へ通される。


「ここを使ってね。何か足りないものがあったら、遠慮なく言うんだよ」

「ありがとうございます」


 白を基調に整えられた部屋は、かわいらしい小物やアンティーク家具が並び、どこか温かい。

 旅の疲れがふっと抜けていくような居心地の良さだった。


 魔導士養成プログラムの開始は四日後。

 それまで、道中で痛めた腰を休めながら、ゆっくり自然に癒やされることにした。

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