表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第二章 魔導訓練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/17

14. 初めての舞踏会

 庭に豪奢な馬車が止まる。


「お嬢様、王太子殿下がいらっしゃいました」

「今行くわ」


 部屋を出る前、鏡に映る自分の姿が目に入った。


 身にまとうのは、淡く透きとおるアクアマリンのドレス。

 幾重にも重ねられた薄絹が光をすくい、まるで黎明の海を閉じ込めたかのように揺らめいている。

 胸元を飾る白の刺繍は冬の庭に咲く霜花のように繊細で、裾を縁取るレースは風のため息のように軽やかだった。


(……殿下って、本当にセンスがいいわ)


 桔梗を模した髪飾りを、そっと髪に挿す。

 婚約が決まった日に殿下から贈られたものだ。

 節目のパーティーにはこれをつけてほしい、と言われていた。


 せっかくの贈り物だからと、つけただけなのに。

 今になって、そのお願いの意味を考えてしまう。


 庭に出ると、馬車の前で殿下が待っていた。

 私とお揃いの色をさりげなく取り入れた礼服を着こなし、いつも以上に整って見える。


「アリーヌ、とても綺麗だ」

「ありがとうございます」


 手を取られて馬車に乗り込むと、車輪が静かに動き出した。


「緊張してる?」

「ええ、少し」

「はは、アリーヌでも緊張することってあるんだね」

「私だって普通の令嬢ですわよ」


 思わず顔を上げると、殿下がわずかに口元をゆるめた。

 いつもの完璧な微笑みではなく、どこか少年のような笑み。


「……無理はしなくていい。今日は、僕が隣にいる」


 その声が、やけに穏やかで、心の奥まで染み込んでくる。

 けれど、ほんの一瞬――彼の視線に、なにか熱を帯びたものを感じた気がして、私は思わず視線をそらした。




 馬車を降り、殿下の腕に腕を絡ませながらエスコートされる。

 周りはざわめき、視線の波が痛いほど突き刺さった。


 羨望か、あるいは――憐れみか。

 私は少しだけ、息を詰める。


 王宮に足を踏み入れると、そこには絢爛たる光の海が広がっていた。


「ごめん、アリーヌ」

「どうしました?」

「王族はあの扉から入ることになっているんだ。一回、ここでお別れしないといけない」

「承知しました」

「迎えに行くから、シルヴァンと待っていて」


 すっと横にシルヴァン・ベルナールことお兄様が立つ。

 殿下は名残惜しそうに微笑み、扉の向こうへと消えていった。


「アリーヌ、似合っているよ」

「ありがとうございます」

「馬子にも衣装だな」

「ひとこと余計ですわ」


 ふふ、と笑ってお兄様に腕を絡める。

 と、そこへ私を呼ぶ声がした。


「アリーヌ、ここよ!」

「ナタリー!」


 ナタリーの濃いブルーのドレスは、彼女の瞳の色を一層深く見せていた。

 胸元には銀糸の刺繍が夜空の星座のように散りばめられ、裾へ流れるにつれて淡いグラデーションが広がっていく。

 王都の流行を取り入れながらも、どこかナタリーらしい独創性が光る装いだった。


「アリーヌは殿下の色ね。似合っているわ」

「ナタリーこそ、すごく綺麗だわ」

「ありがとう。今日のために半年前から準備に取り掛かったの」

「さすがね」


 お互いに上品に微笑み合う。

 貴族令嬢らしく、視線や仕草ひとつにも気を配って。

 

「改めて思うけど……アリーヌが王太子殿下の婚約者だとはねぇ」

「なりたくてなったわけじゃないのよ」

「つまり、殿下の猛プッシュがあったわけね?」

「そういうわけじゃ……」

「親友の恋バナはいいわね」

「そんないいものじゃないわよ」


 スッとナタリーが扇子を口元に運び、視線を巡らせる。


「知ってる? あそこの二人」

「ルイーザ嬢とバルビエ伯爵令息?」

「ええ、幼馴染で、もうすぐ婚約が噂されてるのよ。あんなに楽しそうに話して……可愛いわ」

「もう、また妄想してるの?」

「ふふ、ロマンスはいいわよ。現実より、ずっと綺麗だから」


 その言葉に、少し胸がざわついた。

 私は“現実”の中で、どんな顔をして立っていればいいのだろう。


 ふと、まわりが静まり返る。

 パーティーの幕が上がる――運命の歯車が、また静かに動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ