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断罪の未来を避けたいのに、王太子から逃げられません 〜この人の想いを信じてもいいですか〜  作者: 華舞 このは
第一章 運命の始まり

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10. 目覚めと安堵

「アリーヌ様、お目覚めですか?」


 かすかな声が耳に届き、ゆっくりと瞼を開く。

 見知らぬメイドが、控えめにこちらを見下ろしていた。


 見慣れない天井と、やけに広くて柔らかいベッド。

 胸が一気にざわつく。


(……ここは、どこ?)


 声をかけようとしたその時、メイドは小さく息を呑み、足早に部屋を出ていった。

 誰かを呼びに行ったのだろう。


(落ち着け。まずは状況確認)


 身体を起こすと、疲労が骨の奥にまで残っているのがはっきりわかった。


 部屋は広く、置かれている調度品はどれも見覚えがない。

 観音扉に手をかけて押してみるが、びくともしなかった。鍵がかかっているらしい。

 でも、これは想定の範囲内。


 窓を開け放つと、外の景色が目に入った。どうやら三階。

 足場はなく、飛び降りるには少し高い。

 カーテンとシーツを結べば降りられなくもない高さ。

 ――が、結び方なんて知らない。途中で外れて落ちる未来がはっきり見えたので、これは却下。


 部屋の中を、あらためて見渡す。

 燭台は、王都でも上位貴族しか持てない品。


 そして、壁に飾られた一枚の絵画に、視線が止まる。


 ――宮廷画家の遺作。


 数年前に亡くなり、作品は市場に出ていない。

 たしか、王家が所蔵していると聞いたはずだ。


(ここは――)


 胸の奥で、ひとつの答えが形を取りかけた、そのとき。

 

 ギギギギギ。


 重厚な扉が、軋む音を立てて開いた。

 ゆっくりと光が差し込み、その中に立っていたのは――


 お父様。

 そして、王太子殿下。


「……お父様……殿下……」


 その姿を認識した瞬間、張り詰めていた力が、ふっと抜けた。

 胸の奥に広がるのは、恐怖が溶けるような、静かな安堵。


「アリーヌ、無事でよかった」


 お父様は、普段は決して見せないほど柔らかな表情をしていた。


「魔力を使い切って、気を失ったんだよ」


 殿下が静かに続ける。


 ――そうだ。

 私は、必死に戦っていた。


「魔物は、どうなりましたか……?」

「駆けつけた僕と王宮騎士団で討伐したよ。間に合ってよかった」


 殿下は、安心させるように微笑む。


 あの時、金色に光って見えたのは殿下の髪だったのか。

 助けがなければ、私は――。


「街は……?」

「無事だよ。アリーヌが食い止めてくれたおかげだ」


 お父様の言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。

 歯が立たなかった悔しさと、それでも守れた安堵が、入り混じる。


「あの……桃色の髪の女の子は……?」

「大丈夫。逃げてもらえたよ」


 殿下の答えに、思わず息が漏れる。


「……本当によかった……」


 安心した途端、身体の奥がどっと重くなった。

 魔力が、まだ戻りきっていない。


「眠いのかい?」

「ええ……安心したら、急に……」

「なら、休むといい。もう大丈夫だから」


 殿下はそう言って、そっと私の髪に触れた。

 その指先の温もりに、胸の奥がさらに緩む。


 扉が閉まる音を聞いたところで――

 私の瞼は、自然と落ちていった。

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