第十六話:The Conclusion・結末
阿部と私は二人で絡み合いながら社から飛び出す。
正面に神主の寺社杜さんが大麻を持って唖然として立っていた。
その後ろで阿部の叔母の春奈さんが驚きの顔を見せている。
「あんたら! あんだけ心静かに待っとき言うといたさかいに?! 阿呆かいな?!」
社の階段数段を転がり落ちて寺社杜さんが立つ結界になだれ落ちる私たち。
そこに、事前に「ここに封印する」とされていた壺が供えられていた祭壇、八足台まで倒してしまい、壺が割れた。
「これは……困りましたね……」
寺社杜さんは冷静にそう言う。
「いやいや、オレたち潰されて死ぬとこやってねんで?!」と阿部が反論する。
「何やて? 何がつぶれるやて? 後ろ見てみぃな。」春奈叔母さんが怖い顔をして指摘する。
起き上がって二人で後ろを見る。
社は入る前同様何事もなくそこに建っている。
確かに自分たちが中にいた時は、ひしゃげて潰れる直前だったはずだ。
「どう言う……」
あの光景が、幻だったというのか?!
その時、無我夢中で掴んでいた呪物が鳴り出す。
ピリリリリ……ピリリリリィ!!
「ヒィ!!」手放そうとするも、指が引き攣って手放せない。
ソレは拾った時と同じスマホのカタチになって見える。
「アハハ!お兄ちゃん……どうしたの?」
受信アイコン押すまでもなく勝手に通話モードで喋り出すスマホ……に見える呪物。
手前にはちょうど「代わりに封印する」と言われていた割れた壺が転がっている。
「アハハ!そんなチャチな壺にあたしを封印なんて酷くない?!……ってか無理ムリィ〜」
「なんと、ここまでハッキリと人の言語を発するとは……」
寺社杜さんが驚愕しながら木の先にふさふさの付いた大麻を構える。
「かしこみかしこみも白す! 高天原に神留まり坐す、皇親神漏岐神漏美の命を以て――」
詔が響くが、私の手のひらの上の呪物はスマホの形をしたまま意にも返さずしゃべる。
「お兄ちゃん……さやか悲しいよ~せっかく、こうして会って話が出来たのに」
「な、何度も言うけど……俺は、妹なんかいないんだ!誰だよ?!そして何でこんなに執着するんだ?!」
「……ようやく、話を聞いてくれる気になったんだね?」
「え?!」
「いけません!……関心を寄せないで!存在を肯定するようなことをしてはいけません!!」
寺社杜さんは初めて少し慌てたように私の応対に割って入った。
「十種の神宝の威を以て、急々如律令――鎮まれいっ!!」
恐らく壺のために用意した札を私の手ごと封じるために、差し出す。
バチィ!!
昔のエレベーターに乗る時のボタンを押すと指先が痺れた静電気……あれを10倍にしたような衝撃が起きて、私も寺社杜さんも弾かれて転ぶ。
「いてて……」
起き上がると、寺社杜さんは烏帽子が落ちて倒れていて、阿部と春奈叔母さんが助け起こしているところだった。
阿部も、春奈叔母さんも、こちらを見る目が普通ではない。
私自身は一体どうなってしまったのだろうか?
その時、懐が震える。
今度は何だ?!
私の右手は呪物を離せない。
これが恐ろしい……最初社に入って、意識が混乱し不安に苛まれて阿部に正気に戻してもらった。
だが、直後、社が変形し、押しつぶされると思いコイツを外に投げ捨てれば…と思ったが、その前に扉を破った拍子に地下の空洞に飛び出してしまった。
……冷静に考えて、全部私自身が起こしている……と考えれば、呪物関係なく私中心に事件が起きているではないか……
「な、なあ、阿部……もしかして俺が……?」
「近藤!正気になれ!!お前じゃない……お前が憑かれているのは間違いないで……だから」
懐で震えるのは、私の携帯だった。
「近藤 弘美(母)」ディスプレイに母からの着信。
「は、母から着信です……」
阿部は止めておけという顔をしている。
春奈叔母さんは、サングラスでイマイチ表情が読めない。
寺社杜さんは千切れた札を見ながら、少し考えて言う。
「君に起きていることは、外からの悪鬼羅刹の類ではないのかもしれない……」
「な、何を……」言っているのか分からない。
「電話にでてみなさい……そして、聞いてみるのです……」
もはやそれしかないと思えた。
受信アイコンを押す。
「もしもし……」
「仁かい?」
「ああ、そうだよ……」
「あんたに伝えておかなければならないと思ってね……言いにくい事さね」
左手に自分のスマホ、右手は呪物のスマホ。だが、それは先ほどから沈黙している。
沈黙はしているが、そこに何かがいる気配はする。
「何だよお袋……今更改まって」
「あんたから電話かかって来た時さ、思わず妹の話が出ただろ?」
「ああ……」
「あんたは小さかったからさ、忘れているんだろうと思うし、あたしも忘れたい出来事だったからね……話す機会もなかったんだけどさ……」
まさか――
「あんたには、妹がいる――はずだったんだよ」
「は?……何ソレ?初耳なんだけど??」
「あんたは未だ二歳だったしね……覚えてなくて当然さ」
お袋は何を言っているのか?
「え?俺に妹がいたの……?」
「会ったことは無いさ……だって」
「だって?……だって何だよ?!」
本当はもう分かっていた。近藤家は私が子供の頃からちゃんとした仏壇があった。
当然両親の祖父母の位牌が並んでいて、ちゃんと節目に線香を上げるのが家として決まりだった。
位牌は四つのはずが五つあった。
子供心にあまり気にしていなかった。
曖昧な記憶だ。
一度両親が珍しく喧嘩していた。
「なあ弘美、アレは外さないか?」
「何でですか?」
「だって、アレがあると……前に進めないだろ」
「ですが、あなた、私は……」
「いいか、仁だって大きくなったら、会ったこともない妹に背負わされたらかわいそうじゃないか」
「可哀想って何ですか?!……仁もあの子も私の子供です!」
「小さな子供に背負わせる必要はないって話だよ」
「嫌です!だって夢にまでみるのですよ?!」
「それが怖いって話だよ!!」
――以来、仏壇の位牌は四つになった。
そんなことは、完璧に忘れていた。
「あなたの妹は……生まれてこれなかったんだよ……ごめんね。母さんが忘れることが出来なくてね」
その後何かをお袋が言っていた気がするが、耳に入っても何も頭には言語として入ってこなかった。
何故なら、目の前に会ったこともないのに、何故かよく知っているような気がする女性が立っていたからだ。




