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夜道で拾ったスマホ・The Smartphone-like Object Found on a Dark Road  作者: 黒船雷光


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第十七話:The Full Story・顛末

 私の前に佇む女性は、年齢不詳ではあるが、明らかに若い。


 今年40歳のオッサンになった私の2歳の時の妹なら、まあまあな妙齢の女性であるべきだ。

 だが、それは関係ないだろう……そもそも、この世に生を受けられずに潰えた命だ。


「近藤さやか……お袋は名前まで決めていたのか……」


「あは、お兄ちゃん……ようやく、私を見てくれたね」


「さやか……と呼ぶべきかな」


「名前を呼んでくれて嬉しい」


「何故……」


「だって、お兄ちゃん……危なかったんだよ?」


 その顔は以前アルバムで見た、お袋というより親父の若いころに似ている。

 衣装は、やはり昔のアルバムでお袋が来ていた少し前の流行りのワンピースだ。


「それはどういう――」


布瑠部(ふるべ)由良由良(ゆらゆら)布瑠部(ふるべ)――!!」

 寺社杜さんの祝詞(のりと)が割って入る。


「ま、待ってくれ!」

 寺社杜さんの方をみて、懇願する。彼女は悪霊じゃない――と言おうとする。


「良いの……大丈夫」

 さやかは悪意のない笑顔を浮かべて幻影のように消えた。


 いや、元々見えていなかったものを勝手に想像していたのかもしれない。


「何がぁ?大丈夫なもんか!」


(かむ)の障壁を以て、其の(おぞ)ましき口舌(くぜつ)を封じん! 割れたる器の代わりに、我が大麻(おおぬさ)の芯へ引き(こも)れ!!」

 寺社杜さんの大麻が振るわれると、――その残滓も消えた。


「彼女は――」


「封印されました」

 寺社杜さんは静かに答える。


 膝から力が抜ける。

 その場にへたり込んでしまう。


 右手に握っていたスマホみたいな呪物は、位牌でもなく私自身が握り潰してしまっていた。

 指から黒い粉とわずかな破片が崩れて零れ落ちる。


「もう安心です」寺社杜さんは衣装を整えてニッコリ笑う。


「よかったなぁ~わざわざ京都まで来てもらってたいへんやったやろ?」

 春奈叔母さんがカラカラと笑う。


「…………」

 地下のコンクリートで囲まれた空間。

 天井には体育館でよく見る水銀灯のような巨大なライトがぶら下がり、明かりを提供している。


 あのようなことが無ければ強烈な違和感しか感じない異様さが漂うが、今は静かである。

 改めて非日常を体験したという印象が残っている。


 阿部がゆっくりとこちらに歩いて来て、苦笑しながら話かけてくれる。

「まあ、あんまし気持ちのええ終わり方ちゃうけど、一段落(ひとだんらく)したっちゅうことで、これで帰れるな」


「……ああ」


 絞り出すように返事をする。


 どういう結末であれ、阿部は私を案じてここまで連れて来てくれた。

 そのことには感謝である。


「すまないな……こんなところまでつき合わせてしまって」

「何言ってんねん……オレとお前の仲やないか。気にせんでもええで」


「ところで……この場合のアレ……お祓い料?ってどのくらいかかるんだ?」


「おほほほ、よう分かってらっしゃるなぁ。ここは身内やしな、一本でよろしわ」

 春奈叔母さんは指一本立てている。

「今すぐでなくてもいいけど、なる早でお頼み申します」とニコニコしている。


「一本……って一万円……なんてこと無いよね?」


「一本言ったら、帯留め一本や。つまり百万やね……」


「ひゃ……っ?!……まけてもらえない……かな?」

「無理やろ……これだけの大事になったんや……普通なら五本とかやで?」


「ご……嘘だろ……呪いより強烈なんだが……」

「阿保か命あっての物種やで」


 そんな下世話な話をしながら地上に戻る。

 すっかり深夜のとばりが落ちて公園内は静けさの中に草木が風に揺れる音だけが響いている。


「ほな気いつけてかえりや」と寺社杜さんと春奈叔母さんは立ち去った。

 それを阿部と共に見送りながら、感慨に耽る。


 妹の「さやか」は、私に連絡をして来た。


 何故?


 毎日深夜まで残業する私を気遣ったのか?


 私は一切彼女の存在を認めず否定し、翌朝はお袋に連絡して否定しようとした。


 彼女は一貫して嘘はついていなかった。


 私が受け付けなかっただけである。


 翌日の人身事故と会社の会議の問題は、彼女が引き起こしたのではなく仕事に間に合うように助けてくれていたと考えれば、辻褄はあう。


 部長の件にしても、もしかしたらこれ以上無理をさせないために掛け合ってくれたのでは?


 ……それを、私は全部否定的にとらえていた。

 阿部は、単に直感で霊の存在を感じ、助けようとしてくれた。


「この時間やと、始発待って帰るしかないな……漫喫でもしけこむか」


「そうだなぁ……」


 幽霊が必ずしも悪鬼羅刹の類ではないこと、自分の視界の範囲では見えていないことが多いこと……今回の一件で色々見ることができた気がする。


 京都の空は東京と比べてはるかに広く、星空も良く見える。

 阿部と共に駅に向かって、「ちょっと遠いけど、歩いて行ける距離だな」とのんびり歩き出す。


 自分のスマホの連絡先に、いつの間にか「近藤さやか」という名前が追加されているのを知る。

それは、もう少しだけ後日の話だ。


<了>

最後までお付き合いいただきありがとうございました。


他人のスマホを覗き見てしまったらヤバい奴に憑りつかれる……というコンセプトでスタートしましたが何故かハートフル怪奇談になってしまいました。よろしければ★なり感想を頂けると嬉しいです。

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